女優・水川あさみが主演を務める映画『バイロケーション』が、1月18日に公開を迎えた。原作は、若手ホラー作家・法条遙のデビュー小説で、突如発生する"もう一人の自分(バイロケーション)"に遭遇し、極限状態の中でバイロケに命を狙われるというサスペンスホラー作品。その結末には「表」と「裏」の2バージョンが用意され、「裏」バージョンが2月1日から公開をスタートする。

出世を約束されたキャリア警察官だったが、バイロケのせいで左遷処分を受けた刑事・加納隆を演じたのが、TBS系ドラマ『半沢直樹』の近藤役で一躍脚光を浴びた滝藤賢一。劇中では最も凶暴なバイロケで、本人も「挑戦しがいがあった」と認めるほど。これまで、数々の"狂気"を演じてきた滝藤。今回のインタビューでは、映画の話にはじまり、職業観、そして今の彼に付きまとう「半沢直樹の近藤」というイメージについても言及した。

滝藤賢一
1976年11月2日生まれ。愛知県出身。1998年から仲代達矢の無名塾に在籍し、舞台を中心に活動。『クライマーズ・ハイ』(2008年)の演技で注目を浴び、『外事警察』(NHK・2009年)、大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)など大型作品の出演が続く。2013年は『半沢直樹』(TBS)をはじめ、連続テレビ小説『あまちゃん』、映画では『許されざる者』に出演。2014年は『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』などの公開を控えている。
撮影:大塚素久(SYASYA)

――最初に脚本を読んだ時、どのような印象を受けましたか。

凶暴な役が好きなので…ちなみに僕は凶暴な人間じゃないですよ(笑)? 僕自身はとても穏やかな男なんですけど、そういうのを演じるのが好きというか、追求していくのが好きなんですよね。外国の映画もそういうのに惹かれます。この作品では強烈なインパクトを残せますし、作品の中で死ぬのも好きです(笑)。穏やかな役もやりたいですけど、こういう犯人役みたいなオファーをいただくことが多いので。

――それは何かの役がきっかけになったのでしょうか。

分からないです。なんで、犯人役ばっかりくるんですかね(笑)? 不幸な役をたくさんいただくのですが…僕自身はとても幸せなんですよ。3人の子どもがいて、とてもいいパパですし(笑)。なぜか、幸が薄い顔だとよく言われます。

――ある時期から突然ですか。

最初は『クライマーズ・ハイ』(2008年)じゃないですか。同じ頃の『象の背中』(2007年)では、末期ガンの患者の役をやって、『ブラッディ・マンデイ』(TBS系 2008年)は犯人役。割とその頃から、不幸な追い詰められた役が多いですよね。

――今回の加納隆という役は、どのように追求していったのでしょうか。

どうやったら、見た人がゾッとするかという表情を作る練習はしましたね。台本に"ひきつって笑う"というようなト書きがかなり書かれていたと思うんですけど、その"ひきつって笑う"というのもどういう"笑み"なのか分からないじゃないですか。衣装合わせの時に監督に聞いたら、「あざとくなければいい」という回答でした。それを聞いて、めちゃくちゃあざとくやってやろうと(笑)。それでダメだったらいいやと思って、上司をトイレで蹴りまくるシーンで試してみたんですけどOKだったんです。

――あのシーンは強烈ですね。

あれね、本当に蹴ってるんです(笑)。相手はアクションの方で、自分でも蹴った時、人の体の肉々しさが伝わってきました。最初、防具を仕込む予定でいたんですが、「画面で分かってしまうから外してください」と、本番直前に指示が出て。そして、一発で決めてほしいと。手加減したり気を使ったり2回、3回とやるほうがきついと言われて…思いっきりやりましたね。ハハハハハハッ!

――そうすんなりと全力でできるものなのですか。

さすがに僕も躊躇しますよ!でも、そういう空気だからやるしかない。無事に一発OKでしたね。あれは、マジ蹴りです。ハハハハハハッ!

――追求しがいがある役だったわけですね。

そうですね。常に思うんですが、こういう役はいろいろな方法論があると思うんですよ。どんどんイメージを膨らませて、誰もまねできないような凶暴な役を目指して毎回試行錯誤しています。バイロケは葛藤のない凶暴さ。葛藤の中から生まれたものではあるんですけど、バイロケ自体に葛藤はありません。ただの悪。そういう意味では、挑戦しがいがありました。