「やきとり」と聞いて思い浮かべるのは、小さくカットした鶏肉をこんがり焼き上げた串だろう。しかしここ埼玉の「東松山のやきとり」では、豚肉のことを指すのだ。豚肉のカシラ肉を炭火でじっくり焼いたもの、これをこのエリアでは「やきとり」と呼んでいるのである。
実は「室蘭やきとり」もまた、やきとりに豚肉を使用している。しかし東松山のやきとりには更に、個性的なピリリと辛味の利いた味噌ダレをつけて食べるのだ。これがこのエリアで言う「やきとり」である。
「東松山のやきとり」は、東武東上線の松山駅を中心とした約100件近い店で食べることができる。そんな「東松山のやきとり」を、地元の編集者からの情報を元に食べ歩きしてみた。
「東松山のやきとり」の代表格店
最初に訪れたのは居酒屋「桂馬」。「東松山焼鳥組合」の組合長を務める店主が1本ずつ備長炭で丁寧に焼いていく、「東松山のやきとり」店の代表格である。カシラを注文すると、出てきたのは頭の部分をネギと挟んで焼いたオーソドックスな串だ。このネギと挟むというのは、「東松山のやきとり」のマスト事項のようである。
食べる時にピリ辛の味噌ダレをつけて食べる。この店の値段は、カシラ、レバー、タン、ハツ、軟骨、つくね、シロそれぞれが120円。炭火の独特の香りが優しくやきとりに移っていて、実に香ばしい。唐辛子と白味噌をブレンドした自慢のタレはまろやかな味わいである。
やきとりと合わせると、ピリ辛の味噌ダレは確かにやや強烈な印象を受けるが、これが口に入れるとまろやかでおいしい。元来は在日韓国人の草案したメニューと言われているが、時代を経て地域になじみ、今では日本人が懐かしさを感じるような優しい味である。
店員さんの話や由来を聞きながら、昭和30年代から地域で愛されてきた「東松山のやきとり」の変わらぬ味を堪能したいのなら、是非「桂馬」をオススメしたい。
●infomation
桂馬
埼玉県東松山市神明町2丁目2-14
ニンニクが利いた味噌ダレをじっくり味わう
「ひとりで静かに飲みたいならば」ということで、オススメしてもらったのが「松川屋」だ。地元のサラリーマンが、仕事帰りに立ち寄って一杯飲んでいくような素朴な店構えである。
やきとりをおまかせでお願いすると、カシラをはじめとして次々に焼いてくれた。こちらも一本120円とのこと。どうやらこの価格帯は、東松山の相場らしい。この店のやきとりは肉がやや小さめ。小ぶりだが、歯ざわりは確かで柔らかい。
ニンニクがやや強めに利いた味噌は、見た目は赤々と強烈だ。しかし、口に入れてみると外見ほど辛くなく、肉とうまく調和してなじむのは前述の「桂馬」に同じ。
ちなみにこの店は、店員との対話やホスピタリティを期待する人には、やや不向きかもしれない。一方であまり干渉されないのが好きな人、コミュニケーションではなく自分のペースで飲みながら、ご当地グルメ「東松山のやきとり」を堪能したい人にはベストな店だろう。
●infomation
松川屋
埼玉県東松山市箭弓町1丁目5-7
やきとり以外のメニューもオススメ
最後に紹介したいのは、冒頭の店「桂馬」のオーナーの娘さんが切り盛りする「やきとり子虎」だ。夜7時を過ぎれば、カウンターも宴会席もほぼ満員の状態に驚く。うわさ通りの盛況ぶりである。
人気の秘訣のひとつに、やきとり以外のメニューの充実度もあるのかもしれない。酒類がバラエティ豊富なだけでなく、生春巻きやグラタンなどもそろえており、その手作り感あふれるおいしさが評判だ。まるで上質な居酒屋といった品ぞろえは圧巻である。
こちらも、カシラ、タン、ハツ、なんこつなど様々にそろえてあるので、お店に尋ねてみよう。「東松山のやきとり」はこちらの店でも120円。カシラは鮮度があり、ジューシーでおいしい。そのまま食べてもいいのだが、味はやや薄めの印象。やはり、味噌ダレは欠かせないので随意につけよう。
炭火でじっくり焼き上げる丁寧さがそのままやきとりの味に反映されており、他の単品メニューとのバランスもうまい。全体的にポイントの高いうまさといっていい。この「やきとり子虎」だが、地元のタクシーの運転手さんも薦めてくるような人気店なので、事前に予約した方が確実だろう。
●infomation
やきとり子虎
埼玉県東松山市箭弓町1-16-7
以上、ざざっと駆け足で紹介した東松山のやきとり店だが、このエリアにはまだまだ他にも名物「東松山のやきとり」を楽しめる店が100店近く存在しているという。是非あなただけのお気に入りの一店を見つけてほしい。