「姫路おでん」とはどんな一品だろう? 写真は「澤田屋」のおでん

姫路を中心に西は相生、東は加古川の周辺地域では、おでんの独特な食べ方がある。それは「おでんを生姜醤油に付けたりかけたりして食べる」というものだ。地元では当たり前すぎて意識したこともなかったというが、数年前から注目されるようになり、地元では「姫路おでん」という名で大々的にPRされるようになってきた。今回はそんな「姫路おでん」について取材を進めてみた。

継ぎ足しのつゆ、定番の大根・玉子はあえてなし

最初に訪れたのは、姫路おでんの店の中でも古参に入るであろう大衆食堂「澤田店」だ。創業は昭和21年(1946)。「生姜醤油のおでん? 今年で67年になるけど、ずっと昔からそれが当たり前だと思っていたよ」と話してくれたのはおかみさんの澤田典子さん。

澤田さんによれば、姫路市にある白浜海水浴場の海の家では、昔からおでんに生姜醤油をかけて売っていたというのだ。「でも、海の家は夏だけでしょう? だから、一年中おでんを出せる店を構えたんじゃないかな」。とはいえもう昔のことだから、詳しい経緯は分からないそうだ。

澤田店のおでんはつゆをずっと継ぎ足して使っている。「だから色は濃いけど辛いわけじゃないよ」。牛スジ(130円)や平天やごぼう天など練り物(各100円)のおでん種がダシとなって、長年の蓄積でつゆの深みを作っている。つまりおでんの味は店の歴史そのものといっていい。

一番人気の牛スジはぷるっぷる! 他の練り物も、見た目よりもはるかにサッパリとした味付けだ。ここに生姜醤油の味覚が加わると、生姜の程よい刺激が強いアクセントになる。なるほど、醤油や生姜は「後づけ」の強みが存分に生かされているのだ。

ポイントは「生姜醤油」だ。生姜のほどよい刺激が強いアクセントになる

ちなみにこの店でユニークなのは、おでんの定番中の定番といっていい大根や玉子などの具材は、「身が崩れてつゆをダメにする」という理由で扱っていないこと。こんな潔さはなかなか他の店にはない。オーセンティックな「姫路おでん」を食べたいなら、一押しの店である。

●infomation
澤田店
兵庫県姫路市白浜町甲347-14

3時間以内のものだけを出す

おでんは格式張らず気軽に楽しめるのがいいところだ。次に訪れた「きゃべつ」もそんな店のひとつといっていい。実はこの店、お好み焼き店なのである。しかし近年、この店のおでんが人気赤マル上昇中だという。

この店のおでんのアプローチは、前述の澤田店とはまさに真逆だ。「新しいものを食べていただきたい」と、つゆは毎朝イチから仕込む。そこにおでん種を投入してダシも出すのだが、「入れて3時間以内のものしか使わない。だからウチのおでんは売り切り。どうしても追加しないといけない時は、別の小鍋でたくんです」とおかみさんの岸田まさよさんは言う。

お好み焼き店の「きゃべつ」では、毎日新鮮なダシと食材で煮込む

店の一番人気はロールキャベツ(300円)。種は洋食のロールキャベツ、つゆは朝に作ったばかりのフレッシュな和風ダシだ。そしてここに「姫路おでん」ならではの生姜醤油が加わるり、口へ入れるとものすごい熱さ! しんなりして適度にダシを吸ったキャベツと生姜醤油がマッチしている。食べ進めると、中のミンチが肉系のコクを出してくれてる。他にも牛スジ(200円)、卵や大根(各200円)なども人気だそう。

●infomation
きゃべつ
姫路市南町栄通

変り種にも出合える専門店ならではの味

専門店「おでん大橋」は地域で人気のおでんの有名店

「姫路おでん」最後の取材は、専門店でシメたい。というわけで、口コミから評判の店と聞き訪れたのは「おでん大橋」だ。この店もつゆは毎日作り変えているけど、「前日のつゆも少し足してコクを増やしています」と店主の大橋裕治さん。

一番人気はタコだという。足が1本そのまま種になり、値段は大体600~800円くらい。この時、大橋さんから衝撃発言が飛び出した。

「生姜醤油はもともとタコだけに出してたんですよ。でも最近、姫路おでん目当てのお客さんが多くなって。だからどのおでんでも生姜醤油で出せるようにしたんです」。どうやらこの店では、生姜醤油が必ずしもマストアイテムではないよう。

確かに、名古屋の味噌おでんも味噌の個性が強すぎるため、味噌をかけ過ぎると何でも同じ味になってしまう時がある。「生姜醤油もおいしいけど、おでんのいろいろなバリエーションを楽しんでね」というのが、おでん本来の楽しみ方かも。

種類は全部で35種類くらいあるそうで、「お客さんの注文のタイミングを見計らって入れるものもあります」と店主が一言。中には春菊(300円)なんて変わり種もある。おでん職人の大将と、おでん談義に花を咲かせながら、バラエティ豊かなおでんを堪能できる店だ。

「おでん大橋」では、生姜醤油はもともとタコだけに出していたらしく、おでんのマストアイテムではないよう

●infomation
おでん大橋
兵庫県姫路市十二所前町94 福和ビル 1F

取材を進めてみて分かったのは、「姫路おでん」はローカルの様々な飲食店が、あまり細かな縛りもなく自由自在にオリジナル色を加えて展開しているってことだ。ご当地グルメの統一感はそれほどないかもしれないが、生姜醤油という共通アイテムを自在に活躍させ、おいしいおでんを出してくれる店が、エリアには数多く存在している。機会があれば、是非「姫路おでん」を食べ歩きしてみてほしい。