ビジネスクラスでのキャビンサービス訓練の様子。お手拭きは客が手に取りやすい角度で、片手で差し出す

CAは通常、訓練を経て乗務環境や内容が変わってくる。JALの場合は、新人訓練の後に国内線で乗務し、1年後に国際線移行訓練を受ける。その2年後にあるファーストクラス訓練を経て、全ての業務をこなせるCAになる。特に国際線には国内線にないサービスが多々あるため、国際線移行訓練はあらゆる訓練の中でも、ひとつの“関門”になるそうだ。そこで今回、国際線移行訓練現場を取材し、「体験」もしてみた。

茶の心がおもてなしに通じる!?

新人訓練で茶道の精神の基本を知り、ファーストクラス訓練で本格的に学ぶ

JALのCAはまず、新人訓練として新入社員研修を2日間、国内線専門訓練を34日間、OJT実機訓練を2週間受ける。その1年後の国際線移行訓練は20日間、またその2年後にあるファーストクラス訓練では、4日間という育成キャリアが定められている。つまり、全ての業務ができるようになるには4年かかることになる。

特にJALでは「心の教育」に力を入れており、目指すおもてなしのベースは「茶道の精神」にもあるという。茶道の心得を示す標語「和敬清寂」や「利休7則」を、実際の乗務現場と照らし合わせることで、CAのサービス向上を図っている。

「利休7則」を例にすると、「夏は涼しく、冬は暖かに」であれば、季節を感じられるミールサービスや機内アナウンスなどが挙げられる。また、ボーイング787のような日本の四季に合わせた色彩でのお出迎えもそのひとつだ。ファーストクラス訓練では、この「茶道の精神」に立ち返るカリキュラムが用意されている。

キャビンとギャレーで異なるポイント

今回取材した国際線移行訓練では、主に3つの訓練を行う。その前に、そもそも国内線と国際線では、どのように業務が変わってくるのかを考えてみよう。大きな違いはミールサービスであるが、そのほかにも、外国人への対応、税関や出入国管理などのCIQサポート、免税品の機内販売などがある。そこで、20日間に及ぶ訓練の半分は座学に、残りはミールサービスと英語の教育に割り当てられている。

ミールサービス訓練は、新ビジネスクラスシート「スカイスイート」のモックアップを用いて実施する。この日、訓練を受けていたCAの訓練生は全員で24名。訓練生は12名の2グループに分かれ、1グループに対して3名のインストラクターが指導に当たっていた。

JALは新ビジネスクラスシート「スカイスイート」のモックアップを、28席×2カ所設置している

12名の内、2名はギャレーを、4名はキャビンを担当し、残りの6名は乗客役になる。キャビンでは乗客への声かけのみならず、お手拭きの出し方やカトラリーの並べ方ひとつをとっても、細かいチェックポイントがあるようだが、インストラクターはその都度声をかけることはしない。まずは実際にさせ、その後に「問題はなかっただろうか」を考えさせる時間を与えていた。また、「この料理に合うワインは何ですか?」と質問する乗客に対して的確に答えられるよう、料理に対する知識も必要になってくる。

サービス説明のみならず、コミュニケーションも欠かせない

訓練生はメモを取りながら、ポイントを体得していく

筆者も乗客として訓練に参加。左が訓練生のもので、その後にインストラクターが指摘したのが右。中心となるスイーツとカトラリーの位置、コーヒークリームの向きが違っていたようだ

そのキャビン以上に混雑するのがギャレーだ。キャビンでスムーズにサービスができるよう、ギャレーでは状況を判断して先に先に準備をしなければならない。また、ミールの中には、健康面や宗教に配慮したスペシャルミールもある。キープしておいたミールが分からなくなったり、新旧のミールカートが混ざったりしないよう注意が必要となる。訓練では2名体制で当たっていたが、実際の機内では1名が担当している。

ギャレーでは的確でスムーズな作業が求められる。また、キャビンとギャレーがどう連動しているか、キャビンから分かるよう映像が設置されている

おもてなしはCAたちのチームプレーから

ミールサービス訓練の最後には、訓練生とインストラクターが訓練を振り返ってブリーフィングを行う。この時、国際線移行訓練のまだ3分の1の段階だったこともあり、訓練中にはミスがいくつか見受けられたよう。キャビンでは、乗客にあやふやな知識で対応しないことや、乗客をスキップしていないかなどの指摘があり、ギャレーでは残りのミールの確認とともに、カートを置く位置など安全面への徹底が求められていた。

ブリーフィングの様子。ギャレーとキャビンの情報を共有し、インストラクターは各問題点の確認とその改善を訓練生に促す

今回の訓練生のひとりだった澤津菜月さんは、2012年入社でニューヨーク線乗務を希望している。その澤津さんが訓練の中で難しいと思ったことは、メニューの説明だったという。「細かい説明を求められた時、自信を持って答えることができませんでした。また、座学を通じて覚えたことは頭に入っているものの、どのような言葉でお客様にお伝えすればいいのか悩むこともありました。こうしたことは経験を通じて、一つひとつ学んでいきたいと思います」と答えてくれた。

2012年入社の澤津菜月さん。訓練を通じて、知識を伝える難しさを実感したよう

ギャレーにはキャビンチャートを貼り、乗客の状況などの情報を共有している

限られた時間とスペースで最高のおもてなしをするために、CAたちはこうした訓練を通じて知識や技術の向上を図っている。そしてもうひとつ、この訓練の取材を通じて感じたことは、CAたちの「チームプレー」だった。

通常機内では、ギャレー担当はギャレーから出てキャビンサービスをすることはない。そのため、私たちはギャレー担当のCAをサービス中に見ることはないが、機内で受けるサービスの一つひとつが、こうしたCAたちのチームプレーからなっていると思うと、サービスを受けるのがちょっと楽しくなってこないだろうか。