最先端IT・エレクトロニクス総合展である「CEATEC」には、実際の製品だけではなく、パーツや新技術も多数展示される。その中から、明日のPCやスマートフォンなどで使われそうなものをいくつかピックアップしてみた。
クアルコム子会社の技術とIGZOが合体したシャープのMEMSディスプレイ
従来フラットディスプレイで広く使われている「液晶」は、光の向きを曲げる液晶素子でコントロールしていたが、MEMSで作った「光シャッター」で光をコントロールするのがMEMSディスプレイだ。これに、シャープが実用化に成功しているIGZO半導体を組み合わせたものがIGZO MEMSディスプレイとなる。MEMS(Micro Electro Mechanical System)とは微細なデバイスを作る技術で、半導体製造で使われる微細加工と親和性が高い。
液晶の場合、光の透過度を変えることしかできないので、白色の光源とRGB(場合によっては他の色)のカラーフィルタを組み合わせることで、カラーを表示している。例えば「赤く光る部分」は他の色(三原色で言えば青と緑を)を捨てているので、効率はざっくり3分の1になる。さらに光の向きをそろえる偏光フィルタを通すため、光の有効効率はさらに低くなってしまう。
MEMSディスプレイは偏光フィルタが不要で、バックライトをRGBと順番に光らせつつ、MEMSシャッターを同期してON/OFFするので、効率が非常に高くなる。結果として、同じ消費電力でも明るい表示、あるいは同じ明るさでも省電力というわけだ。また、IGZO半導体はリーク電流が少なく、シャッターがON/OFFする瞬間以外の消費電力が少ないので、これも省電力化につながる。
それを意図してか、フルカラー表示とモノクロ(2値)表示で電力効率が異なるデモを行っていた。モノクロ(2値)ならば、理論的には表示の明るさに合わせてバックライト輝度を調整した上で、表示画素のシャッターを開けっぱなしにすればよいので、非常に効率的。表示品質と高効率省電力を両立させるIGZO MEMSディスプレイは、さらなるフラットディスプレイの進化を予感させる。
低抵抗で大画面表示に向くカンブリオスの透明電極材料
液晶や現在研究開発中の有機EL光源には「透明電極」が不可欠だ。また、スマートフォンやタブレットのタッチパネルも、その多くが静電誘導タイプのタッチセンサーを使っており、これにも透明電極が欠かせない。
長らくこの透明電極材料には「ITO」(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)膜が使われていたが、特にタッチセンサーの場合、大画面化とハイレスポンス化のためには電極膜の抵抗値を下げる必要がある。ITO膜の低抵抗化は難しく、さらにITO膜の主成分となるインジウムはレアメタルで、需給バランスの問題がある(近年、世界最大のインジウム生産国は中国、世界最大の消費国は日本)。
そこで本題の米カンブリオス・テクノロジーズだ。同社は透明電極材料として「銀ナノワイヤー」を使用した「ClearOhm」を製造している。非常に細長い銀線を液状に分散させ、塗布、乾燥することによって、ランダムに積み重なったワイヤ接触で導電性が得られるというものだ。
CEATECに合わせて同社CEOのジョン・レモンチェック氏が来日し、「A Touch of Silver」と題した講演を行ったほか、報道機関向けの説明会を行った。それによると、透明電極材料としてITO以上に抵抗が低く、透明性の高い素材には、銀ナノワイヤとメタルメッシュがあるという。しかし、メタルメッシュは液晶パネルに合わせた設計を行わないと、干渉によるモアレパターンが出る難点がある。
現在、カンブリオスの製品ターゲットは、ITOでは実現しにくい大サイズタッチディスプレイであり、最新の利用事例としてレノボの20型オールインワンPC「Flex 20」(日本では未発表)に採用されたという。
ClearOhm製品のいわば「原液」(写真左)。これを塗布乾燥させることで導電膜を形成できる。乾燥温度も130度程度と低く、プラスチック素材への直接加工も比較的容易とのこと(写真は2013年4月のもの)。ClearOhmは、銀の細いワイヤー同士の接触で導電性を得る(写真左、2013年4月のもの) |
ClearOhmの性能面での優位性は、オールインワンPCやノートPC用として望まれる、低抵抗で高い透明性を維持できることだ。同程度の性能を持つメタルメッシュには規則性があるため、モアレパターンが生じないようにパネルごとの最適化が必要だが、ClearOhmなら不要とのこと |
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