アルーが実施している、グローバル人材を育てるための代表的なプログラムが「グローバルアントレプレナーシッププログラム」。アントレプレナー(=起業家)というと、会社に属するビジネスマンは「自分には関係ない」と思うかもしれません。しかしアルーのこのプログラムで重要視するのは、テクニカルな部分ではなく「内面」。落合氏の考えるグローバル人材育成の現状を含め、このプログラムについて伺いました。
0から1を生み出せるのが"アントレプレナー"
──グローバル人材育成に関する、現在の日本企業の取り組みについてはどう思われますか?
落合氏は「英語力は大切ですが、それだけではダメ。それを企業側が理解していないことが多い」と指摘 |
意識自体は平均的に上がってきていると思います。しかしその内容に関しては千差万別ですね。このままでは、海外の市場に進出した際に、成果に結びつけられるグローバル人材を育成できるのは、ほんの一握りの企業だけではないでしょうか。大半は「何かをしなくてはならないが、どうしたらいいかわからない。とりあえず英語の試験への補助は出しておく」という段階で止まっています。もちろん英語力は大切ですが、試験の点数はあくまでも一要素に過ぎません。本当に必要な行動を起こすことができている人たちは、ごくわずかだと思います。
──アルーの行っているプログラムで代表的なものの一つに「グローバルアントレプレナーシッププログラム」があります。これはどのような目的で行われているのでしょうか?
"グローバルリーダー"という言葉がありますが、これには大きくわけて3種類あります。1つ目は「グローバルマネージャー」。海外にすでに工場やビジネスの現場があり、それを運営する人材のことで、例えば駐在員などはこれに近いです。
2つ目は「変革のリーダー」と私は呼んでいるのですが、海外ビジネスで何かトラブルが合った際、これまでやって来たやり方を変えていく人たち。
そして最後が"アントレプレナー"……いわゆる「0から1を生み出す人たち」です。この3つの中で、特に3番目の「アントレプレナー」が今の日本では重要視されています。なぜなら、海外に新たなマーケットを生み出す作業は、まさにこの「0から1を生み出す」という作業なんです。日本のやり方が通じる世界ではないですから。
──すべての人がグローバルアントレプレナーになるのは難しいような気がしますが、それは資質の問題なのでしょうか?
育成方法とその人の資質、両方あると思いますね。正直、明らかに向いていない人もいます。でも「もう少しこのポイントを押さえればうまくいくのに」という人もたくさんいるんです。そういう「あと少しで成功する」人の手助けをするプログラムでもあります。
アントレプレナーの大事な行動は「志を持つこと」
──このプログラムが他社のプログラムと違う点はどんなところでしょう?
「会社に属している場合でも、海外で事業を行う際に必要なスキルは"アントレプレナーシップ"と通じることが多い」と落合氏 |
他社のアントレプレナーの研修は、事業計画の立て方などを教えていくのが大半です。しかし長い目で見ると「仕事に関する考え方や、取り組む姿勢」のほうが、事業の成否に効いてくるんです。そこで、事業計画などのテクニカルな部分だけでなく、そういうものも重視するのがこのプログラムの特徴です。
例えばアントレプレナーの大事な行動としては「志を持つこと」。これは「野心」という言葉と似た響きがありますが、「野心」は「自分が誰かの上に立ちたいからやる」。「志」は「誰かの何かのためにやる」。これは大きな差ですよね。「志」は自分だけでなくほかの人の利も考える"共存共栄"の考え方。例えば海外で工場を起こすにしても、単に安い賃金だから作るのか、それとも地域の人や従業員の、生活や発展をちゃんと考えるのか。それは長い目で見ると大きな差となって現れてくるはずですし、いずれ何かがあったとき時に従業員が助けてくれるかもしれない。これは単なる事業プランというよりは"生き方"の問題です。
──テクニックを学ぶのではなく、"生き方"を見つめ直す。これは単に知識を身につけるよりも難しく、指導する方にも高度なテクニックが必要なのではないでしょうか?
確かに難しいですね。参加者の中には「起業なんてしないから、自分と関係がない」という反応をする方もいます。でもそうではなく、このプログラムで学ぶのは"心の持ちよう"なんです。自分はなんのために、誰のために働いているのか。その基軸を一つ持っておくためのプログラムと思ってほしいですね。
──どんな方を対象にされているのでしょうか?
30~40代ですね。自分の仕事に一区切りつき、これまで身につけた専門分野の知識を活かして何かを行いたい……そういう人に最適ですよ。
アルー株式会社 代表取締役社長、落合文四郎氏。1977年、大阪府生まれ。2001年、東京大学大学院理学系研究科卒業後、株式会社ボストンコンサルティンググループ入社。2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立、代表取締役に就任。2006年4月、アルー株式会社に社名変更し、代表取締役社長兼CEOに |