国外マーケットへの注目が高まる中で「グローバル人材の育成」が各企業の課題となっています。また、これを読んでいる方の中にも、海外市場を相手にしたビジネスに関わっている、もしくは今後関わる予定があるかもしれない……そういう方は多いのではないでしょうか。しかし、ニーズは感じているものの、その育成に対する取り組みはまだまだ企業により差があるようです。

今年創業10周年を迎えた「アルー」は、現在海外5ヶ国に拠点を持ち事業を展開するなど「グローバル人材育成」という分野において急成長を遂げている企業。若きリーダーである落合文四郎社長に、グローバル人材育成市場、そして「今、グローバル人材に必要なこと」をお伺いしました。

アルー株式会社代表取締役社長、落合文四郎氏。1977年、大阪府生まれ。2001年、東京大学大学院理学系研究科卒業後、株式会社ボストンコンサルティンググループ入社。2003年10月、アルー株式会社(旧:株式会社エデュ・ファクトリー)を設立、代表取締役社長に就任。

グローバル人材の育成が不可欠なのは明白

──起業から10年で成長を遂げたアルーですが、そこには「人材育成」というものに対する市場とニーズが大きく関係していたのではと思います。まず、現在の人材育成市場に関してお伺いできますでしょうか?

実は教育市場というものの規模自体はずっと変化していないんです。しかし時代の流れや流行により、その中身が変化していく……というのが現状です。大体3~5年周期でその動向というのは変化しています。例えば2000年頃から「コーチング」という言葉が出てき始め、国内でMBA取得を取得しよう……という言説も、もう少し前からの流れでありました。

最近で言うと、2007年頃から新人の大量採用に伴って「新人育成」が注目されました。これには理由があり、新入社員の指導役である先輩社員、いわゆる「OJTトレーナー、チューター役」を行うべき世代の社員はいわゆる「就職氷河期」の採用。要は圧倒的に人員が足りないんです。そのため、新人教育をアウトソーシングする形になり、教育市場でニーズが生まれていった。

今現在で言いますと、2010年頃から「グローバル人材」のニーズが高まっています。この「グローバル人材育成」は、国内企業でもメーカーは1960~70年から積極的に行っていました。しかしメーカーでも主に「海外の現地工場」への対策、現地の人材を管理する人材の育成が中心であったのに対して、今では海外を「マーケット(市場)」としてきちんと捉え、市場を開拓する、あるいは、現地と共存共栄して勝ち抜く、そんな視点が求められています。また、メーカー以外にもさまざまな職種にとって「グローバル人材の育成」が不可欠なのは……もう言う必要もないと思います。

──グローバル人材育成のニーズが高まった、何か具体的なきっかけはあったのでしょうか?

人口減少によって国内消費・市場の減少が見込まれた、ということがまず大きな原因です。直接的ではないにしろ大きな変革だったと私が思うのは、ファーストリテイリングの柳井正さんと、楽天の三木谷浩史さんが社内の公用語を英語にしたこと。賛否両論はありましたが、世間がグローバル人材の必要性について考えるきっかけとなったと思います。また、様々な企業内でも「グローバル人材の育成は必要なのでは?」という議論を起こすきっかけになった。そういう意味ではすごく象徴的な出来事だったのでは、と思いますね。

──御社の成長の理由は、そういったニーズを的確に先読みされたのが大きかったのでは、と思います。

意識的に準備は行いました。2009年に初めて中国に進出したことが結果的に成功となりました。製造拠点から世界が注目する市場へと発展を遂げる中国、経済や企業が成長する、その過程には、人材育成のニーズがあります。

「海外派遣研修」プログラムは"異文化"体験

──御社ではさまざまな形で「グローバル人材」を育成するプログラムを用意されていますが、その代表的なものに「海外派遣研修」が挙げられると思います。この内容に関してお伺いできますでしょうか?

「本当に異文化を受容するためには、現地に行って心の変化のプロセスを自分自身で知ることが必要」アルー株式会社代表取締役社長 落合文四郎氏。

一言で言うと“百聞は一見にしかず”というプログラムです。現地に行って異文化を肌身で味わい、その時に自分の中で起こる感情、葛藤をどう乗り越えるか。それを体験するのとしないのとでは大違いなわけです。例えば中国で私が驚いた出来事なんですが、現地の人が行くような食堂に行ったんですね。すると周りの人が、食べた手羽先の骨をどんどん床に捨てている。私もそうですが、大半の日本人は驚くし「汚いな……」と思う人も多いでしょう。でもよく考えてみれば、彼らにとってはそれが当たり前だし、掃除をする人もその床をきれいにすることで仕事を得ている。その空間に違和感を感じているのは自分一人なんですよ。

 それってまさに“異文化”体験ですよね。単に頭のなかで“差異”を確認するだけではなくて、心のなかに起きる違和感や拒絶感、そういうのも乗り越えて冷静に「ああ、違うんだな」と受けとめる。これが異文化に対する「受容」のプロセスです。

──それを現地で体験する、というわけですね。

視野を広げるという点ももちろんあります。例えば中国の研修の場合は、清華大学や北京大学の学生を集めてディベートをしてもらいます。ディベートは英語で行うのですが、初日はまず大半の人が打ち負かされます。そういう中国の優秀な学生たちは大半が日本語も喋れるんですよ。その現実を日本人受講者が目の当たりにして、そこでまた、さらに精神的に打ち負かされるんですが(笑)。

そんな体験をすると、大体次の日には「彼らに太刀打ちするためには準備をしておかないと」と意識が変わります。「なんとか彼らと議論ができるようになろう」とさらに準備をしてやっと議論ができるようになっていくわけです。自分の中で“いい失敗体験”と“いい成功体験”を得ることができる、これは非常に価値が有ることだと思います。現地に行くからこそ知ることができる、そんな経験が詰まっている研修です。

──主にどんな方がターゲットなのでしょうか?

これは、若手にこそ受けて欲しい研修ですね。今すぐではなくても、ある程度キャリアを積む中で海外をターゲットにした仕事を任されることも今後は増えてくるはず。そんな時に、この時の経験は役立つのではないでしょうか。将来のグローバル人材の候補を育てるための研修、そう言ってもいいと思います。