読書の秋も深まってきましたね……って、もう冬ですって!? ああ、なんて時間の流れの早いことよ! それはともかく、冬は秋以上に読書に向いた季節だと思うのです。しんしんと降る雪に音が吸い込まれ、聞こえてくる音といえば時計の針の音か、お湯が湧いたことを告げるポットの音だけ――。
とまぁ、それは妄想ですけど、でも外出には寒すぎる冬こそ、家の中でゆっくり読書を楽しむべき季節であることは間違いありません。そして、やっぱり読むなら電子書籍でしょう! 外に行かなくても好きなときに好きなだけ読めるのは、電子書籍ならではの特権です。
てなわけで、今回は電子書籍のレンタルサイト「Renta!」より、冬の夜に家でゆっくり読みたい珠玉のBL作品を紹介しますよ!
千
タイトルは「千」。ただ一文字。なんてシンプル! タイトルだけだと内容が一切想像できないかと思いますが、岡田屋鉄蔵先生が渾身の力を込めて描く傑作時代劇です。と同時に怪奇物でもあります。その両方が好きな人には間違いなくオススメできる作品なのです。
物語の舞台となるのは、戦乱が終わり、太平の世を迎えたばかりの江戸時代。願いを叶える代償に、その者の魂を喰う謎の座頭・千載が、奇妙な縁で出会った剣豪・草薙と共に人々の命をかけた願いと向き合っていく物語です。一つ一つの話は独立していて、それほど長いものではありません。
ジャンルとしては一応BLなので、もちろん男性同士の絡みのシーンもあるのですが、しかしこれはBLに興味が無い人にもぜひ読んでもらいたい作品です。とにかく、ストーリーがとても面白い!
主人公の千載はただの人間ではありません。彼は人の願いを叶える代わりにその人の魂を喰らい、喰われた人間は死んでしまいます。願いが叶う代償として死ぬ――この壮絶さが物語を奥深いものにしています。
一つ一つのエピソードも実によく練られています。特に登場人物の心情の描き方がとてもうまい。何しろ出てくるキャラは「命を捨てても叶えたい願い」を持っているわけで、ここに読者が共感できないと話が成り立ちません。その点、本作はそうした人々の"思い"の背景や心理描写が丁寧に描かれており、彼らがなぜその願いを叶えたいのかがしっかりと読み手に伝わってくるのです。岡田屋鉄蔵という漫画家の筆力のなせるわざといえるでしょう。
また、千載と草薙のコンビのバランスがとても良いのもポイント。その正体が一切謎に包まれた不死身の座頭・千載と、名の知られた剣豪でありながら浪人に身をやつしている草薙。まさに"柔と剛"という印象の二人は、BL的な目線で見てもグッときます。
これを読まないのは本当にもったいない!
野ばら
最近だと非BLの『昭和元禄落語心中』でおなじみ雲田はるこ先生の傑作短編集。巻末コメントによれば、雲田先生にとって2冊目の単行本とのこと。いやはや……天才はやはり最初から天才なんだなということを思い知らされる一冊です。
表題作の「野ばら」は、洋食屋のシェフである武と、同じお店で働く神田さんの恋と日常を描いた作品。ゲイでありながら娘を持つ神田さんと、ゲイではなかったはずがだんだん神田さんに惹かれていく武という二人の男性の心理を絶妙に描いていきます。
こういう日常系の作品って簡単なようでいて、一番難しい題材だと思います。大事件が起こるわけじゃないから、派手な展開でごまかすわけにはいかない。それだけに、登場人物の行動や気持ちの流れに少しでもウソっぽいところがあれば、読者はすぐに気づいて冷めてしまいます。最初から最後まで共感して読める本作は、その点でも完璧です。
また、表題作以外の短編もどれも面白い! トランスジェンダーの恋と悩みを扱った「みみクン」シリーズや、海外を舞台にしたロードムービー的作品「Lullaby of Birdland(鳥の国のララバイ)」など内容が多種多様で、常に新鮮な気持ちでページをめくることができますよ。
キスアリキ。
大御所、新田祐克先生によるヤクザBL。ヤクザものはBLの中でも定番のジャンルですが、いやーさすがは新田先生、絵もうまいし、予想できない展開が次々とやってくるしで、本当に面白いです。BL的には組長の息子である透と、幹部の息子である六実という組み合わせがメインなのですが、特に透のキャラクターが魅力的! 男気あふれる性格と女性的な美貌という組み合わせがたまりません。個人的には透の色っぽい腰つきに注目して読んでほしいですね!
ストーリーも初回から印象的で惹きこまれます。組内部の抗争から身を隠せと命令され、六実と二人だけで無人島の別荘に住むことになった透。次第に関係を深めていく二人ですが、やがて予想外の事実が発覚していくことになります。ヤクザものという設定をうまく絡めて二転三転していくストーリーは必見ですよ。
また、ラストに収録されている短編「W劇場」は、ゲーム会社に勤務する気弱で人見知りな新垣の恋を描くBL作品。オンラインゲームと現実を絡めたストーリーはわりとありがちではありますが、実力派が描くとここまで面白いものになるんだということを実感できる傑作です。