中国とベトナムの対立激化は、日本経済にプラスの面とマイナスの面がある。まず、プラス面から解説しよう。

あまり大っぴらに語るべきことではないが、中国とベトナムの関係が悪化するほど、日本とベトナムの政治的・経済的関係は深まる可能性がある。

ベトナムは日本にとって重要な国である。手先が器用で勤労意欲の高い若者が多く、日本企業の工場がたくさんある。また、日本の自動車や発電所、鉄道などの輸出先としても有望である。そのベトナムと政治・経済関係が一段と深まるのは日本にとってメリットが大きい。

中国は、国境を接する国とはほとんど友好関係を築けていない。中国と国境を接していて良好な関係を保っているのはパキスタン、ミャンマー、北朝鮮くらいであろう。ロシアとは表面上、友好関係を保っているが、水面下では領土をめぐる確執がいまだに根強く残っている。ベトナム・インドは、中国と特に仲が悪い。それぞれ20世紀後半に領土紛争を経験し、現在も解決されていないからだ。

日本製品は、世界中で安価な中国製品と競争を強いられている。価格の安さが重視される新興国向けでは、日本は軒並み苦戦している。ところが、中国との関係がよくないベトナムやインドでは、日本企業は、中国製品とほとんど競争する必要がない。

ベトナムは、日本車のシェアが7割を超える親日国家だ。日本企業が、長年にわたってベトナムで努力した成果であるが、すぐ隣の中国との関係がよくないこともベトナムを日本との関係強化に傾注させる要因にはなっている。

それでは、中国とベトナムの関係悪化が、日本企業に及ぼすマイナス面について解説する。中国とベトナムは、政治的に対立していても、経済的なつながりは皆無にはならない。現にベトナムの輸出の10%以上は中国向けである。したがって、中国・ベトナムの関係悪化は、中国だけでなくベトナムにもダメージを与える。それは、ベトナムに進出している日本企業にとってもマイナスになる。

日本企業は今日、世界中で中国企業とさまざまな形で競争および協業をしている。そのため中国とベトナムの関係悪化は、単純に日本にとってプラスとばかりはいえなくなっている。

ベトナム国内で中国系の工場が操業停止におちいれば、そこから部品を調達する日本企業のベトナム工場も、生産を減らさざるを得なくなる。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。