ソフトウェアの開発では、さまざまな言語を用いて記述したソースコードを、コンピュータで実行可能な形式に変換する「コンパイル」と呼ばれる処理を必要とするのが一般的だ。そのソースコードを記述するテキストエディタやコンパイラ、バグを除去するためのデバッガなどを組み合わせたソフトウェアはIDE(Integrated Development Environment:統合開発環境)と呼ばれるが、Microsoftは以前からVisual Studioシリーズをはじめとする開発ツールを多数リリースしている。

図01 Microsoftの開発ツール群およびテクノロジの開発部門責任者であるPJ Hough氏

デバイスやOSのトレンドが変化しようと、ソフトウェア開発の基本的なスタンスが大きく変わることはないだろう。そして開発環境の充実は、さらなるユニーク性を増し、もしくは利便性が向上するアプリケーション/サービス誕生のきっかけとなる。

「デバイスとサービスの時代にこそ、Visual Studioの新たなチャンスが生まれる」と語るのは、Microsoftのデベロッパーディビジョン プログラムマネジメント担当コーポレートバイスプレジデントであるPJ Hough(ピージェイ・ヒュー)氏(図01)。

Hough氏は2013年11月21日から開催される「The Microsoft Conference 2013」のため来日しているが、事前に開発ツールのアナウンスを行うため、日本マイクロソフトは記者を対象にしたラウンドテーブルを開催した。最初に以前のバージョンであるVisual Studio 2012が、600万回ダウンロードされ、四半期に1回リリースしたアップデートをインストールしたユーザーは60%、そして開発者向けWebサイトであるMSDNのページビューは22億ビューに達したことを明かした(図02)。

図02 Visual Studio 2012のダウンロード数は600万回、アップデート適用率は60%に達したという

Hough氏はこの1年を自社やコンピュータ業界全体にとって、急速な変革を迎えた年と指摘し、Microsoftが目指す「デバイス&サービスの時代」に突入したと感じているという。そこではソフトウェア開発のあり方やユーザーニーズも同時に変化するため、Visual Studioにも新たなチャンスが訪れていると述べた。プレゼンテーションでは、既存の開発環境を踏まえつつ、複数のユーザーで開発を行うALM(Application Lifecycle Managemen:アプリケーションライフサイクル管理)を紹介(図03)。

図03 Visual Studio Onlineの概要。Team Foundation Serverを包括する形で進化している

Microsoftは以前から「Team Foundation Server」という製品を用意し、開発に伴うソースレポートやアジャイル(効率的にソフトウェア開発を進めるソフトウェア工学の手法)開発計画などを実現していた。そして米国で開催した「Visual Studio Virtual Launch」にて、クラウド上でのビルドサービスやロードテストサービスなど、包括的な開発環境をクラウド化した後継版「Visual Studio Online」を発表。今回はお披露目する意味もあったのだろう。

開発環境に興味を持たないユーザーのためにVisual Studio Onlineの概要を述べると、「クラウド上に開発環境を用意し、5人以下のチームであれば無料で利用可能なソフトウェア/サービス」である。ソフトウェア開発のコード記述や作業タスクの管理、コードのコンパイルや結果を検証するためのテスト作業、そして完成した際の展開や、得られる発見など一連の開発作業が、Visual Studio Online上で完結するというものだ。同社のクラウドプラットフォームであるWindows Azure(アジュール)や、クラウドOS戦略を踏まえれば、開発環境までもがクラウド化するのは自然の流れだろう(図04)。

図04 Visual Studio Onlineの利用選択肢。5ユーザー以内は無料で使用可能となる

ここからは同製品に関する詳細な情報ではなく、エンドユーザーへの影響を考えてみたい。もちろんエンドユーザーはソフトウェアやサービスを使う利用者であり、開発環境の変化によるメリットは少ない。だが、Visual Studio Onlineのようにソフトウェア開発を容易する環境が充実することによって、開発工程や期間、ヒューマンリソースの負担が軽減されるのは確実だ。そしてその結果、より多くのアイディアが具現化する可能性は高まるだろう。

つまりエンドユーザーは、より多くのソフトウェア/サービスが利用可能となり、最終的に開発環境の向上はエンドユーザーの利益につながるのだ。

他方でクラウド化が進んでいることも注目に値する。現在、我々が利用するサービスの多くは、インターネットを経由している。サービス開発から展開、利用者からのフィードバック管理といった運用を連携しながら、一元的に行うDevOps(開発と運用の連携)も、Visual Studio Onlineでは実現可能だという。利用者からのフィードバックに対応するスピードも向上するメリットが発生すると同時に、近い将来はすべてオンライン上で処理が完結するクラウド化という未来が待ち受けているはずだ。

今回行われた説明によると、LinuxやiOS、Androidといったクロスプラットフォーム実装を実現する.NET環境「Xamarin」(ザマリン)を、MSDNサブスクライバー向け特典として提供するという。MicrosoftはWindowsという単独のOSだけでなく、幅広い開発環境としてVisual Studio Onlineをとらえているのだろう。

「開発者のニーズに応え、時代に即した進化を続ける」と語るHough氏だが、Visual Studioの新しい時代が訪れたことを示すと同時に、今後のソフトウェア/サービス開発が変化することを確信させる内容だった。

阿久津良和(Cactus)