静岡県伊東市。海の幸と温泉で観光客がひっきりなしに訪れるこの地に、「ねごめし」なるご当地グルメがあるという。三重県の伊勢志 摩地方にも「手ごね寿司」なる郷土食があるがその親戚なのか? その実体をこの目で確認するべく現地へ走った。
並んでまで来てくれたお礼にご飯は食べ放題
伊東駅を降りて地元の人にねごめしの食べられる店を尋ねると、「あぁ、あの店が有名だよ」と地元の人が教えてくれた店。それが伊東駅から徒歩数分の「味の店 五味屋」だ。入ってみるとそのすごい行列に驚く。仕方なく並んで待つこと2時間! やっと入店だ。取りあえず、メニューから「ねごめし」を注文するとドンと出てきたのは魚のタタキが山盛りに乗った丼だった。
タタキの上にはおろし生姜と味噌が載っている。これをかき混ぜるのか? と思ったら味噌は一度外して、まずタタキ丼風にして食べるそうな。イカ、ブリ、マグロ。5種類くらいの魚が入っている。もちろん鮮度は抜群! タタキと生姜の相性もいい。
ガツガツ食べ進め半分くらいになったところでいったんストップ。ここで再び味噌を載せて、アツアツのだし汁を投入。味噌とだし汁が溶け合ってお茶漬け風にハフハフといただくと、絶叫するくらいうまいのだ。
「ねごめしは昔の漁師メシなんだよ」、そう教えてくれたのは店主の遠藤孝行さんだ。「とはいっても、私の生まれる前くらいのことで戦前の話だろうけどね」。この店の味は、遠藤さんが独立前に勤めていた料理店の味を継承したものだという。
「うちはご飯食べ放題だからね。タタキを半分残してご飯をお替わりする人もいるし(テーブルの上にある)ふりかけだけでご飯をお替わりする人もいるよ、ハハハ」。ええっ? それでいいんですか?? と聞くと、「長い時間行列していただいているからお返しですよ」と男気満点の答えがうれしい。
ねごめしは1,365円で、他に16種類以上の魚介類が入る海鮮丼(2,100円)、あじのたたき丼(1,350円)なども人気だという。
●information
味の店 五味屋
静岡県伊東市湯川1-12-18
ご飯とタタキがサンドイッチに!!
次はねごめしのルーツをよりディープに探っていこう。伊東港を望む料理店「ふじいち」の店主、白井富士雄さんに話を聞くことができた。
「ねごめしは漁師メシだから漁師の家ごとに味が違ってたんですよ。ウチの味ですか? ウチはおじいさんの代が漁師でその味を今も守っているんです」。
白井さんによれば、昔は今以上に魚がとれたという。「漁師は忙しかったから、船の上ですぐ食べられるよう工夫したんでしょうね」。なるほど、タタキにしたら魚も食べやすい。お茶漬けにしたらサラっと食べられる。何より、鮮度抜群だ!
遠藤さんや白井さんの話の通り、ねごめしってのは歴史のある味なんだな。でも、ねごめしが船の上で食べられてたのは今は昔。「今の漁師さんはみんなコンビニで弁当買っていきますからね、ハハハ」と白井さんは愉快そうに笑う。
ふじいちでもタタキのネタはイカ、白身魚、そしてキハダマグロなど。その季節の旬の魚を5種類ほど入れているそうだ。ふじいちのねごめしは1,400円。おもしろいのは、ご飯とタタキがサンドイッチ状に重なっていること。食べ進めているうちに「中のタタキがご飯の熱で蒸れていいだしを出すんです」。タタキの味が単調になってきたところでお約束のだし汁を投入。中のタタキが絶品である。
●information
ふじいち
静岡県伊東市静海町7-6
海鮮版のひつまぶし!?
最後にもう1軒。ねごめし探検に行ってみよう。「地魚居酒屋 うなきん・きんごろう」は地元の魚介料理とうなぎ料理を楽しめる人気店だ。店主の佐野公彦さんは以前に東京で修業したこともあるそうで、洗練された味が身上。ねごめしは1,480円だ。
「ねごめしにはマグロやカツオ、イカなどを使っています。最近はサーモンも人気なんですよ」。ちなみにタタキといってもブツ切りに近く素材感満点だ。コメは秋田大潟村のあきたこまち、だしは京都から取り寄せた昆布とカツオ節を使うなどサカナ以外の素材も万全の布陣。
ちなみにだしはウナギのきもすいにも使われているそうで、「ねごめしのお茶漬けは海鮮版のひつまぶしと思って下さい」と。なかなかナイスな例えだ。
●information
地魚居酒屋 うなきん・きんごろう
静岡県伊東市猪戸1-3-14
ざっと駆け足で「ねごめし」探検をしてきたが、さすが絶品の魚介がとれる伊東市。このエリアにはまだまだうまいねごめしを出す店がたくさんある。近くまで来た際にはぜひこのご当地グルメを味わってみてほしい。
※記事中の情報・価格は2014年2月取材時のもの