――カルチャーショックはありましたか

岩本氏「もちろんたくさんありました。一番大変だったのは食事です。赴任当初は、エチオピア料理がまったく体に合わなくて熱が出たり……。でも、半年くらいたったある日突然食べられるようになったのですが、その時は人間って時間をかけることで変われるんだと思いましたね」

吉田氏「カリブ海沿岸の村だったこともあって南米気質の明るさがあるのはよかったのですが、約束にルーズなのには困りました。約束していた時間にその場所へ行っても誰もいないのがふつう。仕方なく電話して呼び出すのですが、遅れて来ても悪びれた様子もなくって(笑)。日本の当たり前は通じないんだなと衝撃を受けましたね(笑)」

――協力隊に参加したことで自分の中で何が変わりましたか

吉田氏「私自身はいろんなことに思い切って挑戦できるようになったと思います。日本だと周りを見ながら自分の生活をしがちですが、あの2年間で『自分にとってどういう生き方がいいのだろう』と冷静に考えることができ、自分が正しいと思うものをはっきり主張できるようになりましたね」

吉田氏が行っていたコロンビアでの活動の様子。

山田次長「ほかの協力隊経験者の方からも『教えることよりも教えられることの方が大きかった』『自分が今後どうすべきなのかが見えてきた』といった声をよく耳にしますね」

レールから外れることに不安はなかった

――「新卒でいい会社に入って……」という“レール”から外れることに不安は?

吉田氏「レールから外れたことをネガティブに考えたことはありません。協力隊に入ることを自分の修行というか自分磨きのような感じに捉えていました。それに現地に行ってしまうと、世界には本当にいろんな生き方をしている人がいて、『新卒で就職して……』というのはあくまでも日本のスタンダードでしかないことがよくわかりました。結果的に隊員として活動したあの2年間が大きな自信になって、新卒の時よりも自分をアピールできることが増え、いろんな業種に飛び込んでいく度胸のようなものもついたと思います」

岩本氏「私もレールから外れると思ったことはありません。『何か人のためになる仕事を』と考えましたが、特に『日本で』というこだわりもありませんでした。結果的に帰ってきてからも経験を生かせる仕事ができましたし、品質管理という点では日本人の目と作り手側の目の両方を培ってきました。帰国後に就職する際もそれは自分の強みになると考えていましたね」

岩本氏がエチオピアの職業訓練校で行っていた授業風景

――帰国後はどんな進路に?

吉田氏「国際協力の分野でキャリアを積んでいくため、この事務局で働かせていただくことになりました。現地で障害のある子どもたちのための学校や制度がまだまだ整備されていない現状を目の当たりにしてきたので、将来的には国際協力について大学院などで勉強を深め、開発途上国の障害児教育や障害者福祉のために役立つ人間になりたいと考えています。」

岩本氏「協力隊の魅力のひとつとしては、帰国後の就職サポート制度が充実しているところだと思います。私は進路相談カウンセラーの紹介もあって、民間企業に就職し、そこで10年ほど勤めることができました(現在は協力隊事務局に勤務)。日本の企業で働くということでは1からのスタートでしたが、協力隊の2年間の活動から得たものは自分の武器になっていくだろうという自信はありました」

青年海外協力隊経験者には「突進力」がある

――最近は協力隊経験者に対する求人が増えているそうですが

山田次長「はい。この2年の間で、700件程度だった協力隊経験者への求人数が2500件に増えています。トヨタ自動車やロート製薬、楽天といった有力企業からの採用も増えているのが事実です。『難しいことを任せてもなんとかやり抜こうという突進力がある』『協力隊経験者の存在自体が、会社の中を活性化してくれる』と評価をいただいております。」

――参加しようかどうか悩んでいる読者の方にメッセージはありますか

岩本氏「先進国だとどこへ行っても同じようなものがお店に並んでいて、食べ物も世界各国のものが食べられて、何不自由なく日本と同じような生活ができます。でも開発途上国に行くとそうはいかない。だからこそ、その2年間は特別な経験になるのだと思います。いろんな海外旅行があってもこれだけ濃い時間を過ごせるのは協力隊だけだと思います。」

山田次長「東日本大震災では170もの国々から義捐金が集まりました。その中には『こんな途上国からも』と思うような国の名前もありました。その背景には青年海外協力隊が草の根レベルで築いてきた日本への信頼感と親近感があるのだと思います。派遣先では自分が村でひとりの日本人となることがふつうです。青年海外協力隊員は草の根レベルの『外交官』といえます。ぜひみなさんも新しい世界に飛び込んでほしいですね」
「『このままの人生でいいのか』と悩んだ時、『何かしたい』と思った時、協力隊に行くというのも選択肢の一つに入れてみるといいと思います。迷っているのなら、まずは説明会に参加されるのも手だと思います」


(※1)岩本 茂樹氏プロフィール
大学で工業デザインを学び、卒業後に協力隊に参加。1997年から2000年までエチオピアの職業訓練校に木工隊員として派遣され、木工製品の制作を指導する。帰国後は民間企業に就職。 現在は、青年海外協力隊事務局で派遣前訓練の業務に携わっている。

(※2)吉田 純平氏プロフィール
大学・大学院で特別支援教育を学び、卒業後に協力隊へ参加。 2011年~2013年までコロンビアのNGOに養護(現在は障害児・者支援に名称変更)隊員として派遣され、障害を持った子供たちへの教育に取り組む。 帰国後は、青年海外協力隊事務局で募集広報の業務に携わっている。