木暮太一さんが、人気漫画『カイジ』(作者・福本伸行氏)をもとに働き方について論じる『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』を執筆された。気になる内容について、最近定着してきた"ワークライフバランス"の話を伺った。
自分が遊びたいだけで言ってない? 「ワークライフバランス」
--ワークライフバランスを重視する方が近年増えてきていると言われています。
「ワークライフバランス」というのは、ライフに責任が発生した人に対しては有効だと思います。例えば結婚して子供が生まれたのであれば、父親の役目を果たすために「ワークライフバランスをとりましょう」となると思います。
ただ、「俺はワークライフバランスをとりたい」と言う若手社員って、「仕事をそこそこしかしません」という意味で使っていることが多いんですよね。本人の考え方なので良いのですが、そこそこしか仕事をしなければ、当然そこそこの成果しか残せなくなり、最終的にはそこそこの人生になります。わかって言ってるんですか? という話なんです(笑)。
--「ワークライフバランス」の意味を取り違えてしまっている人が多いということでしょうか…
そうですね。人間に与えられるチャンスって、年を追うごとに減っていくんですよ。20代だったら許されることも、30代だったらだめとか、40代だったら人が会ってもくれないとか。どんどんチャンスが減っていく中で、実力をいつ蓄えるべきかと言うと…やっぱり今でしょう。早いうちに高い位置にのぼっておかないと、30歳になってハードルがあがり、足切りにあってしまう。上がっていけなくなってしまうんです。
--たしかに、体力も違ってきますね
人生トータルで同じ時間働くとしても、最初からそこそこでやっていくと成果もそこそこで実力もあがっていかないんですよね。そのかわり、20代でがーんと集中投資をして実力を高めておけば、どんどん楽になっていくし、コネクションができて少ない労力で大きな仕事ができたりします。そのステージまで早めに上って、あとは自分の時間をなるべく使わずに成果を出していくようにするべきなのですが。
誤解を招くかもしれないですが…「定時で帰る」という考え方は、あんまりよろしくないと思うんですよね。時間で区切られて働いているというのは、考え方としておかしいなと思うんです。「自分がここまでやったから今日は定時で帰る」はいいですが、常に「定時だから帰りたい」というのはおかしい。
--逆に、定時前に帰ってもいいんでしょうか?
それもいいんじゃないでしょうか(笑)。ただ、やっぱり若いうちにできるだけやることをやっているべきだとは思います。これからどんどん雇用が流動化して、実力のある人しか残れない世界になったとき、キリギリスになってしまう。蟻さんがどんどん働いている間に、キリギリスが「ワークライフバランス」と言っていたら、冬になれば結果は如実に出て来ます。そういうことを見越しているのか、単純に今さぼりたいから言っているのか、自分に対して問いかけた方がいいと思うんですよね。
冬を越せないキリギリスになってしまうか
木暮太一(こぐれたいち)さん。経済入門書作家、経済ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、著書に『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)、『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)など多数 |
--キリギリスタイプは冬になったら…
もう、どうしようもなくなると思います。最近「解雇しやすい特区」についての検討が話題になりましたが、そちらの方向へ流れていくのは当然なんですよね。「いきなり言われても…」と言う方もいますが、10年以上前からわかってましたよ、というのが僕の考えです。世の中を見てこなかった本人の責任だと思います。
厳しいことを言うようですが、実際に困るのは自分なんです。キリギリスは冬を過ごせないからかわいそうなのではなく、時間をさかのぼれないことが一番かわいそうなんです。冬にむけて備えをしないと、もう生きていけないというふうになるんですよ! なっちゃうんですよ! というのを、『カイジ』を通して言いたいと思っています。
--こわくなってきました
大学を出ても職がないため、学生ローンが払えずに破産する人が増えていることが、今アメリカで問題になっています。大学ですら、効率の悪い投資になっているんです。働けばローンは返せるけど職がない。となると、今度は大学に行くか行かないか、その時点で決断しないといけなくなります。大学に行っても、会社のなかで認められる能力を身につけなければ意味がなくなってきます。
--実際に著書(『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』)の中でもふれてるんですか?
カイジはそもそも働いていないので、ワークライフバランスはありませんが(笑)、利根川の「勝ったらいいな・・・・じゃない・・・・・・! 勝たなきゃダメなんだ・・・・・・!」という言葉と強くリンクしています。勝つためには今やらなきゃいけないという意味で、ワークライフバランスは生涯で達成するのが、一番いいと思います。毎日毎日バランスをとるのではなく…20代は仕事、30代も半分仕事、40代から遊ぶ、というくらいのつもりでワークライフバランスをとるんだったら全然いいんだと思うんですよ。
結果的にワークとライフのバランスは一緒になっても、逆にライフの配分を増やしてもかまわないと思います。それでも、最初に労力をかけた方が絶対に成果が大きくなります。どう組み合わせるかを考えないと。
長いスパンで考える「ワークライフバランス」、昨今流行っている言葉に、新たな考え方を見せられた。次回は、給料について木暮さんに話を伺う。