“ゼロから生まれるインスピレーションを素早くカタチにできる”をコンセプトに、シンセサイザー音源、シーケンサー、サンプラー、エフェクト、オーディオ・インタフェースなど音楽制作に必要な要素すべてを1台に凝縮したローランドの最新ミュージック・ワークステーション「FA-06」/「FA-08」(以後、FAシリーズ)が登場した。アマチュア、プロフェッショナルを問わず、Mac/PCとDAWソフトウェアを中心となっている現代の音楽制作環境ともシームレスに融合し、音楽制作におけるユーザビリティを格段に高めてくれるという同機は、果たしていかなるポテンシャルを秘めているのか、その特長と魅力について早速レポートをお届けしよう。

ミュージック・ワークステーション「FA-06」(写真左)、「FA-08」(写真右)は、これまでの曲づくりのワークフローをゼロベースで見直し、現代のワークステーション型のシンセサイザーの在り方を再定義する

FAシリーズの楽器としての外観は、ブラックとレッドを基調としたルックス、FAシリーズに合わせてデザインされたピッチベンド&モジュレーション・スティック、高精細な大型カラー液晶ディスプレイなど、細部にわたりこだわりを感じさせるものとなっており、その近未来なイメージは否が応でもクリエイターのテンションをアップさせる。また、ロゴデザインもそれ自体がひとつのアイコンとなるようになっている。また、FA-06はシンセ・タッチの61鍵盤、FA-08はRD-300NXなどで好評の88鍵アイボリーフィールG鍵盤を採用しており、目的に合わせてタイプに違った2種類の鍵盤数/タイプから最適なモデルを選択可能だ。なお、鍵盤以外の仕様ついては両モデル共通となっている点も、ユーザーにとっては非常に嬉しい。

FAシリーズでは、シンセサイザーでは珍しいスクリーンセーバー機能を搭載している。フェニックスをモチーフにした壮大なムービーが、ミュージック・ワークステーションの復権を象徴しているかのよう

シンセサイザーとしての要である音源には、同社のフラッグシップ音源モジュール「INTEGRA-7」直系のSuperNATURALサウンドが多数搭載されているほか、数々の名曲でもそのサウンドを聴くことができる同社のPCMサウンド(定番のXV-5080全音色含む)など、トータルで2,000音色以上も備える豪華な仕様となっている。アコースティック系のSuperNATURALサウンドは、アコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノ、オルガン、クラビネットなどキーボード系の音色は特に充実しており、さらにアコースティック・ギター、ベース、セクション・ストリングス、アコースティック・ドラムなど制作やライブでも便利に使える音色が豊富にラインナップされている。シンセサイザー系のSuperNATURALサウンドは、INTEGRA-7との互換性があり、ローランドのダウンロード・サイト「Axial」にて無償配布されているINTEGRA-7用の豊富なシンセサウンド・ライブラリもそのまま読み込みできるのも大きな魅力といえるだろう。また、本体にあるプレビューボタンを押すだけで、各音色に最適なフレーズで音色を試聴できるもの非キーボーディストの制作者にも配慮した面白い機能だ。

自然な音色変化と、楽器特有の鳴りや響きの違いをも再現することで定評あるSuperNATURALサウンドのエディット画面では、各種音色パラメータを視覚的かつ直感的に変更することが可能となっている(写真はSuperNATURALピアノ音色のエディット画面)

FAシリーズの高品位なサウンドエンジンは、常に16パートのマルチティンバー状態となっており、いつでも楽曲制作を始められる状態になっている。こちらもINTEGRA-7直系仕様となる強力なマルチ・エフェクト(MFX)機能により、従来機種では困難であった16パートすべてでのMFX使用が可能。これにより、クリエイターはエフェクト・リソースの制約を受けることなく、マルチ・パート状態でも音色本来の鳴りを維持した状態で各音色を利用できるので非常に便利だ。さらに、リバーブやコーラス、コンプレッサーなどの高品位なマスタリング・エフェクト、各チャンネルで使用できるEQを搭載している点も、同機1台のみで楽曲の完成形を目指す際などに重宝するだろう。

定番のディレイや歪み系エフェクトから、流行のエレクトロ・ダンス・ミュージックに欠かせないビット・クラッシュまで、強力なMFXを搭載。FAシリーズ1台だけで高品質なサウンド・メイクが楽しめる。DJパフォーマンスに欠かせない、ルーパー、スライサー、アイソレーターといったTFXも内蔵する

アイディアが閃いた瞬間に、どの状態からでも録音ボタンを押すだけで、即座にレコーディングを実行できる使い勝手の良いシーケンサーも、FAシリーズの魅力のひとつ。ループ録音やステップ入力、イベントリスト編集といった基本機能も搭載されており、大型カラー液晶画面での視認性も抜群だ。わざわざコンピューターを起動しDAWソフトウェアを起動しなくとも、気軽に楽器を演奏しながら沸き上がってくるフレーズやアイディアを、インスピレーションの趣くままに手軽に書き留められるのは、ハードウェア・シーケンサーならではの大きなアドバンテージといえる。なお、シーケンサーに録音されたMIDIトラックはSMFなどのMIDIデータとしてだけでなく、「マルチ・トラック・エクスポート」機能により、1度の操作でトラック個別のオーディオ・データ(WAV)に書き出すことも可能。FAシリーズで作った楽曲のアイディアスケッチを、コンピューターに素早く移行することができるように工夫されている。ただし、書き出しの際には、トラック数×楽曲時間の実時間が必要となる。

曲作りの初期段階などでぜひとも活用したい軽快かつ本格的な内蔵シーケンサーおよびミキサーを装備。音楽のジャンルや制作のスタイルに合わせ、さまざまな入力方法が選択でき、楽器演奏経験の有無を問わず音楽制作を気軽に楽しめる

そして、もうひとつ忘れてはならないのが、FAシリーズとコンピューターとの連携機能だ。FAシリーズのボタンやノブから、DAWソフトウェアを操作可能な「DAWコントロール」機能では、難解な設定や操作も一切必要なしで「Logic Pro」、「SONAR」、「Cubase」などのDAWソフトウェアを快適にリモートコントロールできる。そのほか、FAシリーズでは、オーディオ・インタフェース、およびMIDIインタフェース機能も内蔵しているので、コンピューターでFAシリーズを音声の入出力先として指定し、同機にマイクやギターをダイレクトに接続すれば、最小限のシステムで外部サウンドの取り込みも行うことが可能だ。ちなみに、DAWコントロールモードを有効にした瞬間に、キーボード側のローカルスイッチが自動的にオフにできるなど、細かいところまでとても配慮が行き届いていると感じられた。

ボタンひとつで、FAシリーズ本体にノブ、パッド、トランスポートなどを使ってDAWソフトウェアを操作できるコントローラー・モードに切り替えが可能。LOGIC PRO、SONAR、CUBASEの3つがあらかじめ用意されている

このように、FAシリーズでは、基本的にコンピューターを使った昨今の音楽制作環境を前提とし、内蔵された多彩な機能群が効率的に連動するよう配慮がなされており、まさに現代の制作環境に最適なミュージック・ワークステーションとなっていることが分かった。

筆者も、本レポートを執筆している最中に、思わず自身の音楽制作環境に導入したくなってしまうほど魅力的な新しいワークステーション「FA-06」/「FA-08」は、中上級者のみならず、これから音楽制作をはじめる初心者の最初の1台としてもお勧めだ。