財務省が発表した4月の国際収支状況(速報)によると、日本の旅行収支が1970年7月以来約44年ぶりに黒字となった。黒字額は177億円。貿易・サービス収支は1兆4,401億円の赤字で、すっかり赤字体質が定着する中、一人旅行収支が気を吐いた。

訪日外国人の急増が、旅行収支黒字転換の要因だ。円安が進んで、外国人から見た日本旅行のコストが大きく下がった効果で、外国人に日本旅行ブームが起こっている。4月の訪日外国人観光客数は、前年比33.4%増の1,231,500人と、月間で過去最高を更新した(日本政府観光局の推計)。一方、日本から海外への渡航者数は前年比▲4.4%減の1,190,000人であった。円安によって日本人から見た海外旅行のコストが高くなったことが影響した。日本人の一部に、国内旅行に回帰する動きが出た。

(グラフA)訪日外国人観光客数の推移(2011年1月~2014年4月)

(出所)日本政府観光局(JNTO)データから楽天証券経済研究所が作成

訪日外国人の株は年々増加している。2011年3月は、東日本大震災が起こったために、大きく減少した。地震への恐怖に加え、福島原発の放射能漏れ事故の影響が大きかった。2012年は、外国人観光客の数がようやく回復し始めたところで、8月に尖閣諸島国有化をめぐって日中対立が深まり、中国からの観光客が落ち込んだ。

2013年・2014年は、円安が進んだ効果で、アジアからの観光客数が再び大きく伸びた。

国別の内訳を見ると、驚くべき傾向がわかる。2014年4月の中国からの観光客が、前年比90%増の19万人と過去最高を更新したことだ。日中関係が改善したわけではないのに、なぜか。答えは、「円安効果は、反日感情より強し」としか言いようがない。円安・人民元高で、日本への旅行コストが大きく下がった結果、中国では今、一番行きたい国のトップに日本が踊り出ている。

(グラフB)中国からの訪日観光客数(2011年1月~2014年4月)

(出所)日本政府観光局(JNTO)データから楽天証券経済研究所が作成

旅行後の日本の評判は上々である。「日本人が親切で驚いた」「日本に来る前は日本が嫌いだったが、日本に来て考えが変わった」といった声が多い。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。