Microsoftのマーケティング担当エグゼクティブバイスプレジデントのTami Reller氏は2月13日、Windows 8の販売ライセンス数が2億本を突破したと、あるカンファレンスで明らかにした。Windows 8は発売から約15カ月経つが、Windows 7が初年度で2億4,000万本を販売したことを踏まえると、出足はわずかに鈍い。
だが、今春にも登場すると言われているWindows 8.1 Update 1(仮称)のリリースにより、これまでデスクトップベースでWindows OSを利用していたユーザーがアップグレード先として選択する可能性を踏まえれば、今後も本数は増えていきそうだ。
さて、今週はようやく決定したMicrosoft 新CEO(最高経営責任者)のSteve Nadella(サトヤ・ナデラ)氏について……ではなく、Technology Advisorに就任したBill Gates(ビル・ゲイツ)氏に関するレポートをお送りする。
Gates氏がMicrosoftに帰ってきた!
既報のとおり、Microsoftの新CEOとしてSatya Nadella氏が就任した。同氏に関してはYamashita氏のレポートや連載記事が詳しいので、そちらをご覧いただきたいが、筆者もエンジニア出身であるNadella氏がトップの席に着いたことを高く評価したい(図01)。
だが、今回の人事でより興味深いのは、Bill Gates氏がNadella氏からの要請でMicrosoftに残ったことである。同社創業者兼取締役会メンバーとなるGates氏の新しい役職は「Technology Advisor」。和訳すると技術アドバイザーだ。
経緯を簡単にまとめると、Steve Ballmer CEOの時代、Gates氏は会長に就任。Bill & Melinda Gates Foundation(ビル&メリンダ・ゲイツ財団)という慈善団体を立ち上げ、社会貢献活動に注力していたのは有名な話だ。今回のCEO選定において、Ballmer氏をCEOに選んだGates氏も会長職を退くべきだ、との意見が取締役会で上がったという噂もあった。だが、フタを開ければGates氏は確かに会長職を退いたものの、Nadella氏要請のもと、Technology Advisorの席に着いたのである。
ポイントは同氏がTechnology Advisorとしてどのような役割を担うのかという点だ。Gates氏はNadella新CEOを歓迎する動画をYouTubeに投稿し、「Technology Advisorとして日々の3分の1以上を、製品開発グループとの時間に費やす」と語った。さらに電子掲示板のRedditでも、自身の役割を語っている(図02)。
「Microsoftの新しい役割を説明できるか」との質問に、Gates氏は「我々は野心的なシナリオを選択し、強力なアーキテクチャを持っている。そしてクラウドや新たなデバイスが、今後のコミュニケーションやコラボレーションに対して役立つ方法を考えるのが楽しみだ」と回答。ここまではよく耳にする話だ。
さらにGates氏は「OSは単独のデバイスに搭載されるものではない。そして情報もファイルには縛られない。それは、子どもたちの成長記録のように、後から思い出せる"歴史"のような存在になる」という興味深いコメントを残した。
コンピューターの世界で「ファイル」という言葉が使われ始めてから60年以上経ち、それが現在、データ構造を縛る一因となっているのは事実である。Gates氏はこの旧態依然ながらも現行テクノロジーであるファイルや、OSという存在に対して新たなアイディアを持っているのだろう。
ここでGates氏の過去を簡単に振り返ってみよう。同氏はBASICを移植し、広めた。続くMS-DOSも、元はといえばSeattle Computer ProductsがリリースしていたQDOSの権利を購入し、IBM-PCに移植したものだ。そして、WindowsもPARC(パロアルト研究所)のAltoから刺激を受け、自社開発を行った。誤解を恐れずに述べれば、ゼロから産み出したものは皆無なのである。
もっとも、コンピューターの世界において、ゼロ状態から新たなものを産み出すのは、誰しも実現していないのかも知れない。業界の巨人に数えられるSteve Jobs氏も、さまざまな既存物から刺激を受け、Apple IIやMacintosh、iPhoneを世に送り出してきた。もちろんAppleが持つセンスのよさは誰も否定できないが、ゼロから産み出されたものかといえば、答えは「否」である。
それでも筆者は、Gates氏が再びMicrosoftに帰ってきたことに高ぶりを感じている。正しくは現場復帰と言うべきかも知れないが、同氏は自著でOSやインターネットの普及を、グーテンベルクの活版印刷になぞらえており、コンピューターテクノロジーを俯瞰的に見ることができる人物だからだ。
もちろん、Microsoftの新CEOはNadella氏であり、同社の方向性を決定するのはNadellaや新会長となるJohn Thompson、そして取締役会メンバーたちである(図03)。
エンジニア出身のNadella氏とGates氏の相性がよいのは言うまでもない。さらにMicrosoftの中にいながらも、少しの距離を置くことで、新たな視点を同社製品に持ち込めるはずだ。ちょうど初期のMicrosoftが、他社からさまざまな刺激を受けてきたように、Gates氏のTechnology Advisor就任による化学反応を期待したい。
阿久津良和(Cactus)