あの時、何が起こったかを伝える「ブラックボックス」とは?

2014年3月8日に、南シナ海上空で消息を絶ったマレーシア航空370便。同便が消息を絶ってから1カ月以上が過ぎたわけだが、この1カ月というのは消息不明機に何があったのかを知る上で欠かせない、ある航空機器を探す上で重要な時期だ。それが「ブラックボックス」である。

同便は乗員乗客239名を乗せて8日(現地時間)の午前0時41分にクアラルンプール空港を北京に向かって飛び立ったが、その50分後の午前1時30分頃に管制との連絡が途絶えてしまう。

その後、イギリスの通信衛星事業者である「インマルサット」が同便の信号をとらえドップラー効果を測定し針路を解析した。その結果、オーストラリア・パース沖の北西、インド洋に同機は墜落したという。ただ、墜落地点はパースから約1,850kmの海域だと発表されているがいまだに機体の一部さえ見つからず、そもそも事件なのか事故やアクシデントなのか。失踪の原因もつかめないままだ。

1カ月を過ぎると電波を発しなくなる問題

冒頭で触れたように、この1カ月間というのは、「ブラックボックス」を探す上で重要な時期であった。飛行機に搭載されている「ブラックボックス」には、高度や速度などの飛行データを記録するフライトデータレコーダーと、コクピット内の音声を記録するコクピットボイスレコーダーが収められている。「ブラックボックス」は発見されやすいよう、事故後に電波信号を自動発信する仕組みになっているが、約30日でバッテリーが切れるのだ。設計上、信号が完全に消えるまでには数日の猶予があるのとも言われるが、その数日も過ぎようとしている。

深海に沈んだ「ブラックボックス」が発する信号の弱さも問題だ。オーストラリアの当局が4月に入って数回にわたり、同機が出した可能性がある信号をキャッチしたと報じられたが、まだ場所の特定には至っていない。深海に沈めば付近を行く船舶や海の生物が発する電波や音も妨げになるほど電波は弱くなる。一方でオーストラリア当局は、「数kmの範囲内にあると確信している」と報道しており、早い時期の回収が期待されている。

水深7,000mの水圧でも壊れない

「ブラックボックス」は事故時のあらゆる事態を想定して設計されている。フライトデータレコーダーとボイスレコーダーが収められたケースは水深約7,000mの水圧にも耐えられるため、370便が沈んだとされる海域約4,500mの底であっても問題はないはずだ。

また、1,100度の高温でも耐えられる耐熱性と耐衝撃性を有し、追突時に最も衝撃を受けにくい機体後部の下辺りに設置されてもいる。筆者は1985年に起きた日航機墜落事故の残骸を同社で実際に見たことがあるが、ブラックボックス内のデータは無傷だった。あれほどの事故でも耐えられるのである。

"ミステリー"を解き明かす詳細なデータ

「ブラックボックス」が回収されれば、航空史上最大のミステリーと言われた今回の失踪の全容も解明されるだろう。ボイスレコーダーはパイロットたちの会話や声だけでなく背景音も漏らさず記録されるため、墜落時に何があったかが詳しく分かる。

また、フライトデータレコーダーは機体の速度や高度、垂直角度、経過時間などの飛行データが詳細に記録され、その長さも25時間分に及ぶ。報道されているように、消息を絶った南シナ海上空から数時間の飛行の末に墜落したとしても、その間の機体の動きが判明する。例えばパイロットの意思で操縦が続けられたのか、あるいは何らかの理由で操縦不能になり飛び続けるうちに燃料切れとなったのか。そうしたことも明らかになる。

2009年6月に大西洋に墜落したエールフランス447便のブラックボックスは水深4,000mの海底で発見され、それにより事故の全容も明らかになった。この事故では回収までになんと2年を要したが、今回のマレーシア航空機が本当にパース近郊に沈んでいるとしたら、もっと早く回収され真相もより早く解明されることを願う。

※本文と写真は関係ありません

筆者プロフィール : 緒方信一郎

航空・旅行ジャーナリスト、編集者。学生時代に格安航空券1枚を持って友人とヨーロッパを旅行。2年後、記者・編集者の道を歩み始める。「エイビーロード」「エイビーロード・ウエスト」「自由旅行」(以上、リクルート)で編集者として活動し、後に航空会社機内誌の編集長も務める。 20年以上にわたり、航空・旅行をテーマに活動を続け、雑誌や新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアでコメント・解説も行う。著書に『もっと賢く・お得に・快適に空の旅を楽しむ100の方法』『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。