6月2日から、待望の4K試験放送が始まった。画素数が、従来のフルハイビジョンの4倍。そこまで高精細になると、実物を見るのに近い感覚を得られるという声もある。
放送局や通信会社、家電メーカーなどが加盟する次世代放送推進フォーラムが放送局となり、スカパーJSATの衛星放送波を使って4K番組の提供を行っている。当初は午後1時から7時までの6時間限定で放映している。目玉番組として、ブラジルで開かれるサッカーワールドカップの日本戦など一部試合を4Kで放映する計画もある。
4K放送を全国放送レベルで実現するのは世界初だ。とは言っても、一般家庭で視聴できるようになるのは、実はかなり先になる。当初は、試験放送を流している一部家電量販店の店頭や、街頭テレビでしか見られない。
一般家庭で視聴するには、4K対応テレビに加え、4K放送を受信する専用チューナー、CS放送対応アンテナ、スカパーの視聴契約が必要である。ところが、肝心の4K対応チューナーがまだ発売されていない。ソニーが秋に発売を予定しているが、それより早く視聴するには、6月25日にシャープが発売するチューナー内蔵レコーダーを購入するしかない。サッカーワールドカップの4K放送を一般家庭で視聴するのには間に合わない可能性が高い。ワールドカップは、街頭テレビで4K放送を流しているところを探して見るしかなさそうだ。
政府は、試験放送によって4K放送の良さを多くの人に実感してもらった上で、2016年のリオデジャネイロ五輪前までに本放送をスタートさせたい考えだ。家電量販店では、今、4K対応テレビのセールが活況だ。4Kテレビを購入しても、今すぐ見られるのは、地上派デジタル放送の映像を、テレビ内の処理で4Kに近い解像度にしたものだけである。それでも、4Kの良さをある程度は理解できるが、できることなら実際の4K放送で良さを実感したい。
一般家庭への普及が急がれるが、普及には多くのハードルがある。
4Kテレビや専用チューナーなどの専用機器の価格が一段と下がらないと、大規模に普及が進まない
地上派デジタルへの完全切り替えが終わったばかりでありタイミングがよくない。従来のアナログ放送テレビが使えなくなると言われてテレビを買い換えたばかりの人が多く、次は4Kと言われても、すぐに買い換え需要が盛り上がるかわからない
4K放送に対応したコンテンツが増えるのに、時間がかかりそうである。番組を提供する放送局も地上派デジタル放送への切り替えで、多大な負担を強いられており、さらにコストがかかる4K対応には及び腰のところもある
4Kテレビの高精細を実感するには、50インチ以上の大型テレビが必要という意見もあるが、日本の一般家庭に、そこまで大きいテレビは普及するのはむずかしい。NHKが4Kのさらに4倍の解像度を持つ、「スーパーハイビジョン(8K)」の開発を進めており、8Kが出まで待とうと考える人もいる。
このような事情から、4Kの本格普及にはかなりの時間がかかりそうだ。ただ、日本の放送業界・コンテンツ業界・電機業界にとって、4Kテレビの普及が、ビジネスの付加価値を高める大きなチャンスであることは間違いない。4K放送でとりあえず先手をとった日本が、このまま技術優位を維持していけるか注目したい。
3D(3次元)テレビのように、あっという間にアジアメーカーにいいところを持っていかれるようなことがないことを祈りたい。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。