独立行政法人 国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊が「グローバル人材」を育てる場として注目されている。開発途上国でのボランティア活動で培われる交渉力や問題解決力に期待し、協力隊経験者を採用したいという企業が急増しているのだという。いったいそこにはどんな体験が待っているのか――。今回、同機構青年海外協力隊事務局の山田健次長と協力隊経験者の岩本茂樹氏、吉田純平氏にお話を伺ってきた。
ハードルが下がり参加しやすく
――JICAボランティア事業「青年海外協力隊」にはどんな人が参加しているのですか
山田次長「独立行政法人 国際協力機構「JICA」(※以降、JICA)がボランティア事業として実施している“青年海外協力隊”(※以降、協力隊)は1965年に始まった海外ボランティア事業です。満20歳から満39歳までを募集年齢として、開発途上国からの要請に応える形でこれまでに約90カ国、約4万人の隊員を派遣してきました。私が学生だったころは大学を出てから3、4年社会経験を積んだ人の参加が多かったのですが、いまは大卒でそのまま参加する人も多くなっています」
――海外からの要請ではどのような職種が多いですか
山田次長「以前は農業・畜産を中心とする第一次産業や看護師などの保健・医療の分野が多かったのですが、途上国の発展段階が高くなってきて、最近は教育やコミュニティ開発など第三次産業にシフトしてきました。現在は120種以上の職種があります」
――協力隊に参加するにあたり、資格などは必要ですか
山田次長「資格が必須の職種もありますが、最近は教育分野でも国によっては教員免許が必要ないところもあって、以前に比べるとハードルはずいぶん低くなっています。特定の資格がなくても『野球をしていました』とか『剣道をしていました』という人が、その趣味を生かし、スポーツや青少年教育の分野で活躍している例もあります。最近はコミュニティの活性化や連帯感を深めるためのさまざまな活動を行う『コミュニティ開発』の要請が増えていますが、ここでもあまり資格は求められておりません」
――協力隊にはどのような人が向いていますか
山田次長「開発途上国で活動することに意欲があることがなにより大事ですね。意欲さえあればチャンスは広がっていると思います。採用するにあたり、重視しているのは『人物』と『健康』。協調性のない人や独りよがりの人を送るわけにはいかないですし、途上国の場合日本のように病院に通うことができないので慢性的な病気があると難しくなります。また、中学生程度の英語力(TOEIC、最低330点)も必要です」
「予測不可能」な世界で自分を鍛える
――「グローバル人材」の視点から、いま協力隊に参加するメリットは?
山田次長「協力隊での経験は、これからのグローバル社会を生き抜くための大きな武器になるはずです。開発途上国 を含めた海外の国々では日本と同じように物事は進みません。日本では『まわりと違わないこと』がふつうですが、海外では『まわりと違うこと』がふつうなのです。派遣先では『予測不可能』なことの連続ですが、それでも隊員たちは問題を解決し、乗り越えなければなりません。『仮説を立てる→挑戦する→失敗する→代替案を検討する→挑戦する』を繰り返すなかで、この行動パターンをしっかりと自分のものにすることができるのです。これはグローバル人材としてはもちろん、一人の人間として生きていく上でもとても有効なものだと考えています」
――岩本氏と吉田氏は協力隊経験者とのことですが、どういった活動に参加されたのですか
岩本氏「エチオピアの職業訓練校に木工隊員として派遣され、家具などの木工制作の指導をしました。大学で勉強したのは工業デザインだったので役に立てるのか心配だったのですが、実際には私にできることがたくさんありました。家具をつくるためには大抵は初めに絵を描くのですが、生徒たちはそもそもその絵を描くことが苦手で、立法体も四角形も平行線も描けない。それで奥行きのあるフリーハンドスケッチの手法を教えたり、そこに人が座るとどうなるのかを一緒に考えたり。生徒たちはとても喜んでくれて……。みんなが笑顔になる仕事をしていると実感できたのは幸せでしたね」
吉田氏「大学と大学院で特別支援教育について学んだあと協力隊に参加し、コロンビアのNGOに養護隊員として派遣されました。障害の ある子どもたちの教育に取り組みました。派遣前訓練と現地語学訓練で合計3か月スペイン語を勉強してから行ったのですが、最初のころは言葉の壁に悩みました。教室の隅で泣いている子どもに『どうしたの?』と声をかけてもその子が一生懸命に話してくれていることがわからなくて……。わからないなりに積極的に会話をすることでコミュニケーションの問題を克服するようになると、活動そのものも充実していきました」