東京23区でたったひとつしかない「オンリーワン」ってどんなものがあるだろう? 公営遊園地に酒蔵、静寂に包まれた谷間の渓谷……。日々装いを変える東京で、人々が忘れかけたすばらしい風景を探してみることにした!
唯一の公営遊園地の売りはコースター
町屋から都電荒川線に乗り揺られて行くと、荒川遊園地前という駅がある。ここが東京で唯一の公営遊園地「荒川遊園地前」だ。大正11年(1922)創業当時は、民営「あらかわ遊園」であったという。
当時の案内には、<東京に最も近き避暑地 山水木石園内貳萬坪完備 暑さ知らずの仙境 凉味萬斛、風景絶景 有名なるあら川大瀧あり 安全飛行塔數十臺建設>とある。その後、日本は不幸な時代に突入し、昭和16年(1941)には高射砲の陣地が設置され、戦争に突入。空襲により荒廃地となる。
終戦から5年の昭和25年(1950)8月には、「区立あらかわ遊園」として再び開園。その後、改装やアトラクションを整備しながら現在にいたっている。
園内ではティーカップや観覧車、メリーゴーランド、豆鉄道、コースターやスカイサイクルなどの大型遊戯施設のほか、どうぶつ広場やふれあい広場、ポニーの乗馬などで楽しめ、現在も多くの都民の憩いの場所として盛況を呈している。
この遊園地のアトラクションの売りは「日本一遅いコースター」。昭和29年(1954)に遊園に登場以来、遊園のシンボルとして親しまれてきたものだ。現在の観覧車は、直径26メートル・高さ32メートル。約7分で1周する。晴れると富士山が見えることもある。
●information
あらかわ遊園
住所:東京都荒川区西尾久6-35-11
営業時間:9:00~17:00(GWの日曜日・祝日と夏休み期間の日曜日は雨天を除き18:00まで)
定休日:不定期(Webで確認)
アクセス:都電荒川線「荒川遊園地前」から徒歩3分、JR高崎線・東北本線尾久駅から徒歩15分
唯一の酒蔵は神様から贈られた湧き水を使用
続いては大人のためのスポットを紹介! 東京メトロ南北線赤羽岩渕下車徒歩5分の「小山酒造」は、23区でただ一軒の酒蔵である。その歴史は、初代小山新七が酒造に適した湧水を発見して以来(明治11年創業)、百有余年になる。
岩淵の地下には秩父を源流とする浦和山脈の支流が流れているのだが、酒造りに適したこの良質な伏流水のおかげで、昔と変わることない「丸真正宗」が作り続けられているのだ。この一帯は昔から豊富な水資源で知られ、この辺りを掘ると湧水が2メートルも噴出したと言われている。
また、かつては宿場町としてのにぎわいがあり、旧岩淵街道(現在の国道122号線)を行く旅人に提供し、店の前はしばしの憩いの場となっていたのだとか。
蔵では日本酒の知識を広げ、より楽しい日本酒を楽しんでもらおうと蔵見学を行っている。見学は5名以上で申し込み可能な完全予約制なのでご注意を(1週間以上前に要予約、入館料:5名~10名=ひとり500円、11名以上=ひとり300円)。是非、「丸真正宗」が生まれるところを実際に見学してみてほしい。
ほぼ地産地消の「丸真正宗」は、一部の百貨店での販売を除けば、大半が23区城北エリアで消費されるという。赤羽近辺の地元飲食店で出合うことができる。
●information
小山酒造
住所:東京都北区岩淵町26-10
営業時間:蔵見学の受付時間は、平日の9:00~17:00
アクセス:JR赤羽駅北口より徒歩20分、東京メトロ南北線 赤羽岩淵駅3番出口より徒歩5分
唯一の渓谷は大渋滞の環八の下に
最後に紹介するのは都内のオアシス的な存在。東急大井町線等々力駅から少し歩くと、23区で唯一の渓谷がある。この「等々力渓谷」は、23区内という都心にありながらまるで別世界のような、静かさと緑にあふれている。
コースは等々力駅からゴルフ橋を経て玉沢橋をくぐり、等々力渓谷横穴古墳を見学。この古墳は、古墳時代後期から奈良時代(7世紀後半~8世紀)のものと推定される横穴式古墳で、ガラス越しに中がのぞけるようになっている。
このあたりに古墳は6基以上あり、須恵器や金属製の耳環(じかん)やガラス玉などと一緒に、大人の男女・子供あわせて3体分の人骨も発見されている。少し下流に歩くと数千年の間水を絶やすことなく落下し続ける、稲荷堂・不動の滝がある。すぐ至近を通る環状8号線の喧噪とは嘘のような静寂がここにはある。
不動の滝の階段を上ると、等々力不動の境内に出る。お不動さんへのお参りがこのコースのゴール。たまにはこんな東京に触れてみるのもひとときの清涼剤になるのでは?
●information
等々力渓谷
住所:東京都世田谷区等々力1-22
アクセス:東急大井町線等々力駅徒歩10分
※記事中の情報は2014年2月取材時のもの