それは一通の手紙からはじまった。
世間の脚光を浴びない裏ニュースを集めるサイト「マイナーニュース・ナビ」、通称・裏マイナビ編集室。常識で理解できない様々な謎や超常現象を調査するルポライターのリュウザキは、今日も世間には公表されないミステリアスなニュースを探していた。
そんな編集室にある一通の手紙が寄せられる。
室長・イナバ「おい、リュウザキ! これを見てみろ!」
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秋葉原 iPhoneアクセサリ専門店『SHOWCASE』
4月25日より新装リニューアル・オープン!
4月より『永遠の0』、始めます。
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なんの変哲もないリニューアルオープンに関するリリース案内。しかし、その裏にひっそりと書かれたあった差出人の名前にリュウザキは我が目を疑った。
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――UMAより。
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な、なんだってー!
Unidentified Mysterious Animals=未確認動物。古くはネッシー、ビッグフット、スカイフィッシュなど、科学的にその存在が確認されていない未知の動物。そんな謎の包まれた生物が自ら手紙を送ってくるとは、これはもはや我々への挑戦状か!?
室長・イナバ「そういえば秋葉原で4月21日から忽然と姿を消した店があるという噂が」
リュウザキ「そんな馬鹿な!」
イナバ「それに最近、火星から謎の光が発せられたというニュースも……」
リュウザキ「ま、まさか、これは宇宙人からのメッセージ! 宇宙人に店を乗っ取られた!?」
イナバ「おい、リュウザキ! 取材、行って来い!」
4月某日。 混沌の街・アキハバラ。
かつては世界有数の電脳都市であり、今ではメイド喫茶やアニメショップが軒を連ねるポップカルチャーの聖地としてディープでミステリアスな世界が渦巻いている。時代の欲望とともに変化してきたこの魔都市には、今もなお多くのミステリーが残されているという。
そんな整然と混沌が一体となったアキハバラの中央通りから一本奥の通りに入るとそこはまるで別世界。アキバの喧騒からは程遠い、昌平通りに沿いにその店はあった――。
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店長・梅田「いらっしゃいませー。あなたが落としたのは傷の浅いiPhoneケースですか、それとも傷の深いiPhoneケースですか?え? まだ落としてない? フハッハッハッハ」
なっ、いきなりなんなんだ。このテンションは……。はっ! ま、まさかこれが宇宙人。地球人になりすましている金星人なのか?
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店長・梅田「フハッハッハッハ。うちはiPhoneのケースを専門に販売するアクセサリーショップですよ。つい最近新装リニューアルオープンしたんです。壁から床、カーテン、展示コンセプトも一新したんです。どうですか? 綺麗になったでしょう?」
確かに以前に来た時とは内装がガラリと変わっている。かつては白を基調とした明るい店内に、プレミアムなiPhoneアクセサリが整然と並べられ、アクセサリー店でありながらどこか長居しづらい優雅な雰囲気を醸し出していた。しかし今はどうだろう。ぬくもりのある電球色を使った間接照明が効果的に配置され、内装にも木目のアクセントが加わり親しみが感じられる。入った瞬間にまるで我が家に帰ってきたような、ホッとする空間に様変わりしているではないか。しかしまてよ、これは罠かもしれない。お店に入りやすい雰囲気を出すことで地球人を容易に捕獲しようとする罠。ここはひとまず相手の出方を伺って、奴らの狙いを引き出そうではないか。
店長・梅田「以前は宝石店をイメージしていてどこかプレミアム感を出していたのですが、このリニューアルでもっとお客様が入りやすく、長居しやすい雰囲気に変えたんですよ。しいて言うならばアップルストアのようなフランクで居心地のいいお店のイメージですかね。だからこの左手にあるガラスケースの扉も全てとっぱらって、お客様が自由に手にとって確かめるようになっているんですよ」
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さすがはディープな世界が渦巻くアキハバラ。一見普通のアクセサリーショップのように見えて、実はよく考えられている。この日本ではiPhoneユーザーが爆発的に増えているため、ケースやアクセサリで他人と差別化したいと思う人は多いはず。しかし大型量販店にはありきたりなアクセサリが多く、ネットで買うにしても少し高級なアクセサリーだと実物を見たいと思うだろう。そこでこの『SHOWCASE』では、世界中のiPhoneケースの中からこだわりのブランドを厳選。量販店では目にかかれない超高級なアクセサリーが用意され、客はこだわりの逸品を自分の目で確かめ、自分の感触で試した上で購入できる。アキハバラの"会いにいけるアイドル"ならぬ、"会いにいけるアクセサリ"というわけだ。
店長・梅田「『SHOWCASE』ではインターネットでも同じアクセサリーを販売してるんですけど、ここの実店舗で購入いただいたお客様に限って永久保証のサービスを行っているんですよ。初期不良はもちろん、使った後にヒビが入ったとか、使用できなくなるほど破損した場合でも全て無料で交換しますよ。だからあなたのおとしたのは傷の浅いiPhoneケースですか、傷の深いiPhoneケースですか?って言ったんです。フハッハッハッハ」
な、なんだってー!
通常の保証サービスといえば、購入時に+3%の保証代金を払うか、商品代金に上乗せされているのが常識。さらにそれでも期限は決まっているところが多いのにここは永久に保証するという。それならばユーザーの過失なのか故意によるのか判断できないような破損状況ではどうなるのか?
店長・梅田「お客様を疑ってもしょうがないのでこっちの判断で替えちゃったりしますよフハッハッハッハ。まだ始まって間もないんですけど、先日も早速購入三日後ぐらいのお客さんがいらして。木のケースにヒビが入ったとかだったので、すぐに交換させて頂きました。3万円ぐらいの商品だったんですけど、全然へっちゃらです。フハッハッハッハ」
地球人を引きつけるためとは言え、さすがにやりすぎではないか。きっと何か裏があるに違いない。一体なぜこんなサービスが可能なんだ?
店長・梅田「うーん、社長の気まぐれですかね。謎ですよ。永遠の謎。いや、永遠の0円と言ってます。なんちゃって。フハッハッハッハ」
なんというサービスだ。こんな手厚いサービスなら地球人はいとも簡単に騙されてしまう。これが宇宙人の手口か? これが宇宙人が見せる余裕なのか? きっと地球にはない宇宙のマテリアルを使っているに違いない。
スタッフ・森田「ちなみに私達は購入の際にお客様に対してアドバイスも徹底してます。例えば木のケースが縮んだ場合は冷蔵庫の野菜室に入れると外れやすくなるとか、暖かい濡れタオルに巻いてると木が膨張して元に戻るとか」
スタッフ・東野「あ、そうそう、永遠の0円といえば、店舗で購入した場合に限り熟練スタッフによるフイルム貼りのサービスも永遠の0円で行ってますよ」
だ、誰なんだこの人たちは……。
店長・梅田「うちにはイケメン&ビジョスタッフも取り揃えていますから。ちなみに誰にお願いしてもフイルム貼りは無料です。指名料は一切頂きません。フハッハッハッハ。2分もあれば簡単にフイルム貼りできますから、ほらもうできた。これガラスのフイルムなんでカッターでも傷つかないんですよ」
これぞドヤ顔。「ちなみにこのガラスフイルムは指のスライドもいいので、『パズドラ』とか『LINE POP』とかでも高得点間違いないっす(キリッ)」 |
貼り付けたガラスフイルムがカッターで傷つかないか実演する梅田さん。「カッターやナイフ、鍵などのとがったものでこすっても傷はほとんどつきません(梅田)」 |
や、やめろー。
その一通のメールが入った。
「リュウザキ、スグモドレ」
編集室・イナバからの謎の緊急指令。
そのメールを伝えるスマホのフイルムには確かに傷はついていなかったが、多くの謎を残したままリュウザキは編集室へと戻った。
――数時間後
リュウザキ「イナバさん、あのアキハバラの『SHOWCASE』ですが……」
イナバ「いや、実はその件なんだけどさ……。あそこの店長……」
リュウザキ「ええ、確か、ウメダさんというテンションの高い女性」
イナバ「そう梅ちゃん。この手紙ってさ、単なる書き間違えじゃないかな?」
リュウザキ「え? ま、まさか…。UMA……UME、梅!!!!」
な、なんだってー!
テッテッテー♪
リュウザキ「いやいやテッテッテーって探偵ナイトスクープじゃないですからうちは。確かにあそこには多くのミステリーが確かにありましたから」
イナバ「ん? 何を言ってるんだリュウザキ。『SHOWCASE』のリニューアルは4月25日の明日からだよ。今日はまだ改装中で店は開いてないはずなんだが。数時間前にちょうど梅ちゃんと打ち合わせしてたし」
リュウザキ「え? じゃあ俺が会ったのは……?」
その時、気が動転したリュウザキの手からスルリとiPhoneが落ちた。 液晶画面は無傷だったが、ケースにはヒビが付いていた。深い傷が。
リュウザキ「なんてこった! どうせならケースも買っとくんだったー」
テッテッテー♪