問題は残りの4つの点だ。これらの問題については、現時点では不正が行われたか否かについての結論を出せておらず、さらに時間をかけた調査が必要だとしているが、それでもそれぞれの問題に対し、判明したことがあり、今回はそれが報告された。

(2)の電気泳動像における画像に対する問題については、コントラストを変えると、3番目のレーンが明らかにほかのと異なる様子を示すため、後から切り貼りされた可能性が高いという判断がなされた。これについて小保方氏からは、2つのパルスフィールド電気泳動ゲルを撮影した2枚の写真(ゲル1、ゲル2)を用い、ポジティブコントロールを明瞭に示す為にわかりやすいレーンの画像を、ということで、写真の切り貼りを行ったという発言を受けたという。

電気泳動像における画像。真ん中(3番目)の画像が、ほかと異なっている様子が見て取れる

委員会の調査では、画像の加工について、ゲル1のレーン1、2、3、4、5の写真において本来レーン3が存在していた場所にゲル2のレーン1の写真が単純に挿入されたものではなく、前者のゲルにおける標準DNAサイズマーカーレーンの泳動距離が後者のそれに比して約0.63倍であり、図の作成時に前者を縦方向に約1.6倍に引き延ばす加工をしたうえで後者が挿入されたことを確認したという。

掲載画像に加工される前のゲル1とゲル2の写真

ただし、検証の結果、提出された実験ノート類などの記載やサンプルチューブのラベルなどの各種情報は、レーン1、2、4、5は論文通りで、論文で「Lymphocytes」とラベルされたレーン3はCD45+/CD3+Tリンパ球であることが確認されたものの、ゲル1とゲル2の間には、標準DNAサイズマーカーの対数値と泳動距離について直線性の保持は見られず、説明通りに標準DNAサイズマーカーの位置情報に基づいてレーン3を配置することができないことが確認されたことから、説明を裏付けることができず、現在も解明に向けた調査が進められているとした。

この問題に対し、今回の件を担当している理事である川合氏は、「生命科学の分野では電気泳動の結果を切り貼りしてくっつけること自体、倫理的ではありえず、倫理的に正しくないデータという判断。いわゆる悪意のある改ざんかどうかは報告の通りだが、切り貼りが禁止されている中で、同一展開のものであると見せようとしたのであれば、倫理に反する。また、間違いを載せてしばらく気づかないのは倫理の問題かどうかというのはあるが、科学者としての常道を逸してると思う」と述べたほか、石井氏は、「調査委員会が驚いたのは、ゲル1の画像をそのまま使っていれば、もともとのマーカーがあり、それで論拠に足りたのに、クリアになっていなかったから、よりクリアなマーカーを持ってきたという回答。悪質なねつ造ではないが、プロフェッショナルなサイエンティストであればありえない行為」と、その不可解さを指摘した。

(3)のMethodの核型解析に関する論文盗用問題と(4)のMethodの核型解析の記述の一部に実際の実験手順とは異なる記述があった点については、当該部分前半の文章の一部が同一性の観点からコピーであることが確認されたが、小保方氏は、自分で書き、どこからその文章をもってきたのかよく覚えていないと答えたとする。実際に小保方氏は、当該文献そのものを保有していなかったが、文章の類似性、小保方氏が手法を熟知していなかったこと、実際に行われた実験と記載が完全に合致しないことなどから、元の論文を執筆したGuo J氏らの記載を何らかの方法でコピーしたものであると認められたとする。

赤文字部分が小保方氏がコピーをした箇所

また、同じMethogの後半部分は、関係者へのヒアリングの結果、小保方氏に加え、若山研究室のスタッフが一部を記載したことが判明。実際に記述された方法論と、本来の方法論が異なっており、若山氏からは、小保方氏が全体の手法を良く分かっていなかったにも関わらず、思い込みで書いたことで間違いが生じたのではないかという話を受けたとする。

青い部分が若山研のスタッフが書いた部分

そして(5)の画像の取り違えと、それが小保方氏の学位論文に掲載された画像と酷似する点については、2月20日に行ったプレヒアリングにおいて、小保方氏、笹井氏から一部のデータが異なっていること、具体的には脾臓由来の血液細胞を使った論文を提出しているが、実際は骨髄由来の血液細胞を用いており、この取り違えた理由として、いずれも「hemato(hematopoietic:血液系)」というラベルを用いていたために混乱が生じ、正しい情報に変えたいという回答をもらっていたとする。実際に提出された資料などを調べた結果、この2つの実験はまったく異なる時期に行われていたことが確認されたという。

また、この骨髄の造血系細胞から作製されたSTAP細胞を用いた画像は、小保方氏が早稲田大学における学位論文に記載された画像と、データの比較から同じ実験材料から取得されたデータであると判断された。さらに、Natureの論文では、骨髄の血液細胞を用いているのは間違いなく、かつ酸処理されたものであったが、学位論文ではピペットを通過、つまり機械的ストレスにとって得られた多能性幹細胞(当時はスフィアと呼んでいた)であることが確認された。この結果、修正前の論文データは学位論文作成時に取得されたと考えられるが、実験条件がまったく異なっていることが示されたこととなった。加えて、この図を取り違えているとの報告の際、その図が小保方氏の学位論文に記載されたデータであるとの言及はなかったという。

左のスライドが脾臓の血液系細胞から作製されたSTAP細胞と骨髄の血液系細胞から作製されたSTAP細胞の比較。右が骨髄由来の血液細胞に対し、酸処理を行ったとする画像(上)と、機械的ストレスを与えたとする画像(下)

加えて、石井氏は、1~5の問題がある論文にて、MethodのBisulphite sequencingの記述の一部でも、ほかの論文との同一性が認められたが、この記述の大半は、プライマーの配列と頻繁に行われるPCR実験の記述であり、研究者たちが通常、良く使う提携的な文章であるため、必然的に似たような記述となり、盗用の範疇にはないとの見解を示した。

なお、同氏は最後に、「あくまでもこれは中間報告の結果。調査は継続して行っており、現時点で著者を会見に出して弁明の機会を与えるというのは適切ではないと判断している。調査が終了した時点で、弁明の機会を持たせてもらうことを願っている」とした。