Photoshopはこれからどのように進化するか?
Photoshopをよく知る伝道師に「Photoshopがこれからどんなふうに進化していくと思うか」と単刀直入に質問したところ、「これは私もよく受ける質問なのですが、もしそれを完全に予測できたら、私は億万長者になれるかもしれませんね」と、冗談めかして答えたかと思いきや、続けて「ひとつだけ、私が言えることがあるとすれば、「Adobeはいつもエキサイティングな未来に向かって挑戦を続けている」ということです」と真剣なまなざしで語り、「昔は新機能が開発されると、パッケージのソフトのリリースのタイミングを待ってから、まとめてお届けしていました。今はそれを待たなくてもすぐに新機能をお届け出来るようになりました。年間を通じてエキサイティングな新機能を、出したい時にリリースできるようになったと思います」と、その長所を語った。
Creative Cloudが持つ強み
Creative Cloudの導入により、Photoshopの料金が月々払いになったことに、今でも抵抗感のある方はいらっしゃるかと思う。しかし私は、代わりに大きな武器を手にしたと思っている。開発者にとって、素早く新機能を出すことも、トライした新機能がイマイチだったら撤退することさえも、以前よりはるかに行いやすいと思うからだ。予想の立たない激動の時代には、長い熟考の末に重たい一歩を踏み出すよりも、軽い一歩でPDCAサイクルを素早く回していくほうがリスクが少ない。まさにラッセル氏のおっしゃるメリットは、時間とともに次第に大きな効果となって現れていく可能性があると思う。
おそらく色々なジャンルの要望を吸い上げながら、Photoshopの変化のスピードは上がっていくのではないかと思う。そして、アドビ システムズ自身が定期契約者数の増減を意識して新機能のリリースを行う、といった展開になっていくのではないだろうか。そして、ユーザーがインターネットによって可視化されるようになった現代では、一部の専門家の目指す方向ではなく、「ユーザーの声」や「世の中」が導く方向に進化していく傾向が強まっていくのではないだろうか。そういった意味では、私の予想も当たるかどうかは全く未知数だ。世界は進取の気概に満ちた人だけで構成されている訳ではないので「基本機能が変わらずしっかりしていてくれればいい」「ひたすらオート化してくれるのが最高」というのが「ユーザーの声」だった、という未来だってあるかもしれない。
ちなみに、ラッセル氏に「もし、一般ユーザーの方が「こんな機能を実装してほしい」という要望をお持ちの場合、何とかしてその夢を叶える方法はありますか?」という少々無謀な質問をぶつけてみたところ、「(エンジニア、マーケッターを含め)Photoshopチームがまず見ているのは「Adobe Community」です。もちろん、叶えられる要望、叶えられない要望は出てくると思うのですが、「Adobe Community」に集まっているユーザーさんの要望などが、Photoshopチームの目にとまる可能性はあると思います」という答えが返ってきた。開発者の目につきやすい、という意味では英語版の「Adobe Community」という意味になると思われる。少々ハードルは高いが、アイディア次第でユーザーの声がPhotoshopチームに届きやすくなっていく可能性は大いにあり得るだろう。
アイディアにあふれたクリエイションの秘訣
続いて、技術への造詣が深く、ユーモアとアイディアにあふれたプレゼンテーションを生み出すクリエイターとしてのラッセル氏に、アイディアにあふれたクリエイションの秘訣の話を伺った。同氏いわく、クリエイティブの秘訣は、「まず、私のプレゼンテーションを御覧頂いて、モチベーションを上げること」、そして「心の中を常に若く保つこと」だという。ラッセル氏は、「遊び心を大事にしながら、子供の頃のようなやり方で、時にルールを破ってみる。自分の仕事に、楽しみを持ち込むこと。それが一番いい方法だと思います」と語ってくれた。
そして最後に、Photoshopを誕生から見守ってきたラッセル氏が「Photoshopを操作していて一番楽しい瞬間」として挙げたのは、「最初は退屈だった画像が、素晴らしい画像にチェンジする瞬間」だという。「自分でもビックリして「これはみんなに見せなきゃ!」って思う経験が、きっとあると思います。私はそれを、「フェイスブック・モーメント(瞬間)」と呼んでいます(笑)。幸せな瞬間です」と、笑顔で語ってくれた。
ラッセル氏と実際に対面してみた印象は、「思いやりのある、穏やかな雰囲気にあふれるジェントルマン」といったものであった。ステージ上の派手なコスチュームやビデオでの快活な語り口とはまた違った魅力のある、ラッセル氏の別の一面を見た気がした。そんなラッセル氏が「子供の頃のようなやり方で、時にルールを破ってみる」ことこそが、「フェイスブック・モーメント」が生まれる秘訣なのではないかと感じた。
御園生大地
フォトグラファー・レタッチャー・3DCGクリエイター。1974年東京生まれ。東京ビジュアルアーツ卒業。撮影会社に12年間在籍後、2013年からフリーランスとして活動。