オフィスに設置するプリンターといえば大型複合機というのが一般的なイメージであろう。しかし、近年はビジネス向けプリンターとして各社からさまざまなスタイルのものが登場しており、大型複合機に固執する考えは古いものとなりつつある。これからは、オフィスの規模や仕事の仕方にあわせてジャストサイズのものを選択する時代。今回は、SOHO/SMBなどの中小企業にとって最適なプリンターについて考えよう。

大型複合機は本当に必要なのか

オフィス向け大型複合機は、過去をさかのぼってみると大型コピー機がその起源となる。文書を複写するだけのコピー機にFAX機能が搭載され、PCの普及と時を同じくしてプリンター機能も搭載された。

一昔前はコピー機やFAX端末、プリンターなど、バラバラであった機器を1台に集約できる大型複合機という存在は、非常に便利で使い勝手が良かった。

しかし、現在ではコンパクトで高性能な複合機が多く登場し、SOHOなどの小規模オフィスでは必ずしも高いリース費用を支払って大型複合機を導入する必要がなくなってきている。

特に、「コピーやFAX機能をあまり使わない」、もしくは「使った場合でも大型コピー機ならではの高速性を求めていない」という状況では、大型複合機はオーバースペックとなっている可能性は高いように思われる。

次の章から、実際に大型複合機とオフィスプリンターのスペックなどを比較してみよう。

大量給紙や複数用紙サイズの常時セットは必須?

大型複合機の下部は給紙トレイになっているが、「A4」「B4」「A3」と複数の用紙サイズをセットするためには、サイズ分のトレイが必要になる。たとえば多段トレイを搭載した複合機としては比較的コンパクトなキヤノンの「imageRUNNER ADVANCE C2218F-V」は4段、リコーの「imagio MP C1800」は3段のトレイが用意されている。

キヤノン「imageRUNNER ADVANCE C2218F-V」

リコー「imagio MP C1800」

しかし中小企業の場合、こうした多段トレイを使い切っているケースは少ないのではないだろうか。書類の多くがA4サイズに統一されている現状では、図面や大判の写真プリントに利用されるA3サイズがたまにある程度であろう。A3サイズもセットしているものの「あまり利用しないから、紙の補充は年に1度程度」という状態では宝の持ち腐れといえる。

もちろん、それぞれのトレイに異なる用紙サイズを設定する必要はなく、全てのトレイにA4サイズを給紙して大容量トレイとして扱っても良いわけだが、そこまで大量印刷を行わないというオフィスも多い。もし、自社のオフィスがこのケースに当てはまるのであれば、コンパクトな小型複合機が視野に入ってくることだろう。

ここまでの条件を踏まえると、「A4用紙を百枚単位で給紙できる」「A3サイズなどの大型サイズもセット可能」な小型複合機が挙げられる。1~2段のトレイを持ち、A3サイズのプリントやスキャンにも対応するモデルでは、OKIデータの「MC852dn」が選択に入ってくるだろう。

また、この規模になるとインクジェット複合機も視野に入れたい。エプソンの「PX-1700F」や、ブラザーの「MFC-J6970CDW」はインクジェット機ながらA3対応、2段トレイとオフィス向けの条件を満たしている。

1枚あたりの出力コストはビジネスインクジェットが強い

ランニングコストもプリンター選びでは重要な要素だ。A4サイズ1枚を出力する際に、インクやトナー部分のコストを考えた場合、より低コストといえるのはビジネスインクジェットプリンターだ。

モノクロプリントでは、どちらも2~3円前後と大きな差は見られないが、カラープリントの場合は事情が異なってくる。

先に挙げた小型機同士の比較では、OKIデータ「MC852dn」が、カラー1枚あたりコストで約14.1円。一方、インクジェット機であるキヤノン「PX-1700F」は約7.3円、ブラザー「MFC-J6970CDW」にいたっては約6.6円と圧倒的な低コストを実現している。

たかだか数円とは思うかもしれないが、月間で数百枚をプリントするオフィスプリンターは、寿命を迎える数年後までに1万枚を優に超えるプリント量に達する。

OKIデータ「MC852dn」とブラザー「MFC-J6970CDW」では1枚あたりのカラー印刷コスト差は7.5円。月間100枚のカラー印刷を前提とした場合、月間で750円差、年間で9000円となり、非常に大きなランニングコスト差が生まれている。

OKIデータ「MC852dn」

ブラザー「MFC-J6970CDW」

また、消費電力について大きなコスト差が生じている。OKIデータ「MC852dn」の場合は、動作時の平均消費電力が700W、待機時の最大消費電力が160Wとなっている。パワーセーブモードで待機させた場合でも、最大25Wとなっている。

一方で、エプソン「PX-1700F」は動作時の平均消費電力が約20W、待機時の最大消費電力が約7.2W、スリープモード時で約4.4W。ブラザー「MFC-J6970CDW」はコピー動作時の平均消費電力が約30W、待機時で約5W、スリープ時はわずか約1.5Wとなっている。

エプソン「PX-1700F」

このように、消費電力についてもインクジェット機の方が桁違いに低コストで抑えられる結果となった。

プリンターの利用頻度が比較的少ない中小企業では、特に待機消費電力の違いがランニングコストの大きな注目ポイントとなっている。

FAX機能やプリンターとして思い立ったタイミングで使うことを考えると、使わない時に電源を切っておくというわけにはいかない事情もある。1枚あたりのプリントコストと待機消費電力が低いビジネスインクジェットプリンターは中小企業にとって魅力的な選択肢といえるだろう。

印刷速度も機種によってはいい勝負

印刷速度については、トナーでプリントする大型複合機の方が勝る部分もある。高速機であるOKIデータ「MC852dn」は、1分あたりカラーで22枚、モノクロで34枚の出力が可能だ。

しかし、ほかの大型複合機であるキヤノン「imageRUNNER ADVANCE C2218F-V」やリコー「imagio MP C1800」はカラーとモノクロは共に1分あたり18枚の印刷速度にとどまる。

インクジェット複合機では、これまでも触れてきたエプソン「PX-1700F」がカラーで1分あたり約8枚、モノクロで約15枚とやや劣ってしまうものの、もう一方のブラザー「MFC-J6970CDW」は、カラーで1分あたり約20枚、モノクロで約22枚と、機種によっては大型複合機もしのぐ印刷速度となっている。

ADFや自動両面スキャン機能などの各社独自機能をチェック

大型複合機に小型機がかなわないポイントといえば、単純なプリントやコピー機能以外の特殊機能だ。特にセキュリティ機能については複合機の方が強い。

本体に大容量ストレージを搭載し、データを一時保存して使うことが前提になっているため、さまざまな機能を搭載しているのだ。たとえばOKIデータ「MC852dn」は、オプションでICカードリーダー/ライターを取り付けることができ、印刷データを送った本人しかプリントできないようにすることができる。

また、キヤノン「imageRUNNER ADVANCE C2218F-V」はファイルの暗号化が可能で、スキャンした原稿を複合機本体でパスワード設定ができる。このため、不正閲覧を抑止でき、情報の機密性を高めることができる。ほかにも大型複合機では、大量にスキャンしておいたデータを一時保存し、本体ディスプレイ上でページを選んで必要な部分だけプリントする機能や、複数ページを組み合わせて1枚にまとめてプリントするといった機能も多くのマシンが搭載している。

キヤノンのファイル暗号化機能

一方で、インクジェット機が得意とする機能では「縁なしプリント」がある。また、デジタルカメラやメモリーカードからのダイレクトプリントや、スマートフォンからのプリント、クラウドサービスとの連携といった機能はインクジェット機の方が得意なようだ。特に、ブラザー「MFC-J6970CDW」は、独自のクラウドサービスではなくDropboxやEvernoteなどの主要サービスとの連携も可能で、スキャンしたファイルをクラウドに保存するといった作業をプリンターだけで簡単に行うことができる。

ブラザーのクラウドサービス連携

家庭用のインクジェット機とビジネス機を分けているのは、複数の紙を自動で一気にスキャンしてくれるADFや、両面印刷機能だろう。ADFについてはセットできる枚数も重要な要素。リコー「imagio MP C1800」やキヤノン「imageRUNNER ADVANCE C2218F-V」は50枚のセットが可能だが、インクジェットのエプソン「PX-1700F」は30枚、ブラザー「MFC-J6970CDW」は35枚と、ここでは大型複合機に分があるようだ。

ADFについては、「両面自動読み込み対応/非対応」や「ADFで読み取れるサイズ」「両面印刷の対応サイズ」もチェックポイントだ。たとえばエプソン「PX-1700F」はスキャンとプリントの両方でA3サイズに対応するが、ADF(両面)についてはA4サイズのみ、自動両面印刷についてもA4サイズ以下のみとなっている。逆にブラザー「MFC-J6970CDW」は、ADF(両面同時スキャン)と自動両面プリントの双方でA3サイズ対応となっている。

オフィス事情に合わせたプリンターの導入を

今回は大型複合機と比較したため、インクジェット複合機もA3サイズに対応する高機能な製品を取り上げたが、実際にはオフィスによって様々な要求があるだろう。

例えば、会社全体では大型機の性能が必要と判断した場合でも、事業部門ごと、拠点ごとで利用実態を精査すると必要なプリンター変わってくる場合も多いだろう。大企業であっても、全社で同じものを導入するのではなく、必要に応じてビジネスインクジェットプリンターを併用すると、大きなコスト削減に繋がるかもしれない。