グローバルリーダーを育成するためのアルーのプログラム「次世代グローバルリーダー育成-Asia Future Leaders Summit-(AFLS)」。このプログラムが生まれたきっかけは、落合氏自らの個人的体験からでした。また、落合氏が考える「グローバル人材に必要な条件」、そして「グローバルリーダーを目指したい人へのメッセージ」とはなんなのか伺ってみました。
参加者になんらかの"原体験"を与えるのがAFLSの目的
──2009年にアルーとして最初に海外進出を果たしたのが中国でした。市場を展開する中で、アジア、そして中国を選ばれた理由はあったのでしょうか?
単純に日本からの物理的距離や文化圏が近いということもあり、まずはアジアをターゲットにしました。また、中国はどんどん発展を遂げている国であり、おそらく今後は人の"量"から"質"へとニーズが変化するのではと。その中で、人材育成の市場としても需要があるはず……と判断しました。実は、もう一つの理由も大きいのですが。
自分が最初に経験した研修での衝撃。AFLSではそれを再現し、参加者に体験してほしいという思いでプログラムが作られた |
──もう一つの理由、といいますと?
実は、僕自身の個人的な経験が大きいんです。前職が外資系のコンサルティング会社だったのですが、新卒で入社後、そこの新人研修がバンコクで行われました。新卒の人間もいれば中途採用の人間もいて、国籍も年齢もさまざまな人たちが集まっていました。この時の研修は、とにかく刺激的でしたね。まずとても優秀な人がたくさん集まっていて、こんな世界があるのかと。その中でも非常に優秀だったのが、中国人の新卒入社の社員。聞けば23歳でハーバード大学のMBAを持っている……つまり飛び級しているんです。同世代でそんな人をまず見たことがないし、しかも彼が「僕は中国の成長を信じているし、貢献したいからいずれは中国に戻る」という。アメリカでそのまま働けば成功も年収も確約されているのにです。こんな人が"貢献したい"という中国は、今後絶対に伸びていくはず……。僕が中国のビジネスに乗り出したのは、その時の確信が原体験にあります。そして、今アルーが行っているAFLSも、この時の体験に近いものを再現することを目指したのです。
──そうだったんですか!? AFLSについても聞かせてください。
AFLSの特徴は、いろいろな国からいろいろな民族、国籍、立場の人が1カ所、しかも外国に集まるというところ。ここで得られるのは成功体験や失敗体験というよりも、もっとさまざまな刺激……目線の高さに気づいたり、視野がより広がって行く。この体験を行うことで、その人にとって何かの役に立つ、なんらかの"原体験"になれば。それを目的にしています。
たいてい研修の中でまず議題に上がるのはグローバル・ビジネスに関してですが、みんな「自分の国はこうだ」という意見をまず言ってくる。そこでほかの国の視点がどうなのかがわかるし、また立場の違いによる視点の差もある。そういったさまざまな意見を一度に経験することで、"自分の視点というのはほんの一部なんだ"と気づくことができる。でもそれは打ちひしがれるわけではなく、その中で日本の良いところ、自分の会社の良いところを気づくことができたりするわけです。対象としている年齢は30~40代。ある程度経験を積んだ方にこそ、有効な研修です。とにかく"刺激"的な体験をすることができますよ。
──どのような方が受けているのでしょうか?
みなさんの目的はさまざまですが、例えば非常に優秀な人材だけれど、"井の中の蛙"になっている人もいます。そういう人が「自分の殻を破ってほしい」という会社側の思惑を背負って参加していることもありますね。そういう人はたいてい最初は口数が少なかったりするんですが、研修を2日、3日と行ううちに、明らかに自分の中で守っていた殻を破り、やがて裸の自分で勝負していくようになる。彼らの中で何かが変革していくさまを、目の当たりにできるのはうれしいですし、僕らとしては仕事冥利につきますね。
アルーはアジアNo.1を目指す
──今、アルーは海外5カ国に拠点を持っています。10周年を迎えられた今、改めてこれからのビジョンをお聞かせください。
僕の目標は明確にあって、まずアジアで10カ国に進出すること。2017年までに日本でNO.1になること。そして、2030年までにアジアNo.1となること。この"1番になること"というのは重要で、「業界で1番である」という評判が顧客を呼び、顧客への信頼性や満足度も高くなる。また、社員のモチベーションも高くなります。"1番"というのは、それだけ大きなものを生み出すんですよ。
今が2013年ということを考えると、現状は少し遅れているかな、という感じもありますが(苦笑)。2017年が2020年になるとか、そういう多少の差異はあるかもしれません。時間の流れだけはどうしてもコントロールが難しいですから。でも"やるべきこと"は明確にありますし、それは変わらない。そう思っています。
グローバル人材に必要な3つの資質
──落合氏が考える、「グローバル人材」に必要な資質とはなんでしょう?
グローバル人材に必要な3つの資質について語る落合氏。「重要なのは形や環境ではなく、意識の変革です」 |
まずいいたいのは、グローバル人材のスキルは「英語ができる・できない」で決まるわけではないということ。1番に必要なのは、異文化に対してオープンな姿勢を持つこと……異文化を尊重し、理解しようとする姿勢を持つことです。
2番目は"主体性"。よくいわれるように、日本は「言わなくてもわかってほしい」という文化ですが、海外ではそれは通用しません。自分の考えはきちんと表明する、それがグローバルスタンダードです。
3番目は僕の言葉でいうと、"チームに貢献できるか、人と人の相乗効果が生み出せるか"。いろいろな人がいる中で、1+1を3以上にできるか。それには個人のポテンシャルが高いだけではダメで、"行動"が重要だと思います。
──最後に、読者へのメッセージをお願いします。
今「何かをしなければいけない」と考えている人がいるならば、その変化を転職や起業という形で求めるのではなく、前回の「長期的な成功に欠かせないのは"志"──海外で活躍するアントレプレナーを育てるためには?」でお話した"志"のことを考えてみてください。あなたはなんのために働いているのか、なんのためにその変化を求めているのか、あなたが今働いている場所でできることはなんなのか。なぜなら、環境は変えられたとしても、必ず"自分が変わる"とは限らないからです。もしあなたが前へと踏み出したいなら、"志"を持つことがグローバル人材への第一歩となるのではないでしょうか。
──本日はありがとうございました。
アルー株式会社 代表取締役社長、落合文四郎氏。1977年、大阪府生まれ。2001年、東京大学大学院理学系研究科卒業後、株式会社ボストンコンサルティンググループ入社。2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立、代表取締役に就任。2006年4月、アルー株式会社に社名変更し、代表取締役社長兼CEOに |