会場を盛り上げたもの勝ちのアーキテクト部門
続いては、いよいよ新設のアーキテクト部門。同部門も、基本は競技フィールドを使用する。ベーシックステージの第4ゲートまで走行体が走ったあと、第4ゲートからゴールまでとボーナスステージを合わせた「パフォーマンス・ステージ」(2790mm×2740mm)を使って(画像28・29)、公序良俗に反したり危険行為だったりしなければ、さまざまな機材を持ち込んでどんなパフォーマンスをしてもいいという内容である。走行体はまず1体が走るが、パフォーマンスエリアでは何体でも使用可能だ。
事前に本部の審査員が企画審査を行い(企画審査点:100点満点)、実際に会場でパフォーマンスを見て企画と一致性がどれだけあるかをチェックし(一致性審査点:100点満点)、そして特別審査員+一般審査員の合計40人による200点満点(1人うちわ2枚を持ち、ダメならどちらも上げず、まぁまぁなら1枚(2.5点)、すごければ2枚(5点)という具合である)の、合計400点満点で点数がつけられ、それが順位となる。
なお、地区別の参加台数は、北から北海道が1、東北が1、北関東が2、東京が1、南関東が2、東海が2、北陸が1、関西が1、中四国が1、九州が1、沖縄が0だ。参加資格別は企業が8、大学が3、高専が1、個人が1となっている。点数は400点満点の合計点で、カッコ内が、企画審査点(100点満点)、一致性審査点(100点満点)、会場審査点(200点満点)。企画審査点、一致性審査点はその場では発表されなかったが、会場審査点が高いと、必然と企画審査点と一致性審査点も高くなる傾向だ。デベロッパーのように部門があるわけではないので、すぐに総合評価の発表である。
アーキテクト部門の結果
- 優勝:男子力∞MAKOTO(宇部工業高等専門学校ETロボコン同好会/中四国)177.5点
- 優勝:SpecialBoys(SCSK中部システム事業本部/東海)177.5点
- 3位:FUJIDREN(富士機械製造/東海)142.5点
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- TOPPERS賞:SDCバンビーズ(佐賀電算センター/九州)
というわけで、なんとアーキテクト部門のCS大会記念すべき1回目は、2チームによるダブル優勝! アーキテクト部門の規定では合計得点が同じ場合、会場、一致性、企画の順で点数が高い方が上位になるのだが、その3つともまったく一緒で、優劣をつけられないため、両チームの総合優勝となった。
後ほど別記事にてお伝えする予定のアーキテクト部門の優勝チーム・インタビューは、エースクラスのベテランメンバーをそろた社会人チームのSpecialBoysと、年長者でも20歳、一番下は15歳という学生チームである男子力∞MAKOTOという、まさに好対照の両チームのコメントをお伝えする。経験の差も、チームの構成もまったく異なる両チームが完全な同点になってしまうのだから、面白いものである。
それにしても、もしうちわを上げた会場審査員の誰か1人がどちらかのチームの時に1枚でもうちわを下ろすか、逆に0枚か1枚だった人がもう1枚上げていたら、2.5点の差がついていたわけで、相談したわけでもないのにたまたまそろってしまったのだから面白い。
とにかく、この2チーム優勝というサプライズだけでなく、肝心の内容も非常に面白くて大好評だったことから、アーキテクト部門のコンセプトは大当たり、といっていいのではないだろうか(ただし、まだまだ1年目で手探りだったことから、来年のルールやレギュレーションはまた変わったり、追加されたりしてくるものと思われる)。
ざっと上位3チームの内容を説明すると、総合優勝のまず1チーム目、男子力∞MAKOTO(だんしりょくいんふぃにてぃーまこと)は、ストーリーとして、ファンタジーRPGの世界を採用(画像30)。勇者(走行体)がメカ作りの権威である博士の力を借りてパワーアップし(「ハカセタンク」(画像31)に走行体が乗っかってドッキングし、「重装フルアーマー走行体」(画像32)となる)、魔王城(スロープのてっぺん)にとらわれた姫を救出するというもの(画像33)。会場評価が高かった理由は、もちろん、狙いがわかりやすく、なおかつちゃんと狙った通りの展開ができていたからだろう。
また、アーキテクトは解説を行うスピーカー(マイク担当)がどれだけ機転が利くかということが重要なところでもある。同チームは、学生たちが、勇者、博士、魔王も演じており、特にチームのリーダーで同校の5年生(ETロボコン同好会の会長)はマイクパフォーマンスも機転が利いており、その評価もよかったと思われる。
実は、意外と会場審査員が技術的に見る目が厳しい人たちがそろっていたようで、ちょっとやそっとじゃうちわを上げない人が多く、ちゃんと技術的に狙い通りにできているかどうかなどをしっかりと見ており、スピーカーによる説明と実際の様子が「ちょっと違う」となると、「イマイチ」という判断を下していたようだ。地区大会だったら、「がんばって最後までできたのだから、少しぐらいうまくいかなくてもお情け点を入れたっていいかな」というようなところも、「ダメなものはダメ」という具合だったので、ある意味、運営サイドのナイスな人選もポイントが大きかったといえそうである。
そして同じく総合優勝の社会人チームのSpecialBoysは、「子どもの頃思い描いていた未来を予感できるパートナーロボット」がテーマで、そのパートナーロボットの第1弾は、自律的にお片付けを行う「カタッシー」だ(画像34)。具体的には、走行体が散らかしてしまったヌイグルミなどの位置をKinectを使って検出し、NXTで作った4輪ロボット(基本並行2輪だが、前後に小型の補助輪が1輪ずつ、菱形のレイアウトになっている)のカタッシーが2本のアームを使って持ち上げて片付けるものごとに決められた所定の位置に片付けるというもの(画像35)。
スピーカーの方が被っていた紙などで手作りしたシルクハット型の帽子も適当に投げた上で、上下どちらの向きにしてもちゃんと持ち上げて所定の位置に片付けていた(画像36・37)。既存の掃除ロボットはある程度ものが片付いているところに、ホコリだの毛髪だのを吸い取ってくれるわけだが、そのさらに先、誰もが望む真の「お片付けロボット」の実現が見えてくるような、素晴らしいロボットであり、評価が高くなるのも納得だ(真の意味で使えるお片付けロボットが10万円以下で販売されたら、それは間違いなくヒット商品になると思う)。
なお、同チームのスピーカーの方も機転の利く方で、しゃべりに強く、なおかつイレギュラーな事態が発生しても、それすらもネタとして利用してしまう頭の回転の速さがあった。なんと、従来のデベロッパー部門ではあり得なかったであろう、営業部門の方だそうで、アーキテクトならではのチーム編成は面白い。
この2チームを見る限り、来年以降は、大幅な規制などがかけられない限りは、アーキテクトのスピーカーは単なるストーリーや技術などの説明役ではなく、エンターテイメント性を考慮したマイクパフォーマンスができることが、会場審査員の心をつかむポイントとしてより重視されてくることだろう。そのためには、単なる目を引くという意味だけでなく、意味のあるコスプレも重要といえそうだ。
ただし、コスプレで場を盛り上げることはアーキテクト本来の狙いとは必ずしもいえないため、今年は初年度なので運営サイドも手探りだったことから、必要最低限の禁止事項以外は設けられていない「ありあり」に近いルールだったが、来年以降は何か規制がかけられたりすることもあるかも知れない(面白ければいい、目立てばいいというのは絶対にダメとはいわないが、それだけではアーキテクトの狙いとは異なってくると思われるため)。
そして3位のFUJIDRENは、アーキテクト13チーム中のラストに登場し、デベロッパーから数えたら最後のチームであるため、まさに大トリといえるポジションだったが、そんなプレッシャーのかかる中で見事にそれに応える内容だったといえよう。
内容としては、サーカスの綱渡りだ。かなりの急勾配(シーソーよりも格段にきつい)を、走行体が追加装備もなしに上っていき(画像38・39)、そのガジェットの途中に架けられたタイヤ幅ギリギリの細い2本のレールの上を、1m50cm先まで進むというものである(地上高50cm)。もちろん、落下せずに渡りきった(画像40・41)。ちょっとでも進路が斜めになったら即脱輪という条件だったので、この姿勢制御は素晴らしいものがある。惜しむらくは、坂を登り切った際に、転倒してしまったことだろう(デベロッパーのように転倒してもリタイヤということはなく、制限時間内なら続けられる)。
というわけで、ETロボコン2013CS大会の模様をお届けした。今年はデベロッパーのショートカット&レーンチェンジ、そして新説のアーキテクト部門そのものが非常に面白かった。来年以降も大いに期待できる内容といえるだろう。2014年の発表は、毎年恒例の2月に行われると思うので、またその時を楽しみにお待ちいただきたい。
なお全チームの総合順位のほか、競技部門、モデル評価などはすべての順位や評価はETロボコン公式サイトのチャンピオンシップ大会で見ることが可能だ。
また、アーキテクト部門の総合優勝を果たした男子力∞MAKOTOとSpecialBoysの合同インタビューも後ほどお届けするので、しばしお待ちいただきたい。