今回の実証実験は、衛星測位利用推進センター(SPAC)とソフトバンクテレコムが経済産業省による2013年度「準天頂衛星システム利用実証事業」に係る補助事業に共同申請し、これが採択されたことを受けて行われたものだ。

ではなぜ、ソフトバンクはこのプロジェクトに参加するのか? その狙いをSPACのDプロジェクト推進担当部長でもあるソフトバンクモバイル 情報システム本部 システムサービス事業統括部 新規事業準備室 観光立国・地域活性化推進担当 室長 永瀬淳氏に聞いた。

同社が「みちびき」のプロジェクトへの参画を開始したのは、2008年の終わりのことだという。まだiPhoneは発表されていなかったが、社内ではタッチパネルを利用した携帯電話が登場したら、どうライフスタイルを変革できるかを検討していたという。当時は、一般の携帯電話にもGPS機能が搭載され始めており、今後、GPS機能が広く普及することが見込まれていた。そこで同社は、タッチパネルとGPS機能を組み合わせて利用できるアプリ「ふらっと案内」の提供を始める。

SPAC Dプロジェクト推進担当部長 および ソフトバンクモバイル 情報システム本部 システムサービス事業統括部 新規事業準備室 観光立国・地域活性化推進担当 室長 永瀬淳氏

「それまでは、行きたい場所をユーザー自らが検索するというスタイルが一般的でしたが、GPSで自分の場所がわかっているのであれば、ユーザーが検索しなくても、今いる場所の周辺のスポットを案内することが可能ではないかのかと考えました」と、永瀬氏は「ふらっと案内」を提供した背景を説明する。

また、「ふらっと案内」はビジネス領域での活用も視野に入れられていた。

「位置情報のログがわかれば、マーケティング分析に利用できるのではないかとも考えました。市場にはすでにポスレジデータなどがありますので、これらのデータと位置情報を組み合わせれば、広告のあり方、メディアのあり方、マーケティングのあり方がまったく変わってしまうのではいかと思いました」(永瀬氏)

ただ、こうした利用に際して、GPSの精度が大きな問題となったという。

「当時のGPSは、数百メートル単位、場合によっては1,000m、2,000mの単位でズレていました。これだけズレるのでは、GPSの活用は時期尚早だなと思いました。そんなときに出会ったのが『みちびき』です。また、我々は屋外だけでなく屋内にも注目しており、屋内と屋外がシームレスに連携できるものを探していました。『みちびき』にはIMESもあり、これはジャストフィットだと思いました」(永瀬氏)

筆者が今回参加したのは3回目のツアーだったが、過去2回のツアーを終えての感触をどう感じているか。これについて同氏は、「今回の実験では、最先端技術が観光面で役立つことがわかりました。すでにツイッターが盛り上がっており、実証実験のARを攻略するサイトも立ち上がっています。種子島には鉄砲や宇宙センターという観光資源がありますが、観光資源がなくても今回のシステムは利用できます。こういったことに利用できることがわかれば、ゲームやアニメの作り方も変わると思います。今回の種子島では最先端の3DARのショーケースを示すことができたと思っています。すでに視察したいという依頼を多くの自治体から受けています」と述べた。

島内にいたるところにのぼりやポスターがおかれ、島をあげてイベントを盛り上げようという姿勢がうかがえた

また、準天頂衛星システムを実用化する目処について同氏は、「すでに実用段階にあると思います。2年前にも網走で実証実験を行いましたが、そのときの問題は受信機でした。それまでは『みちびき』からどう発信するかということに注目していて、その信号を正確に受信する視点が抜けていました。今回利用する受信機は、当時の10倍の性能を持っています。実験範囲も種子島全体と広範囲で行っており、ほぼ実用段階にあると思います。あとは、『みちびき』が4機体制になることです」と、語った。

今回の実証実験で利用された受信機「QZPOD」は横50×縦80mm程度の大きさだが、実用化にあたりこれを一般のスマートフォンに内蔵していく上で、技術的、コスト的な課題はないのだろうか?

これについて永瀬氏は、「すでにみなさんがお持ちのiPhoneでもみちびきの信号を受信可能です。ただ、BIOS上の設定で利用できない状態にあります。その設定をONする権限を持っているのは、米国政府とNASAです。そこで『みちびき』での実験データを積み重ねて、両者に利用できるようにお願いするつもりです。今回の実証実験ではそうした狙いもあります」と説明した。

では、準天頂衛星システムが実用化された際、ソフトバンクはどういったビジネスを展開するつもりなのだろうか? これについて同氏は、「我々は行動分析を生業にしていますが、『みちびき』の位置情報を利用すれば、街単位やビル単位の広告が成り立つと思います。また、安心・安全の分野でも利用できると思います。さらに、『みちびき』は正確な時間も取得できます。正確な時間と位置はインフラになります。受信機をトラクターなどの農機具に搭載すれば無人運転が可能になり、夜中でも収穫できるようになります。日本の農業は、大規模化と後継者が課題となっていますが、それが解決できるのです。『みちびき』はアジア・オセアニア地域もカバーしていますから、こういったトラクターができれば、それを輸出できます。さらに、『みちびき』がカバーするエリア以外のユーザーが興味を示したら、種子島から新たな衛星を打ち上げればいいのです。こういったことは、トラクターだけでなく、ありとあらゆる分野で実現できます。そうなれば、日本のメーカーの競争力も高めることができます。ソフトバンクでは、そういったビジネスを目指しています」と語った。

安心・安全面では山岳・森林地帯での遭難者の救出でも衛星による位置測位は期待できる。写真は永瀬氏が所有していたiPhoneを衛星電話として利用できるジャケット

「みちびき」を利用した民間での実証実験

準天頂衛星システムが実用化されれば、さまざまな新規ビジネスが期待できそうだ。