STAP細胞の論文不正を受け、外部委員で構成する理研(理化学研究所)の改革委員会は12日に、「研究不正再発防止のための提言書」を公表した。STAP研究拠点であった理研CDB(発生・再生科学総合研究所)の解体を含む、厳しい内容である。
同提言書では、不正発生の背景に「研究不正行為を誘発する、あるいは抑止できない、組織の構造的な欠陥があった」としている。さらに深刻な問題は、「理研のトップ層において、研究不正行為の背景及びその原因の詳細な解明に及び腰」と疑わざるを得ない対応が見られることと指摘。「事実を明らかにすることにより責任の所在が明らかになることを怖れている」可能性に言及している。提言として、CDBの解体、新たなセンターを立ち上げる場合は、トップ層を交代して研究分野及び体制を再構築することとしている。
小保方氏が、もし本当にSTAP細胞の作製に成功していたならば、それは、iPS細胞の作製を上回る偉業となるはずであった。
iPS細胞は、生物のあらゆる細胞に成長できる万能細胞で、再生医療に欠かせない。山中伸弥・京都大学教授がヒトの皮膚細胞から人工的に作製することに初めて成功。その功績から2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。一度病気や怪我で失われると再生できない神経や臓器の再生が可能になることで、治療不可能と考えられている難病に治療の道が開かれる。ただし、実際に医療に使うまでには、超えなければならない数多くのハードルがある。
STAP細胞は、外部から刺激を与えるだけで哺乳類の体細胞を万能細胞に変化させる現象とされた。iPS細胞よりも作製が格段に容易なので、再生医療普及の切り札になると期待された。STAP現象の存在自体が疑わしいと考えざるを得なくなった現在、改めてiPS細胞の応用研究にオールジャパンの研究力を結集していくべきである。理研CDBは、万能細胞を使った再生医療について日本で最先端の研究を行ってきた。iPS細胞を使って加齢黄斑変性(網膜の病気)治療の臨床試験を始めている。組織トップのガバナンス問題で、まじめに研究に取り組んで成果をあげてきた研究者の業績がすべて否定されることは、あってはならない。
再生医療とともに、難病治療に道を開くとして世界中で期待されているのがバイオ医薬品である。バイオ医薬品とは、生物が営む生命現象や生体機能を利用して生産された医薬品の総称である。従来の医薬品は、自然界に存在する物質を抽出、または科学的に合成して製造していることから、適正な使用法を守らないと重い副作用が生じる恐れがあった。バイオ医薬品は、体内にあるタンパク質を使って作り出した医薬品なので、副作用が小さいというメリットがあり、ガン・アレルギー性疾患・ウイルス性疾患などの治療に道を開きつつある。
日本は、バイオ医薬品の研究開発で欧米に比し大きく出遅れている。世界でバイオ医薬品市場が拡大する中、日本は蚊帳の外である。STAP細胞の生成に成功して、再生医療では日本が世界のトップを走ることが期待されたが、夢幻であった。
iPS細胞の作製に成功した日本だが、ぐずぐずしていると再生医療への応用研究でも、欧米に劣後することになりかねない。実際、海外の応用研究で、数々の成果があがっている。STAP細胞をめぐる混乱で、日本のiPS細胞の研究にも遅れが出ないことを祈りたい。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。