取引仲介サイトを運営していたマウントゴックスが経営破綻するなど、注目を集める「ビットコイン」。だが、新聞などの説明を読んでも、いまひとつどういうものなのか想像がつかない、という人も多いのではないだろうか? そこで、電子マネーなどを専門的に研究している国立情報学研究所の岡田仁志准教授に、「ビットコインとは何か?」、「ビットコインは今後どうなっていくのか?」などについてインタビューをさせていただいた。

「ビットコイン」の目的は、"送金コストの低減"と"発行者のいない通貨"の創設

――報道などによると、ビットコインは、サトシ・ナカモト氏がつくったということですが、何を目的に、何のためにつくられたのでしょうか?

ナカモト氏の論文に書かれたビットコインの目的の一つは、送金コストの低減です。従来の銀行を介した送金はとてもコストが高いですが、なぜ高いのかというと、あの取引は間違いだったから取り消してくださいとか、金額を打ち間違えたら直してくださいとか、そういうことに応えるために、間に入っている銀行が信用コストを負担しているからです。そこで、間に銀行という組織のない送金、つまり完全にP2Pの送金システムをつくろうとしたのです。

――ナカモト氏はビットコイン創設にあたって、論文を書かれたんですね。

ビットコイン創設の目的は、論文の前書きの部分で書かれています。その一つが、今述べた、送金コストの低減です。もう一つは、信頼できる第三者機関が存在しない通貨、発行者のいない通貨をつくりたいというものです。そのためには、今まで銀行が果たしていた通貨の発行とか、取引の記録とか、そういうことを銀行のかわりに誰かがP2Pでやらなければいけなくなりますが、それが可能だということを、論文で証明しようとしたのです。

――論文というのはどこに発表されたのでしょうか?

暗号学者のメーリングリストに投稿されたとされています。

――論文を書いたナカモト氏とは、どういう人なのでしょうか?

そもそも、サトシ・ナカモトというのは実在するかどうかわからない人物ですし、多分、実在したとしても偽名です。日本人風の名前ですが、国籍もわかりませんし、1人なのかグループなのかもわかりません。

――暗号学者の1人であることは事実なんでしょうか?

それもわからないです。

ビットコインの論文は暗号学者のメーリングリストに投稿されたとされているという

(出典:ビットコイン勉強会・福岡(2)資料(近畿大学産業理工学部・山崎重一郎教授))

(※最新の勉強会の資料が、適宜更新されている→ http://www.slideshare.net/11ro_yamasaki/bitcoin2 )

――実際、ビットコインを最初につくったのは誰なのでしょうか。

それもわからないです。

――だれがつくったかわからないけれども、つくられたものはあるんですね。電子マネー的なものと考えてよろしいのでしょうか?

電子マネーとの違いを考えると、わかりやすいと思います。ビットコインは、電子マネーとはいくつかの点で全く違うものです。一つ目は、電子マネーは、たとえばSuicaであればJR東日本が発行しているように発行会社があります。ビットコインには発行者がいません。また、電子マネーは日本円からチャージしますよね、電子マネーに入っている価値は日本円を引き当てに発行されている。しかし、ビットコインにチャージするという作業はありません。これが二つ目の違いです。

ウォレットの中に、「秘密鍵」と「公開鍵」の二つが入っている

――発行体がないということと、チャージする作業がいらないということですね。いらないというより、ないということですね。そうすると、ビットコインは単にネット上に情報として存在すると考えてよろしいのでしょうか? よくビットコインのイメージをテレビなどで見ることができますが。

あれはロゴです。

――ビットコインの中身は何なんでしょうか?

数字の列です。ウォレットというアプリケーションの中に、秘密鍵と公開鍵の二つが入っています。

――秘密鍵と公開鍵がビットコインの中に入っているということですね。

ビットコインの財布の中にですね。

――財布の中に鍵が入っている。鍵を開けると何が入っているのでしょうか。

自分の公開鍵と自分の秘密鍵で一つのペアになっています。誰かに送るときには、相手も自分の公開鍵と秘密鍵のペアを持っている。自分の秘密鍵は自分しか持っていないので、これで大雑把にいえば、電子的に署名する。これになぜ意味があるかというと、自分の秘密鍵は自分しか持っていないので、確かにこの人が署名したということがわかる。

ウォレットの中に、「秘密鍵」と「公開鍵」の二つが入っている

(出典:ビットコイン勉強会・福岡(2)資料(近畿大学産業理工学部・山崎重一郎教授))

(※ http://www.slideshare.net/11ro_yamasaki/bitcoin2 )

――公開鍵というのは個人が公開している鍵ですね。

公開鍵は、大雑把にいえば、アカウントに当たるわけです。相手のアドレスといってもいいかもしれないですが、お金を送るからアドレスを教えてと言うわけです。

――教えてもらったら、メールのように相手のアドレスにお金を送って、それがそのまま送金ということになるんですね。

そういうことです。ですから、テレビで六本木の「ピンク・カウ」でお客さんのスマホからお店のスマホにビットコインを送る姿が報道されていますけれども、あれは何を見ているかというと、お店の人のスマホで二次元バーコードを表示しています。あれがビットコインアドレスです。アドレスは数字の列ですから、それを二次元バーコードで表示する。お客さんのスマホが、それを読み取ります。読み取ったものを、お客さんのスマホの中のウォレットが認識して、このアドレスに送ればいいんだと分かって、それでインターネット経由で送金するわけです。

――ビットコインを利用するには、自分の秘密鍵を作ればいいんでしょうか?

正確にいうと、ウォレットをダウンロードしただけでは、まだ中身はからっぽの状態です。ウォレットをダウンロードした後に、パソコンの中で「新規ウォレット」を生成する作業が始まって、しばらく待たされます。そのときに秘密鍵を生成します。そして自動的にその秘密鍵からその公開鍵も作られるという形になっています。なぜこんなことをするかというと、秘密鍵が入った状態で配信すると途中で読まれてしまうリスクがあるからです。ウォレットが手元に届いてから、自分のパソコンの中でサイコロ振りゲームが始まって、大きなサイコロを何個も振って鍵を生成するようなイメージです。

秘密鍵は秘密にしなければいけないので、わざわざ取り出すような作業をしないと、普通は簡単には見られないようになっていますが、必要があれば確認できるようにはなっています。一方、公開鍵をある関数に入れた答え、それをもう一度ある関数に入れた答えが正確にはビットコインアドレスなんです。ハッシュ関数という関数を使うのですが、公開鍵を二種類のハッシュ関数で二回ハッシュしたものがアドレスです。大雑把に言えば、公開鍵を二回計算した答えがアドレスだと思っていればいいと思います。

――そういう仕組みでビットコインを送るんですね。

何ビットコインを送るかという量を指定します。ビットコインの単位は、BTC(ビー・ティー・シー)といいます。