焦点距離とは、大まかに言うとレンズの中心から像を結ぶ点(焦点)までの距離のこと。焦点距離の違いによって、 被写体をとらえる倍率が変わり、写る範囲(画角)が変化します。今回は、ポートレート撮影に適した焦点距離について考えてみましょう。
「一歩上ゆくデジカメ活用術」バックナンバー
第1回 イルミネーションを利用してボケのある夜景写真を撮る
第2回 冬の逆光を生かして印象的なスナップショットを撮る
第3回 水族館の生き物たちを幻想的なイメージで撮る
第4回 夜空に浮かび上がる満天の星を撮る
第5回 単焦点レンズで楽しむポートレート撮影・表情編
第6回 単焦点レンズで楽しむポートレート撮影・背景編
絞り優先AE(F1.2 1/125秒) 露出補正:+0.3 感度:ISO640 WB:太陽光 焦点距離:50mm カメラ:EOS 5D Mark III(写真をクリックすると拡大します) |
1枚目の写真は、焦点距離50mmの単焦点レンズで撮影したもの。50mmという焦点距離は、古くからの一眼レフユーザーにとっては、昔ながらの標準レンズとしておなじみでしょう。個人的にも最も好きな焦点距離であり、ポートレートから風景、スナップまで幅広いシーンで役立っています。ポートレートの場合は、全身から半身くらいを撮るのに使いやすいといえます。
焦点距離の違いによって、写りにどんな変化が生じるかは、同じ場所で撮影した下の3カットを見て下さい。絞り値などの設定は固定した上で、順に35mm、50mm、100mmのレンズを使用。撮影者の立ち位置(撮影距離)は、画面上の人物の大きさが同じになるように調節しています。
焦点距離:35mm(写真をクリックすると拡大します) |
焦点距離:50mm(写真をクリックすると拡大します) |
焦点距離:100mm(写真をクリックすると拡大します) |
ここでまず注目したいのは、モデルの女性は同じ場所(公園のベンチ)に座っているにもかかわらず、背景の見え方がまったく異なっていること。35mmでは背景に広い範囲が写り、その場の状況がよく分かります。そして、50mmでは背景に写る範囲が狭くなり、100mmではさらに狭くなっています。つまり、周辺状況を写し込みたい場合は焦点距離が短いレンズが、逆に背景をシンプルに整理したい場合は焦点距離が長いレンズがそれぞれ有利といえます。
もうひとつの注目点は、人物の身体に対する頭の大きさと、目や鼻、口といった顔のパーツのバランスです。頭の大きさは、焦点距離が短いほど大きく、焦点距離が長いほど小さく写っているように見えます。目の大きさについても、焦点距離が短いほど大きく、焦点距離が長いほど小さく写っているように見えるはずです。
同じ検証を、福助人形でも試してみました。下の3カットを見比べると、35mmでは目が大きくて、やや頭でっかちの印象です。100mmでは、頭の水色の部分の面積がより大きく写り、目は小さめです。
焦点距離:35mm(写真をクリックすると拡大します) |
焦点距離:50mm(写真をクリックすると拡大します) |
焦点距離:100mm(写真をクリックすると拡大します) |
以上の比較から分かることは、焦点距離は短くなるほど遠近感が強調され、長くなるほど遠近感が圧縮されることです。ポートレート撮影の場合、背景までを広く写し、人物の顔つきをやや誇張して、立体的に表現したい場合は35mmクラスがお勧め。いっぽう背景を単純化し、人物の顔やスタイルを自然に表現したい場合は50~100mmクラスが役立ちます。どの焦点距離が良いか悪いかではなく、撮影の狙いに応じて使い分けるのがいいでしょう。
ちなみに一般的には、焦点距離85mmの単焦点レンズが、ポートレート撮影用に適していると昔から言われています。これは、遠近の誇張が少ないことや、適度なボケが得られること、背景を整理しやすいこと、被写体までのほどよい距離感で人物を上半身を撮影しやすいことなどが、その理由だといえます。
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