吉村眞由美氏

SNSなどのプロフィールに似顔絵を設定している人が増えています。人となりをさりげなく伝え、親しみやすさをアピールできるツールとして似顔絵はうってつけ。しかし、なかなか上手く描くことができないと思っている人も多いはず。そこで、似顔絵検定1級合格者で、公認似顔絵師の資格も持つ吉村眞由美さんに、似顔絵描きの魅力やポイントを聞いてみました。

「お腹の赤ちゃんの顔を描いて」―――感動の似顔絵体験

――吉村さんは"公認似顔師"ということですが、それはどんな資格なのでしょうか

「はい。似顔絵検定協会が行っている似顔絵検定の1級に合格しまして、公認似顔絵師という資格を頂きました。そうした肩書きも活用して、カルチャーセンターで似顔絵の講師を務めたり、企業イベントでお客さまに似顔絵を描いて差し上げたりしています。もちろん、お客さまから直接に似顔絵のご依頼もお受けしています」

――似顔絵の魅力とは?

「絵に興味がある人ない人を問わず、万人に受け入れられるのが似顔絵。似顔絵のあるところに人々の笑顔が生まれます。単純なようで奥が深く、ごまかしがきかない絵であることも似顔絵の魅力ですね。それから、パフォーマンスとして描けるのも私にはとっても合っていると思います」

――パフォーマンスと言いますと?

「私が似顔絵を描き始めたのは小学2、3年生の頃。中学生になると、スターの似顔絵を描いては芸能雑誌に投稿したりしていました。雑誌に私の作品が何度も掲載されて学校でも評判になり、友達の顔を描いてあげて仲良しになったり。似顔絵にはそういう良さがあるんですね。退職する校長先生の顔を描いてあげたこともあります(笑)。

それから、東京に出てきて、お客さまに似顔絵を描いて差し上げる仕事を始めて2日目のことですが、とても思い出深い経験をさせていただきました。

会場の似顔絵ブースに妊娠中のご婦人がいらしてお腹の子供の似顔絵を描いてくれとおっしゃるんです。びっくりして、『直接お顔を拝見しないと描けません』と答えると、『顔は私の夢の中に毎日出てきますので、説明いたします』と。

よくお話を聞くと、そのご婦人の旦那様、つまり赤ちゃんのお父さんが余命宣告されており、生まれてくる我が子に会えないかもしれない。だから、命のあるうちに、似顔絵で我が子を見せてあげたいとおっしゃるんです。そういう事情なら微力ですが協力しますとお引き受けいたしました。

旦那さまの写真とご婦人の顔を合成するように、夢の中で見たという赤ちゃんの顔を描きあげました。ご婦人は感動に涙を流しながら何度も何度もお礼をおっしゃって帰られました。似顔絵の持つ力ってすごいなと教えられました」

似顔絵描きに大切なのは人間観察力と対象への愛情

――似顔絵を上手に描くコツってありますか?

「私は直感で描くタイプなので言葉にするのはとても難しいです。落書きみたいな描き方なら、ポンと目に飛び込んできた部位を大げさに描く。きっちり描くなら、眉、目、鼻、口といったパーツの配置バランスを間違えないようにするということでしょうか」

――描きやすい顔、描きにくい顔というのは?

「吉永小百合さん、竹内結子さん、長谷川京子さんなど、"美形"は描きにくいですね……。似顔絵は、平均から外れた顔の造作を強調することがポイントなので、整いすぎた顔は描きにくいんです」

――その人の持っている雰囲気とかも反映するのですか?

「そうですね、雰囲気をタッチで伝えるようにいたしますね。明るく元気な方ならコミカルに、静かな方なら大人しい感じのタッチにするとかですね」

――似顔絵検定に挑戦するとしたら、どんなことを心がけたらよいでしょう?

「カラオケで高得点を目指すのに似ていると思います。正確さ+アレンジですね。誇張は似顔絵の大切な要素ではありますが、検定受験の場合に限ってはあまり誇張しすぎない方がよいかもしれません。また、検定は6級から1級までランクがありますが、上級にチャレンジするなら世相を風刺できるような知識も頭に入れておくとよいと思います。

検定に合格すると自信につながりますし、プロへの道が開けたりもしますね。前にも申し上げましたが、準1級、1級を取得すると、似顔絵検定協会から公認似顔絵師となるチャンスが与えられます」

――プロでなくとも、ブログなどに自分の似顔絵を使ったりするのは楽しいですよね。

「はい、でも自画像ってどんな美人を描くより難しいです。あっ、私がとびきりの美人という意味ではありませんよ(笑)。自分の顔は写真や鏡でしか見たことがないので客観視ができない、だから難しいんです。

似顔絵は顔かたちの模写ではありません。そこが肖像画と違うところです。顔かたちに表情、体型、性格、声、しぐさといった雰囲気が加わってその人が形成されているわけで、似顔絵はそれらをトータルに表現していきます。ですから人間観察力が問われますし、対象を愛情をもって描くこともとても大切だと思います」

profile
吉村 眞由美(よしむら まゆみ)
日本似顔絵検定協会1級、公認似顔絵師。2004年に上京し、似顔絵師派遣プロダクションに所属し本格的にプロデビュー。その後、フリーランスとなり、新聞、書籍、食品パッケージなどへ似顔絵イラストを提供するほか、通信教育やカルチャー教室の似顔絵講師を務めている。