先日最終回を迎えた『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~』が平均視聴率12.8%に終わり、木村拓哉の主演ドラマとしては、初めて同15%を下回った。一方、同じ枠で夏に放送された『半沢直樹』で同28.7%を叩き出した堺雅人が、今期も『リーガルハイ』で同18.4%をマークしたことで、「"視聴率男"の座は木村から堺へ!」という論調になっている。
本当に"キムタク時代"は終わってしまったのか? マイナビ会員(男女500人の計1000人)に実施した「木村拓哉出演の好きな連続ドラマ」に関するアンケートを参考に、3つのポイントから"視聴率男"キムタク復権へのシナリオを探っていく。
ポイント1 「完璧」ではない「等身大」のカッコよさ
アンケートの1位は『HERO』、2位は『ロングバケーション』でダントツのワンツーフィニッシュだった。キムタクは、『HERO』で「中卒で通販オタクの検事 、『ロングバケーション』で「落ちこぼれのピアニスト」と、「ダメなところがある愛すべきヒーロー」を演じている。
つまり、世間がキムタクに期待しているのは、「完璧な男」や「スーパーマン」ではなく、「どこにでもいそうな(だけどいない)」等身大のカッコよさかもしれない。 そういえば、アンケート4位の『ビューティフルライフ』も、「腕はあるが人気のない美容師」だった。最近は、総理大臣、ホームレス、剛腕社長、アンドロイドなどの奇抜なキャラ設定が目につくだけに、次作は“普通のアラフォー男”を演じるキムタクが見たい。
いくら今年人気があったからといって、『ドクターX』の大門未知子、『リーガルハイ』の古美門研介、『ガリレオ』の湯川学のような“アクの強いキャラ”を用意しない方がいいのではないか。
ポイント2 「助演」がむしろ映える
今や主演作品ばかりになったが、ファンやドラマ通の間では、「キムタクは助演作品の演技がいい」というのが共通認識。例えば、アンケート5位の『あすなろ白書』では、ヒロインを一途に思い続ける大学生・取手治を熱演し、後ろからハグする“あすなろ抱き”を流行らせた。
さらに、田村正和、宮沢りえとの三角関係を描いた『協奏曲』、中山美穂とのダブル主演で実質2番手だった『眠れる森』、友人のために働き続ける青年を好演した『若者のすべて』など“助演としてのキムタク”は、“主演以上に魅せる俳優”なのかもしれない。 ここまで大物になったキムタクだけにハードルは高そうだが、「大御所主演の2番手」「大物女優とのダブル主演」なら実現できるかも……ジャニーズ事務所のマネジメントに望む。
ポイント3 実は"チームもの"が十八番
『HERO』は検事チーム、『GOOD LUCK!!』は航空会社チーム、『華麗なる一族』は製鋼会社チーム、『プライド』はアイスホッケーチーム、『PRICELESS』は魔法瓶チーム、『南極大陸』は越冬隊など、さまざまなチームの一員として活躍。キムタク単独で輝くよりも、同志やライバルなどの多くの俳優と絡むことで、より輝きが増すタイプの俳優ではないか。
その点『安堂ロイド』は、アンドロイド同士の絡みが淡泊で、キムタクに2役を演じさせるなどフィーチャーしすぎたことが裏目に出たような感がある。 キムタクは演技だけでなく、歌、踊り、お笑いなど、「全てにおいて誰よりも努力家」として知られ、共演者との化学反応が大きいという。“チームもの”の定番である刑事ドラマや医療ドラマなら、実力派俳優たちと多数共演できるが……満を持しての初挑戦はあるか。
■「木村拓哉出演の好きなドラマ」ランキング(男女1,000人 複数回答可)
1位「HERO」(2001年フジテレビ系)…256票
2位「ロングバケーション」(1996年フジテレビ系)…192票
3位「GOOD LUCK!!」(2003年TBS系)…107票
4位「ビューティフルライフ」(2000年TBS系)…94票
5位「あすなろ白書」(1993年フジテレビ系)…80票
6位「華麗なる一族」(2007年TBS系)…70票
7位「ラブジェネレーション」(1997年フジテレビ系)…54票
8位「MR.BRAIN」(2009年TBS系)…48票
8位「安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~」(2013年TBS系)…48票
10位「プライド」(2004年フジテレビ系)…43票
11位「眠れる森」(1998年フジテレビ系)…42票
12位「PRICELESS~あるわけねぇだろ、んなもん!~」(2012年フジテレビ系)…38票
13位「南極大陸」(2011年TBS系)…34票
14位「若者のすべて」(1994年フジテレビ系)…32票
14位「CHANGE」(2008年フジテレビ系)…32票
16位「ギフト」(1997年フジテレビ系)…20票
17位「空から降る一億の星」(2002年フジテレビ系)…17票
17位「月の恋人~Moon Lovers~」(2010年フジテレビ系)…17票
19位「エンジン」(2005年フジテレビ系)…16票
20位「その時、ハートは盗まれた」(1992年フジテレビ系)…14票
21位「フードファイト」(2000年日本テレビ系)…11票
22位「人生は上々だ」(1995年TBS系)…10票
23位「あぶない少年III」(1989年テレビ東京系)…7票
24位「好きなのに…」(1991年テレビ東京系)…3票
25位「協奏曲」(1996年TBS系)…2票
キムタクと言えば、特殊な職業の役が定番だが、そろそろ原点に戻って「等身大の男」「助演かダブル主演」「チームもの」の演技が見たい。ドラマ界のど真ん中を歩き続けて41歳になったキムタクに対して、「ただカッコイイだけ」の役は、何とももったいない。特に90年代に見せた「悩み、苦しみ、影のある」演技が戻ってくれば、数字も評価もついてくるのではないか。
ちなみに、私が最も好きなキムタク作品は、『眠れる森』。「悪役になりすましてヒロインを陰ながら守る 姿が印象的であり、ミステリーとしても高品質だった。その唯一無二の存在感は、1話完結形式のドラマではなく、「続きが気になる“連続ドラマ”でこそ輝く」と思っている。
木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。