インテルは27日、都内でIAタブレットに関するプレス説明会を開催。同社におけるタブレット事業の位置付けとタブレット製品への取り組みに加えて、Bay Trail-TことIntel Atom Z3000シリーズの技術解説を行った。
タブレットでも"Intel Inside"はブランド力あり
インテル クラウド・コンピューティング事業本部 事業開発本部 モバイル事業開発部のマイケル・キャンベル氏 |
説明会ではインテル クラウド・コンピューティング事業本部 事業開発本部 モバイル事業開発部のマイケル・キャンベル氏が登壇。「Great Tablets Have Intel Inside」というタイトルで現在のIntelにおけるタブレット製品の位置付けを説明した。
Intelはタブレット市場をどのようにとらえているのか。キャンベル氏は、現在のコンピュータ市場の中でタブレット市場がもっとも大きな成長率を示しているという調査結果を紹介。全世界で3億台、日本では700万台まで市場が拡大するという。またタブレット製品には画面サイズや解像度、デザイン、OSなど幅広い選択肢の中から消費者が選ぶことができる。
日本の消費者がタブレット製品を選ぶ基準としてキャンベル氏が挙げたのは、価格、スクリーンサイズ、Mobilety Lifeの3つのポイントだ。ここでいう「Mobilety Life」とは薄型・軽量・無線という3つの要素で、特に最後の"無線"について、「日本市場ではLTEをサポートしているかどうかが重要」(キャンベル氏)だという。
Intelではこれらのポイントも踏まえて、低価格帯のタブレット製品ではIntel Atomを、高価格帯のUltrabookや2 in 1デバイスではIntel Coreプロセッサと、コスト面や用途に合わせて最適なCPUを提供しているという。こうした結果、Intel製プロセッサを搭載したタブレット製品が日本でも数多く登場していることを強調する。
キャンベル氏は、Intel CPUを搭載したタブレットは、「高いwebパフォーマンス」「高いCPUパフォーマンス」「長いバッテリ持続時間」「OSを選ばすに利用できる」点でメリットがあり、また米国で行われた調査では、Intelに対するブランドイメージは高いことに触れ、WindowsタブレットでもAndroidタブレットでも「Intel Inside」であることで信頼感を持って選んでもらえると締めくくった。
Intelプロセッサ搭載タブレットもラインナップ数が増えてきた。前日にLenovoが急遽Miix2 8の発表会を行っているように、このジャンルの勢いはかなり高い |
Bay Trail-TことIntel Atom Z3000シリーズを解説
インテル モバイル&コミュニケーションズ事業部 カスタマー・テクノロジー・ソリューション プラットフォーム・ハードウェア・エンジニアの平井 友和氏 |
次にインテル モバイル&コミュニケーションズ事業部 カスタマー・テクノロジー・ソリューション プラットフォーム・ハードウェア・エンジニアの平井 友和氏が、Bay Trail-TことIntel Atom Z3000シリーズの概要を説明した。
Atom Z3000シリーズは22nmプロセスで製造する「Simvermont」アーキテクチャを採用。メインストリーム向けのプロセッサで用いられている3DトライゲートトランジスタもSoC製品向けに改良されているという。
Simvermontの大きな特長として挙げられるのは、従来のAtomプロセッサが採用していた命令が来た順に実行ユニットに送るインオーダー(In-order)実行から、実行順番を入れ替えて効率化を行うアウトオブオーダー(Out-of-order)実行に構成を大きく変更した。
平井氏によると、アウトオブオーダー実行への変更に寄与したのが、プロセスの微細化。アウトオブオーダー(Out-of-order)実行の場合、実装や処理が複雑な分、それだけ消費電力が増えてしまう。プロセスの微細化によって、高いパフォーマンスでも消費電力を抑えることができたという。
また、Simvermontではファミリー展開の容易なハードウェアアーキテクチャを採用するほか、これまでのメインストリーム向けプロセッサでで採用する命令セットを新たに追加している。このほか、細かく電力管理を行うことで優れた電力効率を実現しており、ピーク性能は前世代(Clover Trail+)比で3倍。同一性能なら約1/5の消費電力が可能になったという。
Atom Z3000ファミリは現在大きく4つ(Z37xx,Z37xxD,Z36xxとX36xxD)に分類される。36と37の違いはCPUのコア数だ。Simvermontでは2つのCPUコアと1MBのL2キャッシュというブロックでモジュール化している。1モジュールの2コア製品が36xxシリーズ、2モジュールの4コア製品が37xxシリーズとなる。
末尾にDが付くモデルとそうでないモデルがあるが、これは対応するメモリテクノロジの違いとそれに関連した表示解像度の差によるもの。末尾にDの付いていない製品はデュアルチャネルのLPDDR3-1067をサポートし、メモリ帯域は最大17.1GB/sでメモリ容量は最大4GB、ディスプレイ解像度は最大2,560x1,600となる。
末尾にDの付いている製品はコストパフォーマンスに優れたDDR3L-RS 1333に対応(シングルチャネル)し、最大メモリ帯域は最大10.6GB/s、メモリ容量は最大2GB、ディスプレイ解像度は最大1,920x1,200となる。
Atom Z3000ファミリではSoC内のグラフィックコアが「PowerVR SGX5」から第7世代の「Intel HD Graphics」に変更され、Direct3D 11、OpenGL ES 3.0、Intel Quick Sync Videoに対応した。ただし、デスクトップ版と異なり実行ユニット数は4と減った。
タブレットの性能を引き出す熱制御技術「Intel DPTF」
次に平井氏はデバイスの熱を制御する技術「Intel Dynamic Platform & Theram Framework」(Intel DPTF)の解説を行った。Simvermontのアーキテクチャ自身の説明を聞く機会はたびたびあるが、Intel DPTFのついては語られる機会がなかったトピックだ。
Intel Dynamic Platform & Thermal Framework。デバイスマネージャーやタスクマネージャーからはこのように見える。タブレットのデバイスマネージャーを見て不思議に思っていた人も多いのでは |
メインストリーム向けのIntel Coreプロセッサでは、熱的に許容できるならば、一時的にCPUのクロックを上げるIntel Turboboost Technology 2.0が利用できる。ただ、これはファンの回転数を上げて放熱効率が改善できるデスクトップやノートPCの場合であり、薄型タブレットPCでは放熱効率を変化させることが難しい。
タブレットは右下のようなファンがないので、排熱を促進する手段がない。パッシブの放熱だけで複数の熱源をヒートスプレッダを使って温度を過度に上げないようにするのは限界があるので、ソフトウェアによるパワーコントロールが必要になる |
さらに手持ちで使うタブレットの場合、筐体の外部温度をあまり高くすると「持つと熱い」という不満がでてしまう。このため熱設計要素の考慮点が多くなり、タブレット設計を難しくしているという。そこで用意されたのがIntel DPTFだ。
Intel DPTFはセンサ類をモニタしながらソフトウェアでファンレス筐体のパフォーマンスを維持しつつ温度を抑える。Intelの人的技術サポートなしでも使えるようになっており、さらに製品出荷後に新たな利用方法があればBIOS変更で対処できるという |
Intel DPTFは高性能と低筐体温度の両立を目指すために、筐体内に用意された複数の温度・電力センサーを使ってソフトウェアで温度管理を行う。あらかじめ筐体の形状、材質、発熱体の位置やサーマルプロファイルを作成し、これに合わせた制御を行う。
平井氏が一例として紹介したのは、許容できる温度を最大50度と設定し、バッテリの充電を行う際に「多少CPU速度を犠牲にしてもバッテリ充電を最短にしたい」というプロファイルを設定した場合の動作。デバイスの熱が許容限界に近くなるとCPUのクロックを落として発熱を軽減することで、温度の傾きが緩やかするという動きになる。
Intel DPTFによる管理の一例。ここではバッテリ充電パフォーマンスを落とさないことに優先順位をつけており、CPU速度とディスプレイ輝度を落とすことで温度上昇を設定値以下に抑えつつ、バッテリ充電を行っている。この辺の優先順位もメーカーが独自に設定可能だ |
Intelではタブレットを開発するメーカーに対して、Intel DPTFを利用するためのソフトウェアの提供に加え、端末の回路図や設計図を基に、そのメーカーが「何を優先したいか」という設計思想をヒアリングして、最適なプロファイルをアドバイスするといったアドバイスを行っている。
Intel DPTFのプロファイルは製品出荷後もBIOSアップデートで変化させることが可能で、性能の改善が見込めるほか、"特定のアプリケーション"に対するプロファイルも設定することができるとした。なお、Android搭載のIAタブレットでも同じ仕組みは利用できるという。
最後にIAタブレットが実現するストレスフリー体験ということで、平井氏のパソコンとタブレットをケーブルで接続し、パソコンからタブレットを操作したり、ファイルのやり取りが行えるデモを行った。
と平井氏はインテルでも有数のガジェット好きということで、自身が普段使用しているマシンを使ってのデモ。Windows 8ノート搭載PC、Androidケータイ、Windows 8タブレット。手に持っているケーブルを指すことによってマウスやキーボードの操作とデータの共有が可能で、これで普段も作業をしているという |
Windows 8タブレットで実際に動いているIntel DPTFのデバイスとタスク。Bay Trail-T SoCでは低消費電力のためにI2Cを増やしたと説明があったが、よく見るとデバイスマネージャーにI2Cの項目が多いこともわかる |
すでにいくつかの発表会でBay Trail-Tが搭載されたタブレットを触っているが、Windows 8もかなりサクサクとした動きで長時間動作する。小型のWindowstタブレットもようやく実用的なスペックになっており、あとは市場がどのように受け入れるかだろう。