以前の記事で、Windows OSが無料化される可能性について述べたが、それが現実になりそうだ。Microsoftに限らず「Internet of Things (IoT)」というキーワードは巷に溢れている。2020年には数百億のデバイスがWebに接続すると予想されており、コンテンツを提供するのが主目的だったインターネットは、アプリケーションの接続インフラを提供するものに置き換わりつつある。「IoT : モノのインターネット」はそんな現象を指した言葉だ。

キーノートで示された「Internet of Things」を示すイラスト。あらゆるデバイスにネット機能が付加されているイメージだ

MicrosoftのOperating Systemグループ担当EVP(エグゼクティブ・バイスプレジデント)のTerry Myerson氏は、開発者向けカンファレンス「Build 2014」で「Windows on the Internet of Things」という無料のWindowsを提供するプロジェクトを明らかにした。もちろんすべてのWindows OSが無料になるわけでもないし、読者が今使っているWindows 8.1が無料になるという話でもない。

このプロジェクトは、ディスプレイサイズが9インチ以下のタブレットやスマートフォンを開発しているデバイスベンダーに対し、Windows OSを無料で提供するというものだ。スマートフォン/タブレット市場でライバル企業の後塵を拝するMicrosoftは、現状を打破するために無料化の道を選んだ。

「Internet of Things」時代に即し、Windows OSを無料にする

具体的には9インチ未満のデバイスに対し、Windows OSが無料提供される

正式名称が不明のため、ここでは「Windows for IoT」とする。Windows 8.1 Updateのシステム要件として、メモリは1GB、ストレージ容量16GBとシステム要件の緩和が明らかにされているが、このWindows for IoTも低価格デバイスに向けたもので、Windows OSのシェア拡大を目的としている。

我々エンドユーザーには直接のメリットはないものの、既存の9インチ未満タブレットからOSライセンス費用が省かれるため、最終的には今よりも安価に購入できる可能性がある。Windows 8.1やWindows Phone 8.1のライセンス料は公式に発表されていないが、Windowsタブレット市場に参入するベンダーが増えることで、自然と競争原理が働き、最終的にはエンドユーザーは安価もしくは高品質なタブレットを手にできるという間接的なメリットは生まれるのである。

さて、過去のレポートでも述べてきたように、OSの無料化がトレンドになっている。そもそもライトユーザーは「OSはPCに付いてくるもので、購入するものではない」という考えを持っているかもしれない。筆者のようなオールドスクール的思考からすれば違和感を覚えるものだが、Windows 8も再インストール作業をできる限り軽減する仕組みを備えている。

このように、コンピューターにおける主たる存在はOSではなく、アプリケーションやサービスに移行し終えたのだ。MicrosoftがWindows OSの無料化という判断を下し、「デバイス&サービス」というビジネスモデルに移行したのも理解できる。ただし、今回の無料化は前述のとおり限定条件下で施行されるものであり、広告などから収益を得る「Windows 8.1 with Bing (仮称)」については触れていない。今後もWindowsが無料化という道を突き進むのは止められないだろう。

マルチコア環境で威力を発揮するDirectX 12

今回のBuild 2014では、DirectX 12に関する説明も行われた。下図はキーノートで公開されたものだが、3DMarkによるベンチマーク結果をグラフ化したものである。一目でDirectX 12(Direct3D 12)のパフォーマンスが向上しているのがわかるだろう。

Direct3D 11およびDirect3D 12によるベンチマーク結果

Direct3D 12 APIで目指したのは「CPUオーバーヘッドの削減」や「マルチCPUコア間におけるスケーラビリティの向上」「Direct3D 11レンダリング機能との互換性」だという。下図は今回のプレゼンテーション資料でDirect3D 11のロジックを示したものだ。Direct3D 11は個別に受け取ったデータや処理を、やはり個別にGPUメモリー上に展開し、処理のオーバーヘッドが発生していた。

Direct3D 11のレンダリング処理におけるイメージ図

しかし、Direct3D 12は処理受付窓口を用意し、パイプライン上で一度整理。それからGPUメモリーに処理結果を投げるため、より適切な処理が行われるという。詳しく述べると、これまではシェーダやラスタライズといった処理単位でハードウェアを利用していたため、オーバーヘッドが発生していたが、Direct3D 12はPSO(パイプラインステータスの最適化)でオーバーヘッドを軽減している。

Direct3D 12のレンダリング処理におけるイメージ図

たとえば、市役所の来訪者が総合窓口から各該当部署に出向くのではなく、総合窓口経由で書類の受け取りや、申し込み処理を可能にしたと考えればわかりやすいだろう。詳細に関しては以前の記事も合わせてご覧いただきたい。

Windows Phone 8.1推しだった「Build 2014」

本題とは関係ないが、今年のBuild 2014では、Xbox Oneおよび500ドルのMicrosoftストアギフトカードがプレゼントされたようだ。慣例的にPCやタブレットなどを参加者にプレゼントしてきたBuildだが、今年は「ユニバーサルWindows Apps」にも加わる予定のゲーム機器だという。

日本未発売のため、Windows Phone 8.1に関してはあまり取り上げていないが、新OSに関する説明や、デジタルアシスタント「Cortana(コルタナ)」のデモンストレーションに時間が割かれた印象を持った。Microsoftの新戦略を踏まえるまでもなくスマートフォンが今後の主役になるのは間違いない。気になる国内展開のタイミングを早く明らかにしてほしいものだ。

参加者にプレゼントされたXbox Oneと500ドル分のギフトカード

阿久津良和(Cactus)