11月14日、東京都内にてカシオのデジタルカメラEXILIM(エクシリム)シリーズの新作モデル発表会が行われた。EXILIMシリーズの新しいハイエンド機となる「EX-10」だ。機能やスペックの概要は別記事『カシオ「EXILIM」、2軸ブラケティングやWi-Fi対応の新旗艦モデル「EX-10」』を参照いただくとして、ここではゲストの哀川翔さんや、(なぜか)ゆるキャラたちも登場して盛り上がった発表会の模様をお届けしよう。
まず登壇したのは、カシオ計算機のQV事業部長 中山仁氏。「スマートフォンの性能向上とミラーレス機のシェア拡大を受け、コンパクトデジタルカメラの市場規模が年々縮小傾向を見せている」としながらも、「カシオは従来の『カメラという既成概念』にとらわれない物作りでコンパクト機市場の活性化をうながす」と述べる。そして、EXILIMはデジタルならではの「Amazing Gear」であると語った。その核となる技術は、カシオならではのハイスピードテクノロジーにあり、新製品のEX-10には「ハイスピードテクノロジーの新たな可能性と付加価値を集約した」とも。
「カシオの作ったミラーレス機を見たい、といったお言葉をいただくこともあるが、私たちの進むべき道はセンサーやレンズ、映像エンジンがより密接に結び付いた総合的製品パッケージにあります。以前から申し上げている『コンパクト機を究める』というカシオの姿勢には、今なおいささかかの迷いもありません。」(中山氏)
新モデルのEX-10には、1/1.7型という同社の従来機より大きなCMOSセンサーと、開放F値1.8~2.5のズームレンズが採用されている。このことから、カシオがいよいよ高級コンパクト機の土俵に割って入ると見る向きもあるが、カシオのスタンスとしては少々違うようだ。
「EX-10は既存の高級コンパクトを意識していません。現在の高級コンパクトは、どちらかというと、従来の光学式カメラの延長上にあると思います。カメラに詳しい人が知識や経験を駆使して高度に操ることで、肉眼を越えた高画質を発揮するというものです。
一方、EX-10のターゲットは、カメラには詳しくないけれど、プロカメラマンのようにクールでお洒落な写真を撮ってみたい、と思う方々です。したがって、高画質より撮影者が好む『好画質』を目指しています。」(中山氏)
続いて、カシオ計算機 QV事業部 開発部長 松原直也氏が、EX-10の概要について説明。松原氏によれば、EX-10の最大の特長は、2軸ブラケット撮影機能「プレミアムブラケット」にあるという。ブラケット撮影とはもともと、露出の決定が難しい撮影シーンにおいて使用する機能。露出を「基準値」「暗め」「明るめ」と少しずつずらして3連写し、その中から最も好ましい撮影結果を選ぶというものだ。従来製品においても、露出だけでなくホワイトバランスを変えながら3連写する機能を持つ製品もある。
一方、EX-10のブラケットは、露出(明るさ)やホワイトバランスだけでなく、彩度やコントラスト、絞り値、フォーカス(ピント)のブラケット撮影が可能なうえ、これらを「フォーカス×絞り」「ホワイトバランス×明るさ」といった具合に、組み合わせて撮影できるのだ。
1軸(1つの設定値)につき3枚のバリエーションが撮影されるので、3×3=9枚のバリエーション写真がワンショットで撮影できる(9連写)。撮影者は、この9枚から「ホワイトバランスは真ん中で、一番明るいのがいいね」といったように、撮影後に自分好みの写真を選べるわけだ。撮影の段階に、画像編集のプロセスを持ち込んだといってもいい。今までのような写真知識や試行錯誤は、もう必要ない。
今までのカメラは、被写体にふさわしい色合いやピントの柔らかさなどの画作りを、撮影者自身が探し出さねばならなかった。が、EX-10は「これらの中でどれがあなたのイメージに近いですか?」とカメラがサンプルを提示してくれるのだ。
「きっと、いつもの景色が変わって見えるはず。プレミアムブラケットをきっかけとして、写真ビギナーの方でも、撮影の楽しさに気付いていただけると思います。」(松原氏)
カメラ本体にもこだわりがあふれていると松原氏はいう。直線で構成されたスカルプチャー(彫刻)フォルムの本体は、無駄を廃したミニマムデザイン。フロントトップの傾斜は「撮る」という意識を表しているとのこと。流行のクラシカルなデザインとは一線を画した新しい存在感、軽快で指がかりの良いダイヤル、ローアングルで便利なフロントシャッター、3.5インチの大型液晶モニタなど、道具としての使いやすさを両立したと自信を見せる。
ここで会場のスクリーンに、EX-10の新CFが先行上映された。キャッチフレーズは「ある意味、9眼。」プレミアムブラケットによる新しい撮影スタイルの提案が込められたCFだ。
哀川翔さん「ただの記録じゃない写真が撮れる」
そして、ステージはトークセッションへ。ゲストである俳優の哀川翔さんが、EX-10を手に登場。加えて、デジタルハリウッド学長の杉山知之氏、カシオ計算機 QV戦略部 室長 仁井田隆氏とともに、EX-10で写真を撮る楽しさを熱く語った。
釣りやゴルフなど、多彩なアウトドア趣味を持つことで知られる哀川さん。仁井田氏に「プロフィールの趣味欄になぜ『カメラ』って書かれていないんですか」と聞かれ、ちょっとだけ苦笑いしながら言い訳(?)する。「デジタルになって、もはやカメラは身近すぎるものになってしまった。趣味というより、いつも持ち歩くものだから。」(哀川さん)
しかし、EX-10で街撮りをしてみたところ、その意識に変化が生じたようだ。
「身近すぎたカメラは、写真をただの記録にしてしまっていたんだなと思いました。EX-10で撮って画面に表示された9枚を見ると、まず驚きますよね。こんな風に映るんだなって。こういう写真ってね、我々もプロのカメラマンの方と一緒に仕事しますけど、プロの技術あってこそ撮れると思っていたんですよ。でも、EX-10なら、シャッターを切るだけでこれだけのバリエーションが見られる。
そして選んでいると、色や背景のボケ具合にこだわりを感じている自分に気付くんですよ。これはもう、ただの記録じゃないですよね。」(哀川さん)
哀川さんが撮影した写真を見ていると、撮っているうちにイメージが膨らんできていることが手に取るように想像できる。構図が次第に大胆になり、それまで一様だった被写界深度も変化が感じられた。デジタルハリウッドで学生に写真を教えている杉山学長も、次のように述べる。
「プレミアムブラケットで写真を選ぶという行為によって、写真を見る目が自然に養われて行くと思います。これは、写真が上手になるための近道ですね」(杉山学長)
哀川さんは、従来のEXILIMに比べてやや大振りなボディも気に入ったようだ。「シャープでカッコイイよね。手に持ったときに存在感がある。あぁ、カメラってこういうものだよね、って思える。」(哀川さん)
EX-10のプレミアムブラケットによる撮影スタイルは、哀川さん同様、多くの人々に写真の表現力を追求する楽しみを与えてくれるだろう。デジタルカメラがまたひとつ、写真文化の新しい扉を開く---そんな予感を強く感じさせられた発表会だった。