こんなはずではなかった…6月12日に開催が迫るサッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会に対して、なんとブラジル国内で反対デモが続いている。サッカー好きのブラジル国民が、世界中のサッカーファンを巻き込んで最高に盛り上がる大会となるはずなのに、ブラジルにいったい何が起こっているのか?
高成長が続いてきたブラジル経済が急に失速したことが問題を生じている。W杯開催が決定した2007年、ブラジル経済は絶好調だった。ところが、2008年にリーマン・ショックと呼ばれる世界不況が起こると一転して経済は失速した。
高成長で豊かになってきたブラジルだったが、裏では格差拡大が進んでいた。高成長が続いている間は表面化しなかった低所得層の不満が、経済が失速した途端に噴き出した。
低所得層のための社会福祉拡張は、経済失速で滞りがちだ。ところが、不満の高まるブラジル国民の前で、W杯に向けて立派なスタジアム建設が進んでいる。「そんなものに大金を使わないで、国民福祉の充実に向けるべきだ」と、各地で反対デモが起こっている。
実は、W杯開催に向けてブラジルで計画されていたスタジアムや交通インフラの整備は、大幅に遅延している。経済の失速や反対デモの影響だけではなく、そもそもブラジル官僚の計画性の甘さが原因との指摘もある。こんな状態でW杯を実施して大丈夫かと、国際サッカー連盟(FIFA)からも不安の声があがる。
過去5回の優勝を誇るブラジルでのW杯に、世界のサッカーファンの期待は高まっている。FIFAによると、観戦チケットの需要は過去最高である。大会期間中にブラジルを訪れる観光客は60万人に達する見込みだ。大会が始まった途端に、とりあえず経済問題は横において、サッカーで全世界が盛り上がる展開を期待したい。
ブラジルは、まだまだ若い国である。若年世代の人口増加が成長を牽引する構造は変わっていない。ただ、ブラジル経済には、構造的な問題もある。資源輸出に依存する部分が大きいことだ。鉄鉱石や石炭資源が豊富なことが、これまでのブラジル経済を支えてきた。中国が世界中の鉄鉱石や石炭を高値で買いまくっていた間は、ブラジル経済は絶好調だった。ところが、中国景気が失速すると、ブラジルも一緒に失速した。
私は、資源バブルがはじけた後も、経済改革を進めれば、ブラジルが高成長国に復帰することは可能と考えている。今が、正念場だ。サッカーW杯が、ブラジル復活の転機になることを願う。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。