「赤ちゃんポスト」を設置する慈恵病院からの放送中止要請、全国児童養護施設協議会と全国里親会からの改善要求、スポンサーCM自粛、ついに放送倫理・番組向上機構(BPO)が審議へ……。『明日、ママがいない』をめぐる騒動は悪化する一方だ。

ネットでも賛否両論というより、"否"の声が圧倒的に多い。当初はホメたたえるタレントの声も多かったが、今ではほとんど聞かれなくなった。所属事務所が止めているのだろう。 しかし、「いったい何が問題なのか? 過去の問題作とどう違うのか?」、そして「そもそもなぜこのようなドラマが生まれたのか?」第2回放送を経てなお反響が増している同ドラマを改めて考えてみる。

何が問題? 過去の問題作とどう違う?

『明日、ママがいない』で主演を務めている芦田愛菜

ここでは「ドラマ設定やセリフが人権侵害にあたるか?」は論じず、あくまでドラマ評論家として、ドラマ制作の観点から書いていく。

まず問題が大きくなってしまった最大の理由は、「グループホームを舞台にしたドラマを作った」ことではなく、「視聴率のためにインパクト重視の脚本・演出をしている」こと。関係者たちは、そのあざとさを感じてしまうから、「良い部分に目が向かない」「ドラマと分かっていても見て見ぬフリができない」のではないか。

では、子どもが多数出演する過去の問題作はどうだったのか?

21世紀以降を振り返ってみると……『女王の教室』は鬼のような女教師の悪行を描き、『14歳の母』は中学生の妊娠・出産を描き、『ライフ』はひたすら壮絶なイジメを描いた。 いずれも『明日、ママがいない』同様に"否"の声が多く、悪影響を恐れたPTAに問題視され、BPOにも抗議の声が殺到するなど混乱したが、ここまでの騒動にはならなかった。多少なりとも教育現場での影響や実害はあっただろうが、慈恵病院のような特定施設や子ども個人がそのまま当てはまることがなかったからではないか。フィクションとはいえ、モデルが限定されるほど関係者は穏やかでいられなくなり、この点では配慮不足と言われても仕方がない。

「21世紀で最も泣ける」とうたっている以上、終盤に向けて怒とうの感動ラッシュが訪れるのは間違いないだろう。しかし、これは「1日で全てを見せる」映画や2時間ドラマではなく、「1クール3カ月間」の連続ドラマ。当事者たちは、感動の終盤まで2カ月以上も待てるはずがなく、序盤の過激な描写に耐えられない。ネットの発達で1話ごとにさまざまな声が飛び交う中、「連続ドラマだからこそ、救いとなる部分が以前よりも求められる」時代になっているのだ。『Woman』で見せたバランス感覚が、今作からは感じられない。

また、1990年代に『高校教師』『人間・失格』『聖者の行進』など数々の問題作を手掛けた野島伸司に脚本監修を依頼したのも悪い方に出た。「ピュアな人間ドラマも書ける」のに、「あざといドラマを書いてきた」ことを大人の視聴者たちは忘れていない。

なぜこのドラマが生まれた?

芦田愛菜とともに注目を集めている子役の鈴木梨央

まず制作している日本テレビの事情から。水曜22時は、同局の看板ドラマ枠。主に女性をターゲットにしたヒューマン作品が多く、『ラストプレゼント』『14歳の母』『アイシテル~海容~』『家政婦のミタ』など多くの話題作が生まれてきた。 そして、『Mother』『Woman』での好演が光った芦田愛菜と鈴木梨央の「子役ツートップを初共演させるなら今」という発想が生まれる(所属事務所も同じなだけに実現しやすい)。さらに、複数の子役を出演させられるテーマと、今までにない芦田愛菜の魅力を引き出せる役を考えたとき、このドラマに行き着いたのではないだろうか。企画会議の段階であればよくある話だが、コンプライアンスが叫ばれる昨今、ほとんどがつぶされて実現しないだけに、今回だけリスキーな設定が採用された理由はよく分からない。さらに、「綿密な取材」「関係者への根回し」「世論の誘導」が必要なヒューマン作品に若手のプロデューサーと脚本家を起用したことも、不安定要素につながったのではないか。

また、日本テレビは「『家なき子』以来の素晴らしいものを作る」と宣言していたようだが、これはミスジャッジかもしれない。昨年フジテレビが『ショムニ』や『ビーチボーイズ』をモチーフにした『SUMMER NUDE』のような90年代ドラマのリバイバルで失敗している。

『家なき子』の初回放送は1994年。20年も前のドラマを引き合いに出し、"人の本性を見抜く大人びた小学生"という主人公のキャラを重ねたところに、やはり「企画書ありきの見切り発車だったのではないか?」という疑いが浮かんでしまうのだ。

次に、ドラマ業界の事情。ここ1年間で顕著なのが、各局の"初回(序盤)至上主義"。「終わってみたら、初回(序盤)の視聴率が一番高かった」という作品ばかりで、数字はどれも右肩下がり……。だからこそ今作の初回も、深夜の再放送に加え、ネットで無料放送していた。つまり今のドラマは、「初回(序盤)が全てなので、インパクトのある脚本・演出にせざるを得ない」状況にあるのだ。

さらに、"キャッチーなセリフで口コミ狙い"も目につく。昨年、「倍返しだ」「じぇじぇじぇ」「私、失敗しないので」などのセリフが流行ったが、今作も「親からもらったものは全部捨てたんだ」「お前たちはペットだ」など口コミ狙いのエキセントリックなセリフが多く、それが裏目に出てしまった。

今後ドラマはどうなる?

よほどの事件がない限り、「"ポスト"というあだ名をやめる」「ペット扱いをやめる」など内容の調整はあっても、放送中止はないと見ている。中止ともなれば、今度は芦田愛菜ら子役たちが深く傷ついてしまうからだ。

今後の内容で1つハッキリしているのは、「芦田を主演にした以上、(ドラマ内で)時間の経過ができない」こと。大人の演技はできても、見た目はせいぜい2~3歳しか年を取ることができない。そのわずかな年月の中に、仲間との絆、実母や里親とのやり取りなど、「感動のシーンをどれだけ詰め込んでいけるのか」が勝負となる。

芦田は舌足らずのセリフ回し以外、もはや子役の粋を超えている。表情の強弱は「大人っぽい」というより、昼ドラでも主演を張れる「大人女優そのもの」だ。そんな芦田の幅広い演技力を生かしてか、ドラマは言われているほどシリアス一辺倒になっていない。 子役たちは思った以上に笑うし、ボケもかましまくる。むしろ、大人たちの暗すぎる演技が不自然で、全体を見ても明るいシーンの方が多いくらいだ。数々の抗議を受けた今後は、さらにこのテイストが高まっていくだろう。

過半数が刑事・医療ドラマに偏るなど、どの局も"守りに入った"作品が多い中、問題点はあれど、その"攻める"姿勢まで非難されるとしたら残念な限り。「子どもの目線から大人を見たドラマ」というコンセプトをより鮮明にすることで、このピンチも乗り切れるかもしれない。『家なき子』をモチーフにしたあざとい脚本・演出に走らないことを願いながら、見続けていこうと思う。

木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。