前回のコラム(『ルーズヴェルト・ゲーム』は『半沢直樹』の二番煎じか? 「高評価でも視聴率不振」の理由と"大逆転"の可能性)では、視聴率が伸び悩んでいる理由を挙げたが、今回は同ドラマの内容を掘り下げていきたい。
識者のコメントを見ても、視聴者のネット書き込みを見ても、「ハマっている」という熱狂的な声が目立つ。多くの人がハマる理由は、決めゼリフとなっている「逆転」劇ではなく、人間ドラマの「熱さ」によるのではないか。
肉食系と草食系の2バトル
このドラマは、青島製作所を中心にしたビジネスパートと、社会人野球のパートを同時進行で展開していく。ともにライバルとの戦いを描いているのだが、映像として見ると、その対比が面白い。
まずビジネスパートは、激しい言葉が飛び交う獰猛な肉食系バトル。特に細川(唐沢寿明)、諸田(香川照之)、坂東(立川談春)が「食うか食われるか?」の三つ巴戦は見どころたっぷりだ。
5月18日放送の第4話でも、細川が「諸田さん! 諸田さん!!」と言葉をさえぎって怒鳴り、諸田は「キミは青島をつぶすつもりか!」と上から目線で徹底抗戦。細川が「そんなに欲しいんですか、ウチの技術が。残念だがどんな好条件でも応じるつもりはありません。あなたが嫌いだからだ!」と吐き捨てると、諸田は「ほ~そ~か~わ~」と絶叫していた。
もう1人の坂東も、諸田に「手に入れませんか? 青島を」とささやいたと思えば、「要は金だよ金!」と一喝。その姿は、師匠・立川談志を思わせる迫力があった。彼らの顔面を肉食動物にたとえるならば、細川がオオワシ、諸田がコモドドラゴン、坂東がライオンといったところか。
ピュアで牧歌的な草食系野球部
一方の社会人野球パートは、チームワーク(群れ)をベースにひたむきな姿勢で挑む草食系バトル。たとえば第4話では、悲劇の天才・沖原(工藤阿須加)が「すいません。実はムチャムチャ緊張してて」とハニカミ、監督の大道(手塚とおる)は「あいつにはデータはいらねえな」とニヤリ、応援団長の長門(マキタスポーツ)は「よくやった! 青島製作所野球部復活だ~」とハシャぐなど、試合中なのにどこまでもピュアだった。
また、バトルの相手であるイツワ電器の監督・村野(森脇健児)も、沖原の快投を見て「青島にあんなやつがいたのか」とのん気に驚き、如月(鈴木伸之)は悔しさで指を噛んでいる。敵役ですら牧歌的な香りを漂わせつつも、スタジアムでの戦いは間違いなく熱い。
彼らの顔面を草食動物にたとえるなら、沖原がウサギ、大道がヤギ、長門がコビトカバ、村野がシカ、如月がカンガルーといったところか。
人の心を動かす2つの熱さ
上記のような「バトルがある」イコール「それに挑む熱さがある」ということ。「経営側と一般社員、それぞれタイプの異なる2種類の熱さが見られる」のも、このドラマの魅力だ。
第3話では、経営側の細川が会社を守るために人員削減を決意するが、総務部長の三上(石丸幹二)は社長に逆らってでも野球部員を守るべく奔走。さらに、「私は最後は好き嫌いで彼を選びます。人事を預かる責任者として断固沖原を守ります」と宣言した。監督の大道も、細川に「ウチには役に立たない選手はいない! 優勝してアンタを見返してやる」とタンカを切り、ケガを抱えた投手の萬田(馬場徹)は、後継者の沖原に持ち球のシュートを伝授して、自ら退職を申し出る。また、萬田は退職のあいさつで、同僚たちに頭を下げて球場応援を懇願。社員たちはそれに応えて球場に詰めかけた。熱さが連鎖して、人の心が動かされていく名シーンだった。
その他、細川が取引先に「一週間だけ待っていただきたい。必ず打開策を提示しますので、取引継続を何とかお願いいたします」となりふり構わず泣きついたり、専務の笹井(江口洋介)が細川に「会社を救うためには民事再生の申し立てしかない」と語りかけたり、経営陣の立場から、相手を熱く説得するシーンも多い。
そんな熱さがあるからこそ、かつて不祥事を起こした沖原を見る野球部員の目が変わり、かたくなに野球を避けていた沖原の心も変わり、細川もけっきょく野球部存続や、沖原の正社員昇格を認めたのだろう。会社、野球、立場、仲間……さまざまなものを守るために男たちは戦っているのだ。
第二章は江口洋介に注目!
「合併話が不調に終わり、融資先を確保した」会社。「救世主が現れ、一回戦突破した」野球部。第4話でともにひと段落がつき、第一章は完結した。
次回からはじまる第二章では、坂東にそそのかされた笹井の動きも含め、イツワ電器とのバトルはますます激化するだろう。そして、第一章ではあまり目立たなかった江口洋介が、いよいよ唐沢寿明との本格バトルに挑む。『白い巨塔』以来となる2人の争いは、どんなものになるのか。
また、野球部はいきなり正念場を迎える。「負けたら廃部」のピンチを乗り越えて優勝できるのか。因縁の相手・如月との直接対決を迎える沖原は、萬田に教わったシュートを解禁し、勝つことができるのか。
第4話で諸田が放った「君の言う金の意味と、私の言う金の意味は、180度、いや540度違います!」のような名言(迷言)は生まれるか、なども含めて興味は尽きない。
■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。