14日、株式市場でKADOKAWA株が9%、ドワンゴ株が10%上昇した。「両社が経営統合する」との一部報道を受けて、買いが殺到した。
15日寄り付き、KADOKAWA株は3.3%下落、ドワンゴ株は1.87%上昇した。14日夜に正式発表された両社の統合比率が、1対1.168だったので、その比率にさやよせしたものである。
KADOKAWAとドワンゴの経営統合の目標は、日本発の、世界で注目される巨大なコンテンツ配信会社を作り上げることにある。それは両社だけでなく、「クール・ジャパン(かっこいい日本)」といわれるコンテンツの世界配信を、成長戦略の1つにかかげる安倍政権にとっても悲願である。
日本には、映画・アニメなど世界中で注目される人気コンテンツがたくさんある。にもかかわらず、コンテンツを世界に配信し、きちんと著作権料をかせぐ仕組みつくりは期待ほどにうまくいっていない。
クール・ジャパンの海外輸出がうまくいかなかった理由は、3つある。
コンテンツ製作会社の規模が小さい。日本ではアメリカのウォルト・ディズニーのような巨大なコンテンツ配信会社がない
人気コンテンツの製作能力と、コンテンツ配信の強力なプラットフォーム(コンテンツを配信する基盤)を両方持つ会社が少ない
著作権の管理がきちんとできていないので、アジアで海賊版が横行している
KADOKAWAは、人気コンテンツをたくさん持ち、国内の映画や書籍配信で実績を持つが、ネット経由の配信ルートが乏しい。KADOKAWAのコンテンツの多くは文書ベースなので、海外配信に必要な動画化や英語への転換も現時点では遅れている。これに対し、ドワンゴはニコニコ動画の運営で、既にネット配信のノウハウを持つ。海外配信のための外国語使用にも、乗り出している。ドワンゴはコンテンツの不足をKADOKAWAとの統合で補い、KADOKAWAはコンテンツ配信のプラットフォームを獲得する、理想的な統合と見える。
ただし、すべて狙い通りにうまくいくためには、両社の社員の融合がはかられることが大切だ。KADOKAWAは歴史ある企業、ドワンゴは新しい企業だ。企業カルチャーの違いが摩擦を生むようだと、統合の狙いは成功しない。2000年にタイムワーナーと米AOLが統合した際、「既存の巨大メディア企業と、新しいネット企業の統合」として大いに注目されたが、カルチャーの違いがネックとなって統合は失敗に終わった。
統合の会見で、KADOKAWAの角川会長は「異質な両社だが企業文化は同じ」と発言した。その通りであることを、願いたい。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。