6月14日、3度に亘って延期されていたスカイマークの新サービスが始まった。ミニスカートの制服を着たキャビン・アテンダントが搭乗し、国内線で初めてとなるエアバスA330-300型機を就航させ、全座席のシートピッチ(前後間隔)を他社の普通席より約20cmも広くするなど、話題性とその大手に匹敵するようなプレミアム路線を行くサービスで注目を集めている。

スカイマークが新しく導入した中型(2通路)機のエアバスA330

ところで、そのスカイマークやエアドゥ(北海道国際航空)、ソラシドエアなどの新興航空会社と、2年前から運航をはじめたピーチ・アビエーションやジェットスター・ジャパンなどのLCCは、どこが違うのだろうか?

LCCは「Low Cost Carrier」とつづり、正確に訳すと「低コスト航空会社」となるが、LCCが飛びはじめた当初は新興航空会社とごっちゃになった報道も多く、ひとまとめにして「格安航空会社」と表記するメディアも少なくなかった。

アメリカで生まれ世界に拡大したLCC

LCCの原型となったのは、1970年代にアメリカで運航を始めたサウスウエスト航空だが、JALやシンガポール航空、アメリカン航空といったそれまでの既存の航空会社とは全く違った発想で運航を行った。つまり、格安運賃の実現だ。そのために運航にかかる経費(コスト)を徹底して節減した。

例えば、大手が長距離路線も短距離路線も運航するに対し、LCCは短距離(主に4時間以内)の路線に限定して運航。長距離も短距離も運航する大手は、大型機から中・小型機まで数種類の飛行機を保有する必要があったが、短距離のみのLCCはエアバスA320やボーイング737など小型(単通路)機で事足りた。

機材を統一することは、整備やパイロットの育成にかかる経費の節約にもつながる。また、短距離なら機内サービスを手厚くする必要はなく、その点でも経費の節約となった。さらに、事務所を街中ではなく家賃の安い空港近辺に置いたり、従業員の働き方をフレキシブルにしたりすることで、家賃や人件費も節減した。

中には、「機内食が食べたい」「荷物を預けたい」「毛布がほしい」とサービスを要望ずる声もあった。しかし、全ての乗客がサービスを要望するわけではない。そこで、そうしたサービスは有料にして希望する乗客だけが購入できるようにしたのである。

その後、LCCはヨーロッパやアジアなど世界各地で産声を上げ、遅ればせながら、一昨年には日本でも運航を始めた。

日本独自の「規制緩和」が生んだ新興航空会社

これに対し、日本で新興航空会社が運航を始めたのは1990年代。バブル経済崩壊後の規制緩和の嵐は航空業界にも吹き荒れ、新規航空会社の参入が認められたからだ。

LCCは単通路機のエアバスA320など一回り小さな飛行機を使うのが主流

最初に運航を始めたのがスカイマークで、1998年9月に羽田~福岡線を開設。セールスポイントは「大手の半額」だったが、運輸省(現国土交通省)から1日3往復程度の発着枠しか与えられず、JALやANAの10便前後に比べると利便性の悪さは歴然だった。また、規制の緩和とはいえ、航空自由化としては諸外国に比べると中途半端であり、現在のLCCでは当たり前のようになっている片道数千円といった激安運賃は設定できなかった。

さらに、大手が同じ半額運賃を設定しても公正取引委員会は見て見ぬふりを決め込むなど、世の中が規制緩和に追いついていない面もあった。その後に運航を始めたエアドゥやスカイネット・アジア航空(現ソラシドエア)、スターフライヤーなども同じく大手との競争に苦しんだ。結果、ほとんどの新興航空会社がANAとJALと共同運航をしたり、中には資本関係を持ったりなどして、大手に組み込まれていった。現在でも独立した運航を行っているのはスカイマークだけである。

また、新興航空会社は運賃は安いものの、預け荷物などの基本的なサービスは無料であり、当日の電話予約もできるなど、どちらかといえば大手に近いサービスを提供している。

こうしたよく言えば大手とLCCの中間的な存在、悪く言えば中途半端な存在といえるのが新興航空会社だ。LCCが続々と運航を始めた諸外国に比べると、日本独特の中途半端な規制緩和の中で生まれた特殊な航空会社ともいえるだろう。

ただ、今では運賃の自由化が進み、新興航空会社もLCC並みの激安運賃を設定できるようになっている。飛行機もLCCと同じ小型機に統一するなどし、また一方で預け荷物を無料にするなど、サービスを一部無料にするLCCが出てきた。要するに両者の「垣根」がどんどん低くなっているわけである。

ある航空関係者は、「JALやANAなどの大手に対して競争を挑むLCCや新興航空会社は、要するに航空ベンチャーだ」と言っているが、そう考えるのもいいかもしれない。

筆者プロフィール : 緒方信一郎

航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。