5月28日にバンダイビジュアルより発売される『機動戦士ガンダム Blu-rayトリロジーボックス プレミアムエディション』を記念して12日、東京・新宿ピカデリーにて「劇場版三部作『機動戦士ガンダム』オールナイト&スペシャル上映会」が行われた。
スペシャル上映会は、4月12日~18日(16日は除く)の期間で行われ、『機動戦士ガンダム』『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』の劇場版三部作が一挙に上映される。初日の12日には、オールナイト上映会とともに、板野一郎氏(アニメーション監督、劇場版三部作アニメーター)、関田修氏(アニメーション監督、劇場版三部作フロアディレクター)が制作スタッフの代表として、福井晴敏氏(作家、『機動戦士ガンダムUC』ストーリー担当)がファン代表として登壇し、アニメ特撮研究家の氷川竜介氏の司会のもと、トークショーが行われた。
氷川氏から、「『機動戦士ガンダム』は現在では伝説的な作品と考えられているが、制作当時はそんなに力を入れている作品ではなく、現場は大変な環境だったそうですね」と問われると、板野氏は富野監督が局の偉い人からの電話に「すいません。すいません」と謝っていた話を明かす。監督は電話を切ってため息をついてから、元気を出すためにファンの手紙を読んでいたという。この作品は「そんなに期待されていなかった」と語る板野氏は、当時サンライズ第1スタジオで作業しており、席がクオリティに厳しい安彦良和氏(『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン/作画ディレクター)のすぐ近くで緊張していたことを告白。「外部から上がってきた原画を見て、こんなの使えるか~って怒って、四隅を止めて、くるくるポイしちゃうんですよ」と当時のエピソードを披露した。
福井氏は、会場に向かって「"板野サーカス"という言葉を初めて聞いた人?」と質問。さすがに詳しいファンばかりで手を上げたのは数人だったが、板野氏の編み出した"板野サーカス"と呼ばれる戦闘シーンの演出手法の解説を始める。まず『機動戦士ガンダム』劇場版公開前にTVで放映されていたアニメ『伝説巨人イデオン』について言及し、「普通だとそのまま当たるんだけど、アディゴが逃げちゃうですよね。それをミサイルが追っかけて」とアクロバティックな戦闘シーンの説明。「最近は、板野さんの影響で、戦闘シーンの絵コンテをメカデザイナーさんに送ると、別の絵コンテが上がってくるんです」とメカ作画で演出を膨らませるという前例を作ったのが板野氏だったと語った。
すると氷川氏から、板野作画のもう一つの例として「フラミンゴのシーン」が挙げられる。会場のスクリーンには、ジャブローから発進するホワイトベースの側を飛び立つフラミンゴのシーンが映され、板野氏は「安彦さんが遠慮して、絵コンテではフラミンゴの数を少なめに描くんだけど、僕が勝手に増やしちゃった」と言い、誰もが敬遠しがちな手間のかかるシーンをあえて引き受けていたと語った。すると関田氏が、ある打ち上げの席で仕上げ会社の社長さんから「お前のおかげで何人辞めたと思ってるんだ~」と板野氏が怒られ、いきなり殴られたことを暴露した。
会場のスクリーンはエルメスのコクピットでの場面に変わり、当時の撮影テクニックに話題が移行する。このシーンでは光がだんだん増えていくが、これは関田氏が撮影に立ち会い、現場でマスク用紙に針で穴を空けて増やしていった解説。また、別のガラスが割れるシーンでは、白い線をマーカーで描き足しながら撮影していたと語る。それに対し福井氏は「最近はパソコン処理で自由に修正ができるので、直しがいつまでも終わらない」と、当時の潔さに感嘆していた。
最後に氷川氏から、5月28日にバンダイビジュアルから発売される「Blu-ray トリロジーボックス」について、プレミアムエディション(初回限定生産)の特典「劇場版三部作5.1ch 特別版」は当初1枚のディスクにまとめる予定だったが、エンディングが違ったり絵のタイミングが微妙に異なっており、技術的な問題もあって別ディスクになった経緯が説明。また、封入特典の『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』のパンフレットは、場面写真が当時と違う別バージョンとなっているという。サンライズにも残っていなかった資料を、氷川氏が秘蔵のコレクションから提供し、復刻が実現したということが明かされた。
数々の当時の裏話、制作秘話が語られ、熱気に満ちたトークショーは幕を閉じることとなった。
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