和歌山県・和歌山電鐵貴志川線の貴志駅は、猫好きなら一度は訪れたいスポットだ。何せこちらの駅では、猫の駅長が乗降客をお出迎えしてくれるのである。しかも駅舎併設のカフェではネコ型スイーツを楽しめる上に、何と駅舎そのものもネコ型というこだわりよう!
それにしても、なぜ猫が駅長に就任したのかが不思議である。その謎をひも解いてくれたのが、和歌山電鐵総務企画部の竹添善文さんだ。
「和歌山電鐵貴志川線は2006年4月1日に開業したのですが、貴志駅隣の商店が、たま(現駅長)たちの猫小屋を公道に設置していました。そのため、市から撤去するように言われていて、その日がちょうど立ち退きの日でした。
開業日にはセレモニーが行われて大いに盛り上がっていたのですが、その終了後、和歌山電鐵社長のもとに飼い主さんが『たまたちの住むところがなくなるので駅舎に置いてもらえませんか?』と直訴にいらしたのです」
「私、駅長やります!」とたまが自己申告!?
話をきいた社長は飼い主の事情と思いをしかと理解し、たまたちに会ってみることに。早速、対面した社長は、何とたまと目が合った瞬間に、たまの駅長姿が脳裏に浮かんだのだとか。
「しかも、たまが『私、駅長やります!』と目で訴えてきたと感じたそうです。元来、社長は犬好きなのですが、出会いの瞬間から、たまの立派な猫ぶりに心を打たれたとおっしゃっていました」
そこで社長は「ただ置いてあげるわけにはいかないので、社員として働いてもらおうかな」と提案。「えっ!? 働くって?」と驚く飼い主さんに「駅長をやってもらいましょう!」。「猫ですけど、何をすればいいのでしょう?」の問いかけには「何もしなくてそこにいればいいよ」と答えたとのこと。
社長と出会ったその場で駅長に就任することとなったたまは、2007年1月5日付けで、社長自ら発令された辞令によって駅長に就任。専用の駅長帽子を授かり、民間鉄道で正式に任命された全国初の猫駅長としての経歴をスタートさせたのだ。
その後、昇進したたまの現在の役職は「社長代理ウルトラ駅長」
それから7年の月日が経過した現在、たまは「社長代理ウルトラ駅長」(貴志川線14駅の総駅長職)に昇格している。そして、そのたまを部下として支えているのが、岡山市内の国道沿いで交通事故に遭いそうになっていたところを保護された猫・ニタマだ。
「2014年1月5日、交通政策基本法成立記念として、たまとニタマがダブル昇進したんです」
今年15歳の喜寿を迎えるという貫録たっぷりなたまウルトラ駅長、まだ若くて愛きょうがあるニタマ駅長は、共に自然体でのんびりと職務を遂行しているという。
「二人とも、我々人間の社員にとっても上司に当たりますし、自由気ままでこちらの思い通りにならないところも魅力ですね」と竹添さん。
ちなみに、2014年5月現在の勤務スケジュールは、「たま駅長=貴志駅に火、水、木、金」、「ニタマ駅長=月、火、金は伊太祈曽駅、土、日と月が祝日の場合は貴志駅に勤務」となっているという。
カフェの人気メニューは名前のかわいさもポイント!
にゃんともかわいい駅長たちに会うべく同駅を訪れる際は、是非併設の「たまカフェ」にも立ち寄ってみてほしい。
「とびつきたまシュー(シュークリーム)+コーヒー又は紅茶」(520円)、「たまのしっぽ(クッキー)+コーヒー又は紅茶」(470円)、「たままんぢゅう(まんじゅう)+コーヒー又は紅茶」(470円)などのユニークなスイーツはオーダー必至!(価格は全て税込)。
また、ジェラート、ジュース、ホットドリンクのカップに、たま駅長のイラストがデザインされている点にも注目したい。「ホットドリンクに使用している紙コップは、隣のショップで御購入いただくこともできますよ(300円・税込)」とのことなので、お土産に購入するのもよさそうだ。
その他、マグカップ(1,350円)、スプーン&フォーク(700円)、ランチボックス(1,350円)などのかわいいグッズもそろっている(価格は全て税込)。
もちろん、沿線にも見どころはたくさんある。
「貴志駅がある紀の川市は、果物王国と呼ばれるくらい果実が豊富で、特に特産のいちごは有名です。それから、日前宮(にちぜんぐう)、竈山(かまやま)神社、伊太祁曽(いたきそ)神社の3つの神社を詣でる『三社参り』もおすすめです」(竹添善文さん)
全2両からなるかわいい電車に揺られて、歴史的スポットを堪能し、フレッシュな果実に舌鼓をうって、愛くるしい駅長たちに癒やされる…。
夏の予定がまだ決まっていない人は、そんな魅力満載の沿線の旅を検討してみてはいかがだろうか。