スタート前は、「刑事、医療モノばかり」と、やゆされた冬ドラマ。ソチ五輪の影響をモロに受けて放送が1週間飛んだり、思わぬバッシングを受けたりしながらも、全作品が無事に完走した。そんな理由もあって、「視聴率は軒並み2桁前後に留まる」などヒット作は生まれなかったが、「制作側のこだわりが見える良作があった」のもまた事実。どの作品のどこが優れて、どこが残念だったのか?
【ポイント1 とにかく悪をやっつけたい視聴者】
今クールで最も話題を集めたのは、『明日、ママがいない』。しかし、決して良い意味ではなく、関係団体や視聴者からの猛バッシングを受け、全スポンサーがCM自粛という異例の事態を招き、あわや放送中止の大ピンチに陥った。ただ、それでも何とか最終回を迎え、今では「あの騒動は何だったのか? 日テレはそんなに悪いことをしたのか?」という声が飛び交っている。
また、そんな「悪を見つけてやっつけたがる」風潮は、ドラマの内容にも及び、『三匹のおっさん』『S -最後の警官-』『天誅~闇の仕置人』では、いずれも理由なく罪を犯す、すなわち救いのない悪人が成敗され続けた。しかもその前2作は高視聴率を記録するなど、視聴者のニーズが勧善懲悪にあるのは間違いない。
若い年代は、単純に「日ごろのモヤモヤをスカッと晴らしたい」から。中高年は、「すっかりなくなった時代劇の代わり」に。『半沢直樹』が作ったこの流れは、しばらく続いていくだろう。
【ポイント2 乱発・刑事ドラマの勝ち組は?】
全体の3分の1以上を占めた刑事ドラマ。視聴率としては、平均14.2%の『S-最後の警官-』がトップだったが、特殊部隊が素手で戦うなど、そのアンリアルな演出を受け入れられない人も多く、来春の映画化に不安を残した。
一方、キャストも脚本も一定の評価を得た『緊急取調室』、初演技のTAKAHIROに伸びしろが期待できる『戦力外捜査官』、確かな原作とW主演の熱演が見られた『隠蔽捜査』は、視聴者の心をつかみ、続編への含みを持たせて終わった。
なかでも『隠蔽捜査』は、前クールの『刑事のまなざし』に続く良作だったが、視聴率は平均7.5%と壊滅状態。時間帯とタイトルを変えれば、倍程度の数字と評価を得られそうな作品だけに、TBSの月曜20時枠は過渡期に入っている。
【ポイント3 テレビ東京の歴史的勝利】
昨年10月に突然新設されたフジテレビとテレビ東京の金曜20時枠。第1弾のフジテレビ『家族の裏事情』とテレビ東京『刑事吉永誠一 涙の事件簿』のバトルでは、「テレビ東京が視聴率で上回る歴史的勝利」を挙げていたが、今回はさらに明暗が分かれた。“地域の悪者退治”という内容が丸かぶりの中、再びテレビ東京『三匹のおっさん』が、フジテレビ『天誅~闇の仕置人~』に圧勝。『三匹のおっさん』は、最終回が同局歴代1位の12.6%を記録するなど大きな支持を集めた。
一方、「テレビ朝日と日本テレビを再び追い越せ」のはずだったフジテレビは、格下と見ていたテレビ東京にまさかの惨敗。その影響は大きく、「これ以上テレビ東京に負け続けるわけにはいかない」と思ったのか、ドラマ枠の新設からわずか半年で廃止を決めた。 数年前なら考えられないテレビ東京の躍進とフジテレビの迷走。まさに1つの歴史が動いたクールだったと言える。
今クールの最優秀作品に挙げたいのは、「1億円横領」というエキセントリックな題材を繊細な演出と映像美で魅了した『紙の月』。徹底して女性の目線にこだわり、全5話でまとめたことなど、明らかに他枠とは異なる色を放っていた。『僕のいた時間』は、同じ橋部敦子脚本の『僕シリーズ』が放送されていた10年前なら視聴率トップになれた良作。「じっくり見たい」作風だけに、録画機器に視聴率を食われたところが大きそうだ。
一方、ウラ最優秀作品は、『ロストデイズ』。雪山への卒業旅行、ほぼ動かずに終わった人間関係、肩すかしの連続殺人事件など、脚本・演出に大きな疑問が残った。『夜のせんせい』は企画ありきの予定調和が多く、『失恋ショコラティエ』は演出の方向性がどちらつかずの印象を受けた。
【最優秀作品】『紙の月』 次点-『僕のいた時間』
【最優秀演出】『紙の月』 次点-『三匹のおっさん』
【最優秀脚本】『僕のいた時間』 次点-『紙の月』
【最優秀主演男優】三浦春馬(『僕のいた時間』) 次点-杉本哲太(『隠蔽捜査』)
【最優秀主演女優】原田知世(『紙の月』) 次点-剛力彩芽(『私の嫌いな探偵』)
【最優秀助演男優】光石研(『紙の月』) 次点-志賀廣太郎(『三匹のおっさん』)
【最優秀助演女優】鈴木梨央(『明日、ママがいない』) 次点-多部未華子(『僕のいた時間』)
【優秀新人】大野拓朗(三匹のおっさん) 野村周平(『僕のいた時間』)
【ウラ最優秀作品】『ロストデイズ』 次点-『夜のせんせい』
■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。