日本総合研究所はこのほど、同社調査部チーフエコノミストの山田久氏によるレポート「アベノミクス1年の評価と2年目の課題 ~成長戦略の深化と財政再建への中長期フレームの明示を~」を発表した。
アベノミクス1年目については、閉塞感が打破され、前向きの動きを引き出したとして、高く評価している。しかし、現時点では基本的に一時的な需要創出やマインド改善に働きかける金融政策と財政政策に頼り、「実体経済における自律回復メカニズムや着実な作動という、最も重要な変化にはなお不確かさが残る」と分析。第3の矢である成長戦略については、「十分な成果が上がっているとは言い難い」としている。
大胆な金融政策や積極的な財政スタンスについては、大きな副作用を伴う「もろ刃の剣」であると指摘。景気回復により物価の押し上げが達成されれば、金利は上昇する。いったん金利が上がり始めれば、巨額の公的債務の下で利払いが利払いを生み、財政危機が顕在化する恐れがあると懸念している。
アベノミクス2年目の課題としては、まず成長戦略に注力すること、併せて中長期的なパースペクティブの下で財政健全化に着手すること、の2点を挙げている。また、実効性ある成長戦略にとって、「需要増→生産増→所得増→需要増→…」とつながる経済の好循環を作り上げることがより重要であるとし、このような好循環のストーリーを組み立て、その中に規制改革を位置づけるよう提言している。
政労使協議を開催したことについては、「画期的である」と評価。だが、持続的な賃上げを可能とする環境整備といった、本来の目的は実現されていない。同レポートでは政府に対し、経営者、労働組合双方の意識改革・行動改革を促す「場の設定」と、それを可能にする「環境整備」を行い、その認識の下で2年目の政労使協議を仕切り直しするよう求めている。
2014年度の予算案および税制改正案については、「対症療法的な印象をぬぐえない」と批判。2014年度中に、中長期的な視点に立った歳出・歳入の構造改革の基本フレームを明示し、早期に着手することが重要と訴えている。
具体的には、2013年度の「骨太方針」に盛り込まれた「2020年度までのPB(プライマリーバランス)黒字化、その後の債務残高の対GDPの安定的な引き下げ」との目標について、「現実的な名目成長率を前提にした具体的な数値目標」を明記するよう要望。その上で、目標を達成するための歳出削減・増税・自然増収の割合を示し、歳出削減については主要分野ごとの割り振りを決定するよう求めている。さらにこれらの作業を、2014年秋までに行うことが必要としている。