「第6回 介護作文・フォトコンテスト」の「作文(エッセイ)部門」で最優秀賞に選ばれた四十万由美子さん

公益社団法人 全国老人福祉施設協議会はこのほど、「第6回 介護作文・フォトコンテスト」の受賞作品を発表した。「作文(エッセイ)部門」で最優秀賞に選ばれた、四十万(しずま)由美子さん(53歳・富山県富山市)に話を聞いた。

主任ケアマネジャーとして働く四十万由美子さん

四十万さんは現在、社会福祉法人 光風会「堀川南地域包括支援センター」(富山県富山市)で主任ケアマネジャーとして勤務。介護予防支援や地域のケアマネジャーの支援、地域と関わる仕事をしている。

受賞の知らせを聞いて「思ってもないことで驚いています。作品賞と聞いていて、通知をみたらそれに最優秀賞と聞いてもっとびっくりしました」と話す。

仕事柄コンクールのことは以前から知っていた。たまたま今回の募集を見かけたときに、ずっと自分の中で信念として持っていたエピソードが一致した。あのときの場面を「何かことばにできないか」と思ったという。

ほぼ寝たきりの認知症女性とのエピソードを作文に

「女性は、胸に手を当て、顔をしかめているように見えた」(写真はイメージ)

作文で語られるのは、四十万さんが介護の仕事を始めたばかりの頃の出来事。認知症がありほぼ寝たきりの女性の家を、臨時で初めて訪問した。介護者が外出しているあいだ、おむつ交換、清拭と見守りをするのが四十万さんの仕事だった。

先輩には「いつも寝ているし話もできないから、心配することない」、女性の家族には「手をいろいろ動かすかもしれないが遊んでいるだけだから気にしないで」と言われていた。

終了時間にさしかかったとき、手を宙で動かしていた女性が、胸に手を当て押さえる仕草をしていた。顔をしかめているように見えた。「苦しいの?」。四十万さんは、女性が自分で胸をさすっているのに気づいた。

「さすれば楽なのか? 私はいろいろな想像をめぐらせながらも本人の衣類を緩めその胸をそっとなで始めた。大丈夫? 苦しくない? 何を聞いても答えてくれない。帰ってよいという時間にはなっているけれど、心配でずっと顔を見つめながらその胸をなで続けていた。ほどなくして、ずっと閉じていたその目がそっと開き私を見る。そして唇が動いた。

『あんた、いい人やね』」

話せないはずの女性からの言葉。「話せないんじゃなかったの?」という驚きとともに感じた。「私のしたこと、少しは喜んでもらえたの?」

「あんた、いい人やね」(写真はイメージ)

四十万さんはその後も仕事をする中でこの場面が何度も脳裏に浮かぶのだという。「あの場面がなければ今の自分はない。自分が介護の仕事を続けるきっかけになったできごとです。心の糧になっています」と語る。

作文の中でも四十万さんはこう綴っている。「時には自分の無能さに嘆き、心ない言葉に傷つき、やるせない気持ちになったことも少なくない。そんなとき必ずあの声が聞こえてくる。『あんた、いい人やね』」

介護の仕事の魅力を聞くと「利用者さんの笑顔かな」と即答。普段の仕事で心がけているのは、「"相手のために"するのではなく、相手の立場に立つこと」。

作文の最後はこう締めくくられている。「私は、自分の脳裏にあるその光景を励みに、自分ができる精一杯のことをしていこうと自分を奮い立たせている。そしてこれからも、多くの仲間に支えられて、たくさんの利用者さんに関わらせてもらって生きていく」

四十万さんに、次回コンテストに応募する人にメッセージをもらった。「何か特別なエピソードがないと応募できないというわけではない。みんな何か一つはこれまでに頼るものやよかったなという出来事がある。そういうことを思い出すような機会になると思います」。

"心に残る介護エピソード"がテーマ

このコンテストは、"心に残る介護エピソード"をテーマとした作品を7月から9月にかけて募ったもの。「作文(エッセイ)部門」のほか、「短文(ポエム)部門」「フォト部門」の受賞作品が選ばれた。受賞作品・受賞者はコンテストサイトで発表されている。