――先ほど、LTE Advancedについてのお話も出ましたが、ネットワークなどのインフラについてはいかがでしょうか。

  • 田中氏

頑張ってLTEのエリアを99%にできて、これは当然広げていきます。ここから先が遠い道のりですが、(広さに加えて)厚みを出していくことができます。

ただ、街の中ではまだ3Gになってしまうことがあります。そこに蓋ができれば、オールLTEでフォールバックがしない世界を作れます。そうすればいろいろなことができる。厚みについては、LTE Advancedでハイスピードを実現できます。また、2020年に向けて5Gの検討がスタートしましたが、今はそういうところにいます。

スマートパイプを実現できるかが鍵

僕は通信屋なので、インフラは無色だと思っています。端末が同質化したなかで、インフラが素材産業的なのようになるのをよしとするのが、いわゆるダムパイプ(土管屋)的な考え方で、僕らはこれをよしとせず、スマートパイプになろうとしています。いろいろなニーズに対して、ソリューションを提供するということですね。

(世界の携帯電話事業者加盟する業界団体の)GSMAでも、イノベーションはインフラからできると言っていて、彼らもトピックを決め、それをロールアウトしようとしています。僕らはそのなかで「au ID」をプレゼンしましたけど、このIDはもっと使っていけると思っています。

設備競争論者としてNTT規制緩和の話には違和感

――2020年というお話が出ましたが、総務省ではここに向けた検討が進んでいます。そのなかで、NTTやドコモが規制緩和を訴えてくるという見方がありますが、ここについてはいかがでしょうか。

  • 田中氏

巨大なところを規制緩和すれば、短期的に料金は安くなるかもしれないですが、一番の問題はバックホールだと思っています。無線は周波数が高くなればなるほど設備も小さくなり、5Gでもその方向です(4GのLTE Advancedでも、小型基地局を組み合わせるHetNetが導入される)。基地局が小さくなり、数が多くなると、重要になるのはファイバーネットワークですが、それはまだNTTが72%ものシェアを持っています。

うちも関東や中部、関西はケイ・オプティコムがやっていますが、もしここのやる気がなくなったら、日本中のネットワークをNTTが作るのかということになります。逆に、ここを安くすれば、イノベーションを起こせるようなインフラになる。そのために、僕らは設備競争論者として、大変だけど今もがんばっているんです。

小野寺の時代に無理をして東京電力から(FTTHを)買い、CATVも買ってきました。それも、設備競争論者だから(やってきた)。国の施策も設備競争がベースになっています。少なくともそれで、FTTHは世界ナンバー1の国になりました。アメリカでなぜ同じような展開ができていないかというと、結局はファイバーが高いからという風に思っています。

NTTは世界ナンバー1のキャリアですし、あまりにもシェアが高い。規制の議論が出てくること自体に、少し違和感がありますね。

そもそも過去の議論が前に進んでいない

――NTTグループの連携というより、特にドコモは禁止行為規制の見直しを訴えています。仮に連携ができなければ、そのほかは許容できるということでしょうか。

  • 田中氏

それ以外のドコモさんについて、いいものがいい、悪いものが悪いというのはまっとうな部分です。ただ、セット割をすると、これはシェアの高い方に引っ張られます。

たとえばドコモさんとNTT東西さんがセット割をすると、固定通信の72%の方にドコモさんのシェアが近づくんです。その代わり、割引の原資はどこが引き受けるかとなると、これはドコモさんになるんだと思いますけどね。

うちは、FTTHの新規分で、セット割の減分のバランスが取れればメリットになります。

とは言え、もう少し先の話をしようというのが本音。モバイルのほとんどの議論が固定で決まってしまうなかで、そもそもNTTをバラバラにするということが過去の議論にあって、それが進んでいません。ドコモさんの持ち株会社資本をなくして自由にするというのもありましたが、それもなかなか進んでいません。

端末販売モデルの変更は様々な波及効果をはらんでいる

――総務省では、SIMロックの解除やMVNOの推進も話題にあがっています。こちらについてはいかがでしょうか。

  • 田中氏

MVNOに関しては、セコムさんやトヨタさんのような付加価値型をのぞくと、ほとんどドコモさんが100%に近いシェアですね。これは不健全。できるだけ、競争環境になるようにしたいと思ってます。

ただ、MNOとカニバって(競合して)しまう。(総務省のガイドラインを受けて、ドコモが接続料を大幅に値下げした)今回の措置で、1GB、980円だったものが、2GB、980円になることも十分ありますし、そうすると今のマジョリティまでカバーできてしまいます。

――そうなると価格競争だけになってしまうということでしょうか。

  • 田中氏

アクセルの踏み方を間違えると、とんでもないことになってしまいます。

SIMロックも僕らだけでなく、代理店まで巻き込んだ変化になるでしょうし、メーカーへの影響も大きい。いろいろな課題を抱えているのは事実です。

SIMロックを外せば(メーカーブランドの)端末が流通していいと言いますけど、実際の市場はサブシディモデル(契約型モデル)になっていますし、完全な分離プランになったら端末が売れなくなるというのはあります。

もちろん、だからキャッシュバックがいいかといえば、本音ではキャリアだってそんなことはやめたいんです。