いくらか状況は改善されてきたとはいえ、女性が結婚・出産後に働き続けるのは難しいというのが今の日本です。もちろん、自分の子どもである以上、自分で子育てをしたいと考えるのは当然です。「国民生活白書」によれば、「少なくとも子どもが小さいうちは、母親は仕事を持たずに家にいるのが望ましい」という考えに対して賛成する人の割合は、2002年で78.8%でした。これは、1992年の89.8%と比較すると、10%以上も低下している結果ではあるのですが、子育て期にある母親は仕事よりも子どもを優先するべきという意識が、まだまだ強いことがわかります。
そういう状況も反映してか、働いている女性が子育てをするのと、専業主婦の女性が子育てをするのとで、子どもに与える影響に差があるのではないか。つまり、どちらかといえば、働いている女性が子育てをするのは子どもと接する時間が短いがために、悪影響があるのではないかと考えられてしまいがちです。ですが、結論から言ってしまうと、そんなことはありません。大事なのは時間の長さではなく、子どもと接する態度です。
子供との関係構築に"構い過ぎ"はNG
キーワードは、これまでマイナビニュースで何度も紹介してきた「アタッチメント理論(愛着理論)」です。今までは、男女の恋愛行動の中で取り上げてきましたが、本来は、子どもが社会的にも精神的にも正常に発達していくためには、養育者と親密な関係を構築し、維持しなければならないというイギリスの心理学者であるジョン・ボルヴィの考えです。
養育者と親密な関係を構築し、維持しなければ、子どもは様々な問題を抱えるようになるとされます。愛着や親密な関係というのは、いいかえてみると信頼です。乳幼児期に子どもは、特定の養育者(一般的には母親が多いが、それに限らない)との間で信頼関係で築きます。それにより、自分は守られているんだ、愛される価値がある存在なんだということを知ります。それがあるからこそ、子どもは自由に世界を探索し、社会的存在となっていけます。ですが、例えば自分は守られない、愛される価値がない存在だと思えば、人や社会を信用できなく、常に不安で仕方がなくなるわけです。
では、うまく子どもが親密な関係を構築し、維持するためにはどうしたらいいのでしょうか。
まずは、構い過ぎないこと。24時間べったり一緒にいる、過保護に接するというのは、安心を与えるどころか、子どもたちの探索的な行動を疎外してしまいます。それでは、社会や他の人間関係を広げることができませんよね。
反対に、子どもに自立心を身につけさせるんだと、泣いても放置。夜も子ども部屋で1人で寝かせるというのは、あまり好ましくありません。監視カメラで見ているから大丈夫という声がありそうですが、子どもにとって監視カメラで見られていても安心は得られません。子どもにとっては、誰かを求めても駆け寄ってきてはもらえないとということは、大人が恋人を求めても自分のもとには来てくれないという不安や絶望と同じです。 ですから、同じ空間にいたり肌の触れあい(スキンシップ)によって、たとえ昼間は一緒にいられなくても必ず私を守ってくれる、愛してくれる人は自分のもとに戻ってきてくれるというふうに実感させることが必要なんです。子育てで大事なのは、時間ではありません。子どもと接する態度が大事なのです。
著者プロフィール
平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理に詳しい。
現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は「化粧にみる日本文化」「黒髪と美女の日本史」(共に水曜社)など。