川上会長が数年前から提唱していた「ネットとリアルの融合」がこういう形で実現したか……というのが、会見を見た最初の感想だった。
角川書店やアスキー・メディアワークス、メディアファクトリーといった企業を傘下に持つ出版大手のKADOKAWAと、ニコニコ動画を運営するIT企業・ドワンゴが14日、経営統合することを発表した。10月1日に共同持ち株会社である「KADOKAWA・DWANGO」を設立し、KADOKAWAとドワンゴはそれぞれ子会社となる。
経営統合の理由や経緯、新会社の詳細などについては既報の通りだが、本稿ではそうしたビジネスサイドの話ではなく、角川の漫画や小説を楽しんでいる者として、またニコニコ動画のいちヘビーユーザーとして、「結局、経営統合することでユーザーにはどんな影響があるのか」という点を紐解いていきたい。
会見には、KADOKAWA取締役相談役・佐藤辰男氏、ドワンゴ代表取締役会長・川上量生氏、KADOKAWA取締役会長・角川歴彦氏、ドワンゴ代表取締役社長・荒木隆司氏、KADOKAWA代表取締役社長・松原眞樹氏の5名が登壇し、それぞれあいさつを行ったが、まず注目したいのはドワンゴ会長・川上氏の言葉だ。
川上氏はあいさつの中で、いくつかのポイントを強調している。
まず、「KADOKAWAはコンテンツを持っているだけの会社ではないし、ドワンゴはプラットフォームを持っているだけの会社ではない」という点だ。
一般的なイメージとしては、KADOKAWAといえば漫画やライトノベルだろうし、ドワンゴといえばニコニコ動画だろう。これだけ見ると、確かにKADOKAWAとドワンゴの融合は、「コンテンツとプラットフォーム」の融合のように思える。
しかし、川上会長の考えは少し違う。「書店には出版社ごとに棚がある」ことを例に挙げ、「出版社は"リアルな世界でのプラットフォーム"でもある」と持論を展開する。ちなみにKADOKAWAは、自社の出版物の電子版を販売する「BOOK WALKER」という電子書店も運営している。
一方、ニコニコ動画のイメージからプラットフォーマーの印象が強いドワンゴだが、実は「ニコニコ超会議」を見てもわかる通り、「コンテンツを作り続けてきた会社である」という。確かにドワンゴは、ニコニコ生放送でも公式の放送を充実させてきた経緯があり、ユーザーを巻き込んださまざまな企画も行ってきた。「ニコニコ町会議」や「ニコラジ」「公式ゲーム実況放送」などは、もはやそれ自体が一つのコンテンツといえよう。
もちろん、プラットフォーム企業が何かユーザーと一緒に企画を行うことは珍しい話ではないが、ドワンゴほど継続してコンテンツ作りに取り組んできた企業は他にないだろう。
また、ニコ動の強みは、運営ではなくユーザーからコンテンツが生まれてくるところだ。こうしたユーザー発コンテンツは、以前ならニコ動内だけでムーブメントが終わってしまうことが多かったが、最近では「カゲロウプロジェクト」のように、漫画やアニメへとメディアミックス展開し、ニコ動外の新たなファンを獲得して盛り上がりを見せる例も出てきている。ちなみに「カゲロウプロジェクト」のメディアミックス展開を行っているのはKADOKAWAであり、これは明らかにドワンゴ側が「コンテンツ」を生み出し、KADOKAWA側が「プラットフォーム」となっている例だ。
逆に、KADOKAWAで生み出される作品がアニメ化され、ニコ動内で配信されることは、今となっては珍しい話ではなくなった。この場合はKADOKAWAがコンテンツホルダーであり、ドワンゴがプラットフォーマーとなっているわけだ。