前回に引き続き、西オーストラリア、パース近郊のロッキンガム市にある中・高一貫校「Kolbe Catholic College」(以下、コルベ)を訪問し、同校のDirector of Innovation、萩原伸郎氏へのインタビューと学校見学取材のストーリーをご紹介する。
今回の中編では、iPadをどのようにして学校に導入し始めたか、そしてどのようにテクノロジーとの関係性を作っているか、という点について触れていこう。
先生のスイッチの入れ方
iPadを片手に、教室を動き回りながら授業を行う様子。各教室のディスプレイやプロジェクターにはApple TVがつながっており、教室内のどこからでも画面に教材を映し出すことができる。学校内で既に50台以上のApple TVが導入され、国などから導入された電子黒板などは使われていないという |
日本での学校や教室へのテクノロジー活用で、課題として多く挙げられるのが、教師側のテクノロジーへの積極的な対応が進まない点だ。生徒以上に習得するために時間がかかることだけでなく、現状既に行ってきた授業にテクノロジーを導入する場合には、その必然性が低く利用が進まず、全く異なる授業を作り出すためには多大な準備時間がかかってしまうことに原因がある。
これは、導入やサポートの面でコストが比較的低いと見積もられ採用されたAppleのiPadであっても同じ事だった。
テクノロジーの導入をはじめとして、学び方・教え方のイノベーションについて、コルベの中でリーダーシップを発揮している萩原氏は、前編でも紹介している通り、教科書と教室から学びを解放するというテーマで改革に取り組んでいる。そのなかでiPadというテクノロジーを教師にどのように導入したか、聞いてみた。
「まず、こうしたテクノロジーによって、教師の負担が減るという認識を持っていた。しかし、教師1人1人が使いこなせなければ、負担が減るという前提も成立しない。同時に、教師がiPadを楽しんで使っていなければ、生徒も学校での学びにiPadを楽しんで使わなかっただろう。
そこで、コルベでは、教師全員に夏休み前に自分でiPadを購入してもらい、そのコストを学校が負担するという導入から始めた。学校が購入して与えるのではなく、自分のものとして購入することは、大きな違いがあった。
例えば、iPadを教師が購入する際、どんなモデルがあるのか、容量をどうするか、本体とカバーの色を何にするかを調べたり、教師同士の休み時間の話題になる。これが大ヒットだった」(萩原氏)
ちょっとしたショッピングを楽しむ一コマにも見えるが、教師たちがiPadについて興味を持ち、調べ、実際に手にするという体験は、学校や国の予算などで与えられた機器に対する興味とは全く異なるという。実際、長い夏休みをあけた段階で、既に教師はiPadを使いこなしている状態になっていたそうだ。
その上で、新学期に授業が始まってから、iPadをどのように授業に活かすか、という研究会などをスタートさせた。萩原氏は、教師の側には特にこうした準備運動の期間を設けなければ、テクノロジーを取り込んだ学びの環境を作り出せないと指摘する。