刺身を腹一杯食べたい! という猛烈な欲求が週一で襲ってくる筆者。この感覚が異常でないことを確かめるため友人に相談したところ……、「あの店で海鮮丼食べたら一週間どころか、1カ月間はその欲求が満たされ続けるかもね、フフフ」と返ってきた。

んなにぃ!!!? 友人が教えてくれた「割烹さいとう」という店名を頼りに、電車に飛び乗る。向かう先は東京都台東区入谷だ。この欲求が満たされるのならどこにだっていってやるぅぅ!

画地下鉄日比谷線入谷駅・4番出口から徒歩1分、数種類の幟が目印

「割烹さいとう」店頭。気品漂う和風な店構え、大きな提灯が目を引く。連日ランチ時には20人を超す行列ができる

「気がつけば魚の顔見て50年だよ」

フッーフッーと鼻息荒く入店した筆者をねじり鉢巻がよく似合う豪快そうなオヤジさんが出迎えてくれた。「割烹さいとう」のご主人・齋藤五郎さんだ。まぁそう慌てるなよ、と言わんばかりに熱いほうじ茶を出してくれる。

「俺は15歳のときに山形から出て来て、そこから魚屋50年だ。上京してきたばっかのときは魚の名前なんて一匹も知らなかったのによ。最初は知り合いの魚屋で丁稚してな、金貯めて23歳のときに18万円で移動販売できる車買って魚屋を始めたんだ。その初日、3万円分の魚を仕入れてよ、全部売れたのに手元に残った金は2万5,000円なんだよ。笑っちまったぜ、自分はどういう金勘定したんだって。昔からドンブリ勘定なんだな、今だって採算はとれてないと思うぜ! ハッハッハ!!」。

「男」ではなく「漢(おとこ)」と表記したくなるほど豪快な名物オヤジ、店主・齋藤五郎さん

店内はサインがずらり、舌の肥えた著名人もうならせる料理と味が自慢

やっぱり豪快だよ、このオヤジさん。っていうか魚屋!? そういえば「割烹さいとう」に並列して魚屋らしきものがあったような……。「『割烹さいとう』は20年ぐらい前に作ったんだ。その前はずーっと横で魚屋『斉藤鮮魚』だけをやってたんだわ。この辺りは魚屋が多くてよ、7軒もあったんだぜ。ライバルが多いと燃えるだろ? だからこの場所で営業を始めたんだ。でもよ、今魚屋はうちだけだ、あとは全部潰れた。当時スーパーやコンビニの勢いがすごくてよ。それで俺も、魚屋一本じゃダメだと思って『割烹さいとう』を開いたってわけよ」。

20種をこえる魚貝類がドーンと盛り盛り!!

「おーい! "グダイ"いっちょーー!! 」

オヤジさんの威勢のいいかけ声が店奥にかかる。「割烹さいとう」といえば"具大"、つまり海鮮丼の"具の大盛り"(1,050円)が有名らしく、出てきた海鮮丼を見て思わず息を飲んだ。

「海鮮丼・具の大盛り」(1,050円)。マグロ、ハマチ、スズキ、イクラ、甘エビ、アジたたき、しめ鯖、サーモン、つぶ貝、タコ、本マグロの皮、焼きトロ、中落ち、寿司エビ、ホタテ、毛ガニ、ほっき、コハダ、ブリ、玉子、かまぼこ。以上が豪快に盛られている

旬の味覚は必ず入れるそうだ。この時期は毛ガニ

イクラも気前よくどっさりと、甘エビもご立派

「でかいだろ? 味も抜群だぜ。この値段で提供できる秘けつはよ、やっぱり"人"なんだよな。俺は50年も築地市場に通ってるんだ。そこでできた人のつながりは一朝一夕で作れるもんじゃない。だから例えば他の人間が1,000円で仕入れるところを、俺なら500円なんかで仕入れられる場合もある。もちろんお返しの付き合いも大切だ、長年の信頼関係ってやつだな。あとは経営を長期的に考えること。永く足を運んでもらうには自分のこだわりを持たず、お客さんのリクエストに素直に応えて、自分がされて嬉しいサービスをお客さんにもしてあげるってことだ」。

"誰得"かと尋ねられれば100%"客得"であるその信念、かっこいい。ということで、いざ実食。勢いよくガツッと頬張ると、マグロの旨みとイクラのプチプチ感が口の中で酢飯と混ざり合い、極上のハーモニーを奏でている。いや、ぶっちゃけ"極上のハーモニー"なんて使い古された表現は本来使いたくはないんだが、本当に口の中でハモッているんだから仕方がない。

海鮮丼だが、何とその上に"寿司"ものっている。お得感がハンパない

お新香食べ放題、ご飯もおかわり自由、太っ腹

そしてハマチの程よい脂身もとろける旨さだし、本マグロの皮のコリコリ具合も食欲に拍車をかける。でもって旬の毛ガニはジューシーな身が魅力的。とにかく食べ進めると次から次へと新鮮な食材が顔を出し、海の幸を独占している状態なのだ。

オヤジさん、感動です。マジ旨いっす。つーか、いくら食べてもなくならないっすよ、この海鮮丼。「ハッハッハ! だろ!? 具の隙間からご飯が見えるのは俺のポリシーに反するからよ。裏メニューで『メガ海鮮丼』ってのもあるぜ。食ってくか!? 」。

「割烹さいとう」、海の幸に囲まれて本当に最高だったっす。みんなも入谷でこの満腹感に包まれてくれ!!

(文・A4studio 東賢志)